第7話[最強のスキルツリー選択]
◆
ルーレンサを抜けてさらに西に向かって行くと、レベル上げをしていた時に見えていた次の街が目視できる。
ルーレンサの周辺は暗めの森のようなフィールドだったが、対してその先は開けた草原が広がっていた。草原に出るとモンスターがまばらに目につくが、プレイヤーの数は明らかに今までの狩場よりは少ない。
【フラリム南草原】
草原の間にある街道に沿って次の街へ向かう最中、今までに見たことのない飛んでいるモンスターや、大型のモンスターを狩っているパーティーを見かけて新しい場所への興奮を隠せない。
しかしながら今は次の街へ安全に向かう事を目的としている。ルーレンサの倉庫から持って動かせる30枠分のアイテムを目一杯積んでいるからだ。モンスターに倒されると、経験値と金、その他に消費アイテム類がロストする。30枠満タンの状態で死ぬわけにはいかず、かつてなく慎重に道を進んでいる。
幸い街道沿いにはモンスターは湧かないようなので、もうすぐ平和に街に着けそうだ。
このペースでいくと、ルーレンサと次の街の間は30分程度はかかる感じか……かなり遠く感じる。
重量ギリギリの荷物をインベントリに詰めて、のしのしと街道を進んでいると先ほど見かけた大型モンスターを引っ掛けたプレイヤーが逃げ惑ってこちらへ走ってくる。草原の岩に擬態しているゴーレムのようなビジュアルのモンスターだ。って解説してる場合じゃない! こっちに持ってくるな!
モンスターは一定の範囲に入ったプレイヤーに気づいて襲ってくる。それぞれに感知範囲や、そもそも手を出したプレイヤー以外にはヘイトを向けてこないモンスターもいるが、このゴーレムがどのような挙動をするか俺は現状一切とて知らない。とにかくこっちに来るな、そこのプレイヤー。すまんが一人で倒されてくれ。
言った時にはすでに遅く、そのプレイヤーは20m程度先でゴーレムに倒された。
・セイントゴーレム
モンスターに注視されると、自分の目の前に広がるインターフェースに一瞬だけ揺れるような挙動が現れる。
つまり、ゴーレムにこちらを向かれたということだ。まいったなぁ……。というか、なにが「セイント」なんだろう。普通のゴーレムじゃねえか。
選択肢は二つだ、見えている街までダメージを受けつつ走り、安全地帯に飛び込む。もう一つは己の力で倒してしまう事だ。
この二つの選択肢を考えているタイミングですでに俺の答えは決まっていた。
「街まで走る!」
ゴーレムの攻撃を受けつつ見えている街の入り口に全力で走る。現実ならばすでに息が切れて倒れているところだが、今の俺は現実より圧倒的に体力がある!
ゴーレムの攻撃を回避しながら走るが、衝撃のダメージでじわじわと削られて行く。
HPが20%を切り、目の前が若干赤い世界になる。焦りこそあったが振り返らずに最短距離で街の入り口を目指した。
「ぜぇ……はぁ……」
体力が現実よりあるだけで、息切れの感覚は襲ってくる。街の安全地帯との境を越えると、ゴーレムは草原へ回帰していった。
今回は、俺の計算勝ちって事で。
◆
【フラリム】
分岐点の街フラリム。2つ目の街だ。この街からいくつかの方向に枝分かれして、また別の土地へ続いているようだ。
フラリムに並ぶ家々は、派手な原色の赤色や青色が目立つ、西洋風石畳の街のようだ。建物も低めで、市場がずらりと並んでいる。ルーレンサは窓のない石造りの家ばかりだったので、打って変わって木造の建物は目新しい。
その木造の建物が円のように囲う南側の広場で、一際目立って人々が集まっている場所があった。それは一人のNPCで、頭上には【!】のマークが出て見える。
「なんだ……? クエストか?」
と呟いてしまうが、すでに頭上テキストが出ない設定へ変えてあるので問題ない。ほとんどの人が切ってるようだしな。AIが採用した無駄機能ってわけだ。
混雑している人をかき分け、NPCにアクセスしてみる。
【スキルツリーシステムが解放されました】
システム解放の表示が出て、一瞬だけNPCが何かを話そうとするが挙動がどうにもおかしくまた棒立ちに戻る。あまりにアクセスされすぎておかしくなっているのだろうか。NPCよ、頑張れ。
なんだか頑張っているNPCが可哀想になり、少し離れてスキルツリーのインターフェースを開く。
上部から下向きにツリーが伸びていくタイプのスキルツリーだ。
初期に選べるだけでも数十のスキルがある。
[PVP防御力上昇]、[毒耐性上昇]、[氷属性耐性上昇]などの特殊防御系のスキルから、[フィールド採集速度上昇]、[死亡時アイテム消失率減少]、[宝物探知上昇]など生活やトレジャー向けのスキルもある。
1レベル上昇ごとに自分で振るシステムのようで、同じナイトだとしても振り方によってはできる事に差が出てきそうだな……。
「この中の最強スキルは……」
夢中に探している中で、目を引いたスキルがあった。
[所持重量限界上昇]
そしてこのスキルツリーの下に繋がったもう一つ。
[インベントリ最大所持量上昇]
物を集める、集めすぎる癖がある俺にとって一番必要なスキルだ。高難易度のアイテムで解放するものかと思っていたが、スキルツリーの中に入っているとは。
迷わずにスキルを振っていく。[所持重量限界上昇]を一定数振ったあと、続いたスキルツリーの[インベントリ最大所持量上昇]もいくらか振る事ができた。
【最大アイテム所持数が上昇しました】
【最大アイテム所持数が上昇しました】
【最大アイテム所持数が上昇しました】
インベントリの枠が37枠まで増えたが、現在のレベルは17なのでまだまだこの先増やす事ができるだろう。
[所持重量限界上昇]の効果だろうか、歩いた時の重さが少し緩和されたように思える。どうやら最大重量と、所持品の重さの比率で動きの負荷が変わってくるようだ。
他の人が何を振っているのか物凄く興味が出てきたな。この前パーティーを組んだ人たちに連絡をとって聞いてみるか……それともギルドに入るか。
少し身軽になった全身鉄の甲冑ナイトの俺は、慌ただしく人々に囲まれているNPCを横目にフラリムの街を探索しに向かった。
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