第37話望んでいない断罪(マイロ視点)

「ソバタ、自分の口からはっきり言うと良い」

彼は、「えっ」と言うなり私を見た。

私が告げ口したと思っているのだろうか。


「なっ…えぇ…?」

その上、思いっきり慌てている。


「ソバタ、実家に帰って結婚すると聞いた時は驚いたな。私がお前たちの仲を知らないとでも思っていたのか?」

「そんなの、僕の……。旦那様にプライベートなことまで言われたくありませんが!?僕が誰と添い遂げたって、旦那様にとやかく言われたくありません!」

そう言って、ふうふうと肩を上下させた。


「あのな」と旦那様は言う。いたって冷静である。

「それはどうしようがお前達の勝手だ。だが、道理というものが通っていないだろう。結婚するならするで、なぜ今まで黙っていた?」


(それは私もモヤついたことだけど…)


旦那様はキッパリと言った。

「お前のやっていることは浮気だ。マイロだけじゃない、相手の娘にも知れていいことか?」

ソバタはそれでも食い下がる。

「別に…僕が浮気しようが…旦那様に関係ないでしょう」

「いや?大ありだな。言っておくが、この屋敷の中でお前達が恋仲だと知らない者はいないぞ。リリアでさえ最近気づいたらしいからな」

「えっ!?」と言って全員を見渡している。みんなが冷ややかな視線で彼を見た。

「当然、みんながマイロと結婚するものだろうと思っていた。が、辞めて地元の娘と結婚するだと?つい最近までマイロと関係を続けていながら?我が屋敷にその様な不義理を働く者は必要ない。時期を待たず今すぐ出ていくと良い」

「分かりましたよ!すぐに出て行きますよ!」

ずんずんとこちらに歩いてきて、私に思い切りぶつかったので転倒した。

「っ!」


それで旦那様が激昂した。

ソバタは思い切り殴られている。

なんだかとても惨めな気持ちになる。


(なにこれ。なんなの。みんなして)


「もうやめて下さい!!!」

気がつくと、私は大声で叫んでいた。

奥様と旦那様とソバタと使用人と…みんなの視線が私に集まる。


「私は…私は……」

息が苦しくて胸を抑えた。


何を思ったのだろう、奥様が私の背中に手を添えた。

「いい?私はね、マイロに幸せになってほしいわ」

「私は、お、奥様と旦那様のお側で仕事ができればそれで良いのです…なぜ、こんなことっ…」


私はこの仕事を誇りに思っている。個を殺し、主人のために勤める、それが私の全てだ。

ただその傍かたわらにそっと恋があっただけ。

こんな断罪望んでいない。


「もう…やめてください…ソバタ…早く帰って。さっさとその娘と結婚すれば良いわ」


みんなが冷たい目でソバタを見送る。

でも、奥様だけは違った。

「待ちなさい、ソバタ」

「奥様まで…もういいでしょう!?」

彼は恥ずかしくて堪らない顔をしている。奥様の方を見もしない。執事としてあるまじき姿である。

奥様は毅然として言った。

「マイロ、あなた、お腹に赤ちゃんがいるのね?」

「は?」


まるで血が逆流するよう。


「て、適当なこと言わないでくださいよ!!!ちがう、そんな事ないよな?マイロ…」

私は俯くことしかできない。

ソバタは激しく叫んだ。


(私だって望んでいないのに。なぜ私が責められているのだろう)

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