第34話 プールの日
約束のプールの日が来てしまった。
俺は待ち合わせ場所として指定された、プールのある街の駅でみんなを待っている。
今のところほかの人はまだ来ていない。ほかに誰が来るのか気にはなったが、なんとなく聞きづらく、結局聞けぬまま今日まできてしまっていた。
一体全部で何人くらいなんだろう。あんまり話したことのない男子が一緒だとちょっと気を遣ってしまうかもしれない。ほかのクラスの男子とかだったら、なおさらだ。
ちなみに、女子とかだったら気を遣うどうこう以前に近寄って話すことさえできないだろう。
……そう考えると、三間坂さん一ノ瀬さんとは別に変な気を遣わずに話せてるのがちょっと不思議だ。
まぁ、あの二人とは色々一緒にやってきたもんな。それによる慣れというやつだろうか。
「高居君!」
俺がこの数箇月の思い出を振り返ろうとしたところで、鈴を鳴らしたような綺麗な声が俺の名を呼んでいた。
なんだろう、この声で呼ばれると俺の名前さえ尊いもののように感じられてしまう。
俺は声の主、一ノ瀬さんに向けて手を上げて応えた。
「一ノ瀬さん、今日はよろしくね」
見れば一ノ瀬さんは、水色の膝丈くらいのワンピース姿だった。清楚な一ノ瀬さんらしい格好で、とても素敵だ。目の保養になるとはこういうことを言うんだろう。
こういう時、「似合ってるね」とか「その服可愛いね」とか言える男がモテるんだろうけど、残念ながら心の中で思っても口に出すほどの根性は今の俺にはない。
「二人とももう来てたんだ!」
一ノ瀬さんとは違う、快活さが詰まったような声が響いた。
言うまでもなく三間坂さんの声だ。
二人は確か同じ方面だから、きっと同じ電車だったのだろう。
こっちに向かってくる三間坂さんは、白のオフショルダーのトップスに、膝上丈の黒スカートという、夏らしく露出多めのコーデだった。前のボウリングの時の私服時は黒ニーソで脚を覆っていたが、今日はシミ一つなさそうな綺麗な脚をこれでもかと全開放している。太ももまで見えてしまっているため、どこを見ていいのか困るというか、ほかの男にも見られるのがちょっと癪に障るというか……。
「それじゃあ、行こっか」
俺達と合流した三間坂さんは、早速プールに向けて歩き出そうとするが、慌てて俺は彼女を呼び止める。
「待って、三間坂さん。まだ俺達3人しか来てないよ。……あ、もしかしてほかの人は直接プール直行だった?」
俺の言葉に三間坂さんは首をかしげて不思議そうな顔を浮かべた。
「高居君、ほかに誰か誘ったの?」
「いや、僕は誘ってないけど?」
「…………?」
俺と三間坂さんは二人そろって相手の言葉を理解できないといった顔で見つめ合う。
ちょっと待てよ。
もしかして本当に三間坂さんは俺達3人だけでプールに行くつもりだったのだろうか?
「……もしかして今日プール行くのは僕達3人だけ?」
「あのライングループには私達3人しかいないんだから当然じゃない。ほかに誘ってほしい女子でもいたとか?」
「いや、そんなことあるわけないじゃないよ。でも、なんとなく三間坂さんがほかの男子とかも誘ってるのかと思ってたから……」
「そんなわけないでしょ! そのへんの男子に水着姿を見せたいなんて思うわけないじゃない! 一ノ瀬さんもそう思うよね?」
「はい、そうですね~」
なるほど。女子的にはそういうふうに考えるのか。男子ならクラスの女子の水着姿なんて絶対に見たいって思うのとはずいぶん違うな。
…………。
ちょっと待てよ。
俺もクラスの男子だよな?
……もしかして、「そのへんの男子」以下の扱いだから気にならないとか、そういうことじゃないよな?
俺としては、その逆であることを切に願う。
……というか、そうでなかったら泣ける。
俺は三間坂さんの真意にもやもやしながら、前を歩く二人の後ろについてプールへと向かった。
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