第35話 水着
プールについた俺達は、男女に分かれて更衣室へと向かった。
一早く着替えを終えた俺は、更衣室の外のプールサイドで二人を待っている。
俺の水着は紺色のゆったりとした短パンタイプの水着だ。学校の水泳の授業で使っていた水着みたいなものだと言えばわかりやすいだろうか。
さすがに中学の水泳の授業で使っていた水着をそのまま持ってきたりはしていないが、俺はこの日のためにわざわざ水着を買いに行ったものの、派手な水着はちょっと恥ずかしくて、地味目なものを選んだ結果、こんなデザインや色のものを買ってしまっていたのだ。
って、俺のことはどうでもいい。正直俺のことなんて誰も見てないだろうし。
それより気になるのは一ノ瀬さんと三間坂さんの水着だ。さすがにスクール水着を着てくるなどというチャレンジングなことはないだろう。俺としては、露出多めのビキニの水着なんかを心のどこかで期待してしまうのだが、正直、俺はプールに来てちょっと驚いていた。
ここはレジャープールだから、いろんな世代の人が大勢来ているんだけど、俺が思っている以上に女の人の水着の露出度が低いんだ。
アニメや漫画でプールといえば、際どい水着のお姉さんがここにもあそこにもいたりするだろうに、現実はそうではなかった。
どう見ても短パンじゃんってやつや、ラッシュガードというのかな?、いやそれもう服と変わらないじゃんって水着の人が多い! 下手すれば普段着よりも露出少ないんじゃね?ってな感じの人までいる。胸の谷間や、股間のくいこみが見えるような水着を着ている女の人はかなり少なかった。
アニメと違って現実のプールにはもうロマンがないのかもしれない……
などと俺が世の無常さを嘆いていると――
「高居君、お待たせ」
一ノ瀬さんの綺麗な声に振り向けば、水着姿の一ノ瀬さんがこっちに向かって歩いてきていた。
黒いビスチェと白と黒チェックのスカート風の水着という、露出度は低いけれども、一ノ瀬さんの美しさを際立たせる水着姿に、俺は思わず生唾を飲みこむ。
見た目は正直、ちょっと露出多めの普段着といった感じで、セクシービキニを期待していた俺には多少なりともがっかりする部分がないこともなかったが、普段の服と違って、この水着の下には下着がないわけで、今の一ノ瀬さんは布一枚の半無防備状態と考えれば、この今の一ノ瀬さんの姿の貴重さは言うまでもない。
「その水着、すごく可愛いね」
夏の陽気のせいだろうか。
俺はそんな陽キャのようなセリフを吐いていた。
大丈夫、緊張せずに言えたぞ。
実際、一ノ瀬さんや三間坂さんとはなんだかんだで一緒に行動したりして、思ったことを言うのにかなり抵抗がなくなってきていた。
言ったあとも、それほど照れもない。
「ふふ、ありがとうね」
一ノ瀬さんは俺の言葉をいやがるでなく、はにかんでくれた。
これってもしかして脈アリってやつでは!?
と、俺はここで気づく。いつもならこういう時は、一ノ瀬さんより先に三間坂さんが声をかけてきそうなものなのに、どうしたんだ? 二人一緒に出てこなかったのかな?と思って、一ノ瀬さんの後ろを見れば、その背中に隠れるように三間坂さんが立っていた。
プールに来たのに珍しくはしゃがないんだなと思って、俺は一ノ瀬さんの後ろの三間坂さんに、覗き込むようにして目を向ける。
「三間坂さん、どうかした――!?」
俺は一ノ瀬さんの後ろの三間坂さんを見て思わず固まる。
三間坂さんは、フリル付きの水色のビキニの水着姿で恥ずかしげに身をよじらせていた。フリルで横乳、下乳、腰回りあたりは隠されているものの、二つの膨らみの谷間であったり、普段はスカートで決して見えない太ももの付け根付近のきわどいあたりであったりとかが、お日様のもとに晒されているのだ。
特に、普段着痩せするタイプなのだろう、三間坂さんのお胸の膨らみは、俺が思っていた以上にボリューミーで、目のやり場に困るというか、むしろこれを見ないで何を見るというか……
「……ちょっと高居君、あんまりじろじろ見ないでよ」
いつも快活な三間坂さんが、珍しく恥ずかしそうにしている。
そんな恥ずかしがるのなら着てこなればいいのに――と一瞬思いかけてすぐにその言葉を頭の中から振り払う。さすがにそれは女の子に絶対言ってはいけない言葉だと俺にだってわかる。それに、こんな三間坂さんのセクシーなお姿を見られる機会なんて二度とないだろう。着てこなければいいなんて、冷静に考えれば思うわけがない。それに、こんな羞恥に苛まれる三間坂さんなんて滅多に見られない。こういう姿を見るのも正直悪くない。普段色々絡まれてるお返しに――という意地悪な思いからではなく、ただ普通に可愛いからな。
……ん? 三間坂さんが可愛いだって?
そうだな、今日ばかりは認めざるを得ないかもしれない。
「ちょっと高居君、聞いてる?」
じろじろ見るなと言われても俺が三間坂さんの方を向き続けていたためか、三間坂さんは照れながら怒った顔をしてきた。
頭の中で色々考えていたため、三間坂さんの姿は目には映っていても実際にはそれほどじっと見ていたわけではなかった。
でも、三間坂さんにはそれはわからないよな。
「ごめん……ついいつもと違う三間坂さんに見とれて……」
頭の整理がついていない俺は、思ったままのことを口にして三間坂さんから視線をそらす。
クラスの男子にじろじろ見られるのはさすがに三間坂さんも恥ずかしいだろう。
ここは俺が気を遣わねばならない。
……ん、そういえば俺、今なに言ったんだっけ?
特に考えないで口にしたものだから、何を言ったかあんまり覚えてないぞ。
また三間坂さんを怒らせるようなことを言ってないだろうな……
心配になり、俺は横目で三間坂さんの表情を窺う。
おや? なんだか三間坂さんの顔がさっきまでより赤いぞ?
「……に見せようとは思ってたけど、予想以上に恥ずかしいじゃない」
三間坂さんは何かつぶやいたが、声が小さすぎて俺には聞き取れなかった。
でも、予想以上に恥ずかしいって言ってたよな。
確かに、ほかの女性を見れば、三間坂さんのように露出多めのビキニタイプの水着を着ている人は少ない。その上、三間坂さんは可愛いし、身体も生意気ボディだし、おまけに女子高生だ。俺からもわかるくらいほかの男達の視線を集めている。そういった無遠慮な視線にさらされて、彼女が恥ずかしさや居心地の悪さを感じるのはある意味当然だろう。
なら、ここは俺が少しは男らしいところを見せるしかあるまい。
三間坂さんには借りがあるし、一ノ瀬さんにも俺のイケてるところを見せないといけないしな。
「大丈夫三間坂さん? 俺ができるだけ近くにいて、変なやつが近づいてこないようにするよ」
「――――!?」
三間坂さんを安心させようと思って声をかけたのに、なぜか三間坂さんはまた顔を赤くして顔をそむけてしまった。
「……に近くで見られるのが一番恥ずかしいのに」
三間坂さんはまた何かつぶやいたようだが、背中ごしではよく聞き取れなかった。
まだプールに入ってもいないのに、俺はいつもとちょっと違う三間坂さんに、なぜかドキドキして、ついつい彼女のことが気になってしまう。
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