解散するかもしれない

 他愛のない会話を繰り広げ、解散するような雰囲気が漂う。

 スマホの画面が示す時刻は午後四時。

 カフェの窓からはまだ明るい陽射しが差し込む。

 けど、太陽は水平線に顔を近付けており、そのまま吸い込まれるように沈んでしまいそうだ。

 手を伸ばして掴もうと思えばしっかりと掴めそうな、そんな距離に見える。

 もちろん実際はとんでもなく離れてるだなんてこと言われなくてもわかるんだけど。


 カップに少しだけ残っていたカフェラテを口に含む。

 これで空っぽだ。

 呷ってから小指だけでカップを持って、くるくると意味もなく回す。

 微かに残っている……というのすら烏滸がましいほど微細な量の液体がゆらゆらと揺れている。


 「今日は楽しかったわ」

 「い、一応本気で考えてきたつもりだし……」


 デートに着るようなおしゃれな洋服もないし、小野川さんみたいにメイクもできない。

 そんな私ができることはデートプランを考えることくらい。

 せめてそのくらいは……と懸命に取り組んだ。

 私なりの誠意である。


 もっとも小野川さん的には全く面白くないクソみたいなデートだと思うかもしれないという不安はあったけど。

 それでも、いいや、だからこそ、かな。

 こうやって面と向かって「楽しかった」と言ってくれるのはストレートに嬉しいという感情に繋がる。

 しっかりやれたのかも、という自信にもなる。


 「それは伝わったわよ」

 「考えた甲斐があったね」

 「本当にありがとう」


 ただの感謝。

 それなのになにか裏があるんじゃないかとか勘繰ってしまう。

 これは私の悪い癖だ。


 それもこれも自己評価の低さが原因だろう。


 私に感謝するなんておかしい、なにか裏があるんだ、そうに違いない。

 そういうネガティブな思考に至ってしまう。

 自己肯定感のなさに情けなくなる。


 「お返しに今度は私がデートプラン考えないといけないわね」


 頬杖をつきながら、うーんと考え込むように瞼を閉じる。

 解散ムードはより一層強まる。

 まだプランあるんだけど。

 うーん。


 インターネットの記事に「初デートは二時間以内で解散すべし」と書いてあった。

 本来はそういうものなのだろう。

 初デートで朝から晩まで出かけようとするカップルは早々いないんだろうなぁ。

 だから、小野川さんももう解散のムードを漂わせている。

 終わらせやすいように気遣ってくれてると都合良く解釈してみる。


 それはそれとして、本当にどうしようかな……と迷う。

 小野川さんが帰りたがってるのなら、無理にここから連れまわす必要はない。

 強要はしたくないから。

 けど、私としては不完全燃焼だ。

 せっかく立てたプランを遂行できないのだから当然だろう。


 「ちなみに」

 「うん?」

 「ここからまだ一つ行きたいところがあるって言ったらついてきてくれる?」

 「ここからって、今日ってことかしら」

 「うん、そう」


 こくりと頷く。

 断られるのはちょっと嫌だな、と思いながら、ちらりと小野川さんの顔を見る。

 小野川さんは満面の笑みを浮かべていた。


 「行きましょうか」


 特に迷う様子も見せなかった。

 不安になって沢山あれこれ考えて、言い訳を並べて正当化したけど杞憂だった。

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