詩『夏の残滓を冬の終わりに』 お題:肌

 夏の残滓を冬の終わりに届けてください。そうすれば、春が来るでしょう


 なるべく小さな幸せを肌身いっぱい感じてください。足るを知る人のしたたかなること、しなやかなることを知ればこその秘訣です


 しとしとと、雨が続く日をどうにか楽しんでみようとこころみてください。たとえば、すてきな傘を誰かへの贈り物に用意したりして


 夏の日差しの強い日に明瞭めいりょうたる陰翳いんえいをよくよく眺めてください。向日葵ひまわりの影が一番小さなときに


 穂波ほなみすすきをかき分けて、昔みたいにわたしを探してください。麦畑よりも背高な芒ですから、見つかれば値千金あたいせんきんのかくれんぼ


 いずれ、思い出の溢れるこの生を一つの言葉で締めくくってください。ただ一つの扉が閉じるだけですから


 冬の終わりに埋め込んだ夏の残滓へたっぷりと水をあげてください。芽が出るまで欠かさずに、腐らせぬように


 あともうすこしで春が来るでしょうから


 ──おはり──


解説

 『色々なものを肌で感じてほしい』

といった意味合いを込めてます。「肌」という字を使ったのは二連目だけですが、全体に暗示的にしたつもりです。

 他にも、例えば二連目の「なるべく」の係り方(修飾の対象)をよくよく考えてみたりしていただけると幸いです。


 一つ目を狂歌で始めたのでどうなることやらと自分でも思いましたがどうにかなりました。

 前作『溢盃』と同じ作品数、最後は詩で締めるところは共通できてよかったなと思います。


 これにて作品集『夏の残滓を冬の終わりに』は終了となります。

 皆様、どうもありがとうございました。


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作品集「夏の残滓を冬の終わりに」 上月祈 かみづきいのり @Arikimi

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