陸:桜
『伊那高囲碁部女子チーム、結成!』
後日、五体満足に回復した
部長、
半人半妖の雪女、
そしてゾンビで陰陽師、
これで三人――高校囲碁団体戦への出場条件が満たされた!
書類から顔を挙げたステラは、滂沱の涙を流す。
「まさか本当に部員がそろうなんて……。わたくし今、とっても感動していますわ!」
雪花は飲みかけの野菜ジュースのパックを弄びながら、気まずそうにそっぽを向く。天涅も無言だった。二人の間の空気は冷え切っていて、盛り上がりなどというものは皆無だ。
それでもステラにとって、正式な部員が三人揃って活動場所にいるこの状況は、夢にまで見た待望の光景に違いなかった。彼女はふらふらと
「夢ではありませんよね? 目を離したら全部なくなったりしませんわよね?」
「落ち着いて、ステラ殿。書状が濡れてしまう」
ステラはハンカチで涙をぬぐうと、全員の前に立った。
「みなさま、心より感謝します。これからは仲間として、一致団結して頑張りましょう!」
「……一致団結、ね」
雪花は野菜ジュースのストローを噛み潰す。彼女は天涅の方へだらしなく身を乗り出し、虫歯を患う虎のような声で唸った。
「ま、そういうわけだから、仲良くやろうじゃない。土御門のクソ陰陽師」
ボーっとしていた天涅の瞳が、一瞬で臨戦態勢になる。
「最初に言っておくけど、わたしは副将で、おまえは三将。わたしが上で、おまえが下だから」
「あんた、やっぱりケンカ売ってんでしょ?」
「仲良くやりましょう」
「遅いわッ!」
睨み合う二人の前で、ステラの顔色が変わっていく。騒ぎを起こして、結成当日にチーム解散なんて、目も当てられない。彼女はスライディングで床に頭をこすりつけた。
「お、おおお、お二方とも、落ち着いて。お願いですから、トラブルだけはご容赦くださいまし! どうか、どうかこれで矛を収めて!」
差し出されたのは万札だった。天涅が素早くかがみこむ。
「仕方ない。半人の相手はまた今度にするとして、今夜は焼肉パーティを……」
「なに受け取ろうとしてんのよ!」
金を拾おうとする天涅の腕を叩き落とし、雪花が怒鳴る。お叱りはステラにも向かった。
「あんたもこんな金、軽率に出すんじゃない!」
「ひゅいっ!」
「いい? あたしたちは囲碁のためにここに来てるの。あんたが囲碁部の部長だって言うなら、金じゃなくて囲碁でどうにかしなさいよね」
「……! は、はい……!」
後方で腕を組み、じっと様子を見守っていた鷺若丸は、密かににやつく。
なにかと頭に血が上りやすく感情的な半妖の雪花だが、よく見ていると、こうして世話焼きなところを垣間見せる。
天涅も天涅で、雪花をいたずらに刺激するところはあるが、引き際はちゃんと弁えている。
この二人はチームの不安要素だが、同時に強みにもなりうる。
あとはステラの情熱で、この二人を引っ張っていくことができるか……。もしそれができるなら、この三人組は想像以上に、良い仲間になるだろう。
そんなことを思っていると、雪花に冷たい目で睨まれた。
「なによ、その顔。まさか、いいチームになりそうだ、とか考えてたんじゃないでしょうね」
「……」
「考えてたんだ」
鷺若丸はさりげなく話題を変えた。
「……さるほどに、ステラ殿。始めの大会は、いつだったかな?」
「一か月後ですわ」
ステラの答えに、雪花は追及の手を止め、黙り込む。囲碁を覚えたての彼女にとって、一か月という時間は、あまり猶予があるとは言えない。天涅も質問に加わる。
「敵の情報は? 参加校は何チーム?」
ステラの表情が引き締まった。
「わたくしたちの県は穴場な方で、団体戦に参戦してくる高校はそれほど多くありません。女子団体戦はどこもチームを組むだけで精一杯ですから。わたくしの読みが正しければ、今年度の出場校は我々を含めても四校ですわ」
彼女はスマートフォンを取り出し、メモ帳を立ち上げる。
「実は出場してくると思われる学校の様子は、既に調査済みです。一校目、県立
ホワイトボードに向かって、ペンをとる。
「こちらの学校で注目すべきは新入生のエース、
今回の大会における手合い割は、すべて互先、つまりハンデなしで行われる。純粋な
「どちらかと言えば厄介なのは次の――
水無川高校と比較すると、平均的な実力が高く、穴がない。ステラが大将戦を落とすことはないだろうが、副将戦がおおよそ五分、三将戦では厳しい戦いが予想される。
「ですが、その花ノ木国際よりも、さらに恐ろしい学校がありますの……」
雪花が唾をのむ。
「それは?」
「
廊下を流れる風の音が、全員の耳にやけに強く残った。
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