第6話 訪問

「着いたわよ。神楽って表札の家でいいのよね?」


  そこはごく普通の一軒家だった。霊媒師一族とか言ってたから広い敷地にでかい御屋敷があるイメージとは違っていた。


 「そうや。……なぁ、もう目隠し外してええやろ?あとはねーちゃんに任せるからさぁ」

「ダメよ。あんたも一緒にいなさい。それにお姉さんと会ったことないんだから」


 

初めましての弟さんを目隠させて訪ねに行くなんてヤバい奴になってしまうんだが……。


 ────ピンポン〜


時すでに遅し。先輩はインターフォンを押してしまった。


「・・・・」


 しかし家には誰も居ないのか反応がなかった。


「あーー。家にはいるんや。ただ怠け者すぎて出てこないだけや」


 怠け者すぎて出てこない?それは怠けすぎじゃないか。一体どんな人なのかますます分からなくなってきた。

 すると突然ドアからガチャリという音ががした。しかし、返事は何も帰ってこない。


「鍵空いたから入ってええんやで」


 神楽にそう言われドアを開けると中にいたのは……文字通り怠け者だった。ソファーに寝そべりながらアイスを食べていた。綺麗な長い白髪に片目が隠れている。紫色の透き通った目、長く綺麗な足、白色ベースで青色模様が入ったチャナ服を纏った美人がいた。神々しくも感じる美貌であった。


「えっと、初めてまして。神楽と同じサークル仲間の瑞原愛莉です。目隠しは色々事情があってさせています」

「同じくサークル仲間の唄乃 猜と申します」


「神楽から聞いておるぞーー。妾は神楽巫女かぐらみこ俊介しゅんすけの姉じゃ。取り敢えず上がりなはれ。そっちの子もねー」


(おじゃましまーす!)

 

  見た目では高貴なお姉さんに見えるが実際はおっとりしいる。


「しゅんーー。おもてなしの準備をするのじゃーー」

「わかってるって。みんな何飲む?って言ってもお茶かジュースくらいしかないけど」

「私はお茶をお願いするわ」

「俺も同じので」

「ねーさんは?」

「んーー。今日は日田天領水がいいのじゃ〜」

「りょうかい。ちょっとまっててや」 

 

 なぜ神楽は目隠しをしながら飲み物の用意が出来るのか不思議だった。あれでも霊媒師一族だから常人よりはすごいのだと感じる。

 

「まずは服装をどうにかしないとじゃな。汝の名は?」

(スピカだよ!おにーさんがつけてくれたんだ!チャラくない方の)

「スピカと申すのか。いい名前を貰ったようじゃな。服装についてじゃが何か所望する物はあるか?妾が繕ってやろう」


神楽も言ってたが幽霊に現世の服を着させることは出来ないんじゃないのか?基本的に幽霊は現世に干渉出来ないが出来るやつもいるらしい。スピカは最初にペンを持てたから干渉できるが服を着させれば宙に浮いて見えるだけだろう。


(んーっとね......。やっぱり制服がいい!学校行ったことあるかもしれないけどよく覚えてないないの。)

「女の子は制服やな。一年中見られるその生脚は我々男共の活力になるからな!」

「あんたは少し黙りなさい。目だけじゃなくて口も縛るわよ。なんなら縫ってあげてもいいわ」

「ひィ」


半ば本気か冗談か分からない表情に神楽は萎縮する。


(できればお花つけて欲しいの。リボンじゃなくてルリハコベっていうお花)

「どんな花なのじゃ?」

(瑠璃色のお花で花弁が5枚ある綺麗なお花なの。普通はアナガリスって言われてるんだ)


神楽姉はポケットからスマホを取り出し花について調べる。

「ほぅ。確かに綺麗な花じゃな。スピカは花を好むのか?」

(うん。私もよく分からないけど花についてはたくさん知ってるの)


普通の人はルリハコベなんて花はまず知らないだろう。せいぜいマリーゴールドとか朝顔とかメジャーなものだ。花について詳しいということは生前花が好きだったのか?


「うむ。承知した。花のついた制服じゃな」


目を閉じ意識を集中させて、スピカに向け手をかざすと蒼白い光に覆われた。その光が徐々に消えるとスピカは注文通りの服を着ていた。


「これでどうじゃ?」

(わぁ〜!私の思った通りの服だ!可愛くできてる!おねーさんありがと!)

「気に入ってもらえて何よりじゃ」


俺と先輩は姿が見えないから何が起こったのかさっぱりだがスピカが嬉しそうだからなんだか幸せな気分になった。ただ、一つ気になる点がある。


「神楽。幽霊は魂を核としてるから服を着させるのは出来ないとか言ってなかったか?」

「普通ならや。けどねーさんは特別だからな!」


本当にすごい人なのかもしれないと薄々だが感じ始めた。薄々ね。


とりあえず神楽のお姉さんに今までの経緯を説明した。



「うーむ。突然現れたその子の正体について調べておるのか。どれ、妾が一目見てやろう」


  紫色の瞳が透き通った虹色の瞳に光り、スピカを見つめる。その目はどんな美しい宝石よりも魅力されるほど美しかった。

 

「ムムム……これはどういうことじゃ」

「何が見えるんや?ねーさん」


 不思議な顔を浮かべ言葉を詰まらせながらポツリと言った。


「……見えん。何も見えんのじゃ」

「んなぁ! ねーさんが!?」


 俺には一体何が見えていて何が見えないのかさっぱり分からない。


「妾でも分からぬとは初めてじゃ。妾の目は千里眼という特殊なものでな。霊たちのコアとなる魂を見ることが出来るのじゃ。でもこの子は何も見えんな」


 魂を持たない幽霊ということなのか。魂を核として幽霊が生まれるのに一体どういうことなんだ。


「霊力は相当感じるが悪い氣は感じない。陰霊では無いから安心するのじゃ。じゃが、その霊力に陰霊が寄ってくるかもやしれん。陰霊の力の源は陽霊じゃからな。その陰霊を守り無事に成仏させるのが霊媒師の仕事でもあるのじゃ。」


 悪いやつが陽霊に寄ってくるのか。俺、呪われたりしないかな……。実質もう憑かれてるようなものだから大丈夫な気もするけど。


「今のところ手掛かりは無いって事ね。でも京都に現れたからには何か意味があるのかしら……」

「その可能性は高いな。色んな所に行けば何か思い出したりするかもやな。」


 今はそうするしかない……か。手当り次第探っていくか。


「其方達の言う通りじゃ。すまんのぉ。力になってやれなくて」

「いえ、とんでもないです。相談に乗ってくれたしスピカが陰霊じゃないと分かっただけでも助かりました」

「代わりと言ってはなんじゃが、これを持っておれ」


 渡されたのは御守りだった。普通の御守りではなく金属でできていて真ん中には「神」という文字が彫られていた。


「これは?」

「妾のお手製御守りじゃ!持ち主に危険が起こると守ってくれるぞ」


 おお、これはありがたい。そもそも見えない奴に襲われたら何も出来ないしな。神楽曰くお姉さんはめちゃくちゃ強いらしい。その人の御守りなら効果は抜群にあるだろう。


「ありがとうございます」

「また何かあれば何時でも来るのじゃ」

 「なぁ、いつ目隠し外してくれるの?」


霊界の事について知るためにまた尋ねに行こう。


「もう服着たんやろ?なぁ!おい!おいってばーー!」




 

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