その痛みの名は。

利他と自己犠牲という「エゴ」を押し付ける自分を「自己中心的」だと評する他者中心的な主人公の、若い自己陶酔を描く作品だ。その痛み、その傷をタイトルにある「傷心症候群」などと名付けていることも含めて、彼は酔っている。短い文章だが、その中に主人公の生き方や正義がはっきりと現れていて良い作品だと思った。

これが長編で、その中にほどよく彼の価値観が示されていればもっと評価もされるだろうと思う。

やや読みにくかった点は、台詞回しが主人公も「彼女」も似ていて混同し易いところだ。似た言い回しの二人の会話の場合、発言の合間に動作の描写などを入れることで解決できる。

個人的な好みではあるが「彼女」の言葉遣いはかなり性癖に刺さる。もっと外見を匂わせる描写があれば尚良かったが、これは作者が意図的にそういう描写を忌避したのかもしれないとも思う。したがって、その点で私はマイナス評価はしない。

なるほど、意図的にその描写を抜いたとしたら、この作品では主人公の自己中心的な側面は確かに描かれている。親しみをもって主人公をこいつと呼べば、こいつは自分の考えにしか興味がないのだ。こいつは「彼女」を見ていない。利他と自己犠牲の描写によって(先述のように)他者中心的とも取れるが、「彼女」の容姿や性格や価値観への言及や描写が少ないのは、こいつの興味は「彼女と俺」のストーリー性であって「彼女」には向いていないのだ。そう考えると、よりこの作品は良いものだと思う。


(以下は作品評というより作者への評価になる。本来はあまりすべきでない評価の仕方であるが、交友のある友人、先輩として、その側面での評価も含めたい。)

作者の過去作品と比べると全体的に文章が改善されており、同作者を追って応援している身としては嬉しい限りなので☆3とした。個人的には☆1を付けるのも躊躇うレベルの文章からここまで数ヶ月で改善が起こったのは凄い進歩だと思う。今後に期待したい。