第39話 スタミナが足りねぇ!
ー魔法少女ユノー
「今日はよろしくお願いしますね?」
「はい…よろしくお願いします。」
今にも消え入りそうな声で話すのは同僚の魔法少女ユリちゃんだ。
最近増えてきた怪人。彼らは最初こそ弱かったものの、段々と強さが増していき、今では魔法少女二人が本気で戦って、やっと対処できる程度らしい。
そこで、巡回や警備も必ず二人組でとの通達が入った。私やユリちゃんのようにまだサポーターがついていない人は、魔法少女同士で組むことになっている。
「では、いつも通りA地区から行きましょう。」
「分かりました……」
ユリちゃんは私の一つ下の高校三年生。こんな調子で大丈夫か心配になる。
もちろん今の状態もだしその後の…
「…待って、あそこ。」
ユリちゃんが目を見開きながら人差し指で一点を指す。私もつられてそちらを見ると、丁度自身の革靴を地面に叩き付けて、そこから怪人に変身している男性が見えた。
「まずい!行くよ!」
「…はい。」
私とユリちゃんはネックレスに手をかざす。
「「彼方に祈りを」」
私の服が変化し、全身が黒で袖と肩にフリルが付いたドレススカートを身につける。髪は金髪になり、瞳が青に染まる。
私は変身する時、必ず自分の変化した部分を頭の中で反芻する。そうしないと、今見えている服と自分の元の姿がアンマッチ過ぎて死にたくなるからだ。
一方ユリちゃんは髪の毛はそのままなのに、変身した瞬間から細かった目が鋭くつり上がり、姿勢もかなりの前傾姿勢に変わる。服も陰陽の様な模様の青と黄色のドレスを着ている。
ノイさんが言うには、ある意味での二重人格で、陰陽の形は二つの人格が一つになっている?みたいな感じらしい。正直よく分かりませんでしたマル
私とゆりちゃんが同時に怪人に向かう。
怪人もこちらに気づくと、予備動作無しに、回し蹴りを放ってきた。
「効かないよ!」
それを、私の能力である防壁で受け止める。
「ハッ!潰してやるよォ!」
私の行動を予測して少し回り込んでいたユリさんが斧をフルスイングする。
「がふ!?」
その一撃をもろに食らい、身体に傷を受けながら吹っ飛ばされる怪人。
流石としか言えない怪力だわね。
「ふっ、フッハッハッハ!!!次はこっちの番だァァァ!!」
高笑いを浮かべた怪人はさっきとは全く違うスピードで走ってきた。
「へっ!」
余裕!と笑ったユリさんは怪人の蹴りを斧で受け止める。
いやいやいや!そこで受け止めちゃったら私の存在意義がないじゃないですか!私は防壁しか出せないんですから!
……と、頭の中で叫ぶ。いや、声に出したら怒られそうだし。
そのまま戦いはどんどん激化し、私では追い付けない領域へといってしまった。
それでも、諦めずに見る努力をしていると見えた。それは丁度、ユリさんの顔に怪人の足が向かっている時だった。ユリさんも驚愕の顔と不機嫌の顔が入り交じっていた。
「っ!!今!」
私はその見えたシーンに適切な防壁を張る。
すると、ユリさんが一気に後退した。
「え!?」
もしかして、ミスしちゃった!?
「問題ない!勢いを殺せなかっただけだ!すまねぇ!」
良かった……展開して正解だったんだ……
私はホッと息を吐く。
「あいつ、めっちゃ強ぇ…どうするか……」
ユリさんでも苦戦、これはかなりまずいかも!?
「ユリさん!ユノさん!魔法少女ベニ、加勢します!」
そう言うと、紫のローブの様な物を着た女性が来た。ベニさんは二十歳を越えていながらも、能力が強いらしく、この前も怪人三体を無力化したらしい。
後ろには金髪の女性がいた。多分サポーターかな?
これで魔法少女は三人、ちょっといける気がしてきた。
「お前が例の、か……期待してるぜ?」
「えぇ、頑張らせていただきます。」
その言葉を置き去りにするように、ユリさんは怪人とぶつかり合っていた。
「うわ……えっと、ベニさんはどんな風に戦うのですか?」
「ふふ、それは見てからのお楽しみです。」
見た目の上品な美しさも相まって、人差し指を唇に付けただけなのに、ものすごく艶かしく見えた。
ユリさんと怪人のぶつかり合いはさっきのように加速し、私が防壁を展開して、ユリさんを守るのがやっとになってきた。
……そろそろ、私は使い物にならないかも……
「液化。」
その時、ベニさんが呟きながら指パッチンをする。そしたら、怪人が踏み込もうとした足元に、突然水が溢れだした。
それに驚いた怪人の動きが止まり、それを見逃す程、ユリさんは甘くはなかった。
渾身の一撃で怪人にカブト割りを当て、怪人は仰向けに倒れる。今まで倒した怪人同様、姿が塵になり、元の男性が無傷で倒れていた。
「っし、完了だな。ベニ、お前やるな。途中使えねぇ奴だと見くびってたぜ。」
私が感心していると、ユリさんがキッパリと大声で話しかけた。
「私もすごいと思いました!」
「あら、ありがとう。お二人も見事な活躍でした。」
う、ユリさんはまだしも私はそんなに活躍できてないかな……
私がうつむいていると、ベニさんが私の耳許に顔を近付けてきた。
「ふふ、ユノさんでしたよね?」
「えっと、なんでしょう?」
「人を守る、それはとても尊いものだと思います。」
ベニさんはそう言って私の肩をポンッと叩くと、一緒に来たサポーターの人が拘束した怪人の方に近付いていった。
「…フゥー……………疲れましたね。」
深く息を吐いて、ユリさんからユリちゃんに戻る。
「そうですね。ベニさんが来てくれなかったらどうなっていたか……」
「……私、報告しておきますね?」
ユリちゃんがはにかみながら言い、離れていった。
「尊い……か。」
私の存在を認められた気がして、少し嬉しい気分になれた。今日はよく眠れそう。
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