第38話 割り切って!

 …………ハッ!?

 なんだ、もう朝か。

 昨日の事が夢オチでないと思い出し、あくびを噛み殺しながら起床する。

 まさか幹部が私含めて三人だけになるとはなぁ。

 医者と有能……逆になんの理由でここを離れるのか気になってきた。

 

 ……まぁ気にしていても仕方がない。今日も一日がんばっ…

 私がカーテンを開け、太陽光を浴びていると、嫌な予感を感じざるを得ない着信が部屋に響く。

「…………もしもし。」

『あ、もしもし軍師?今日時間ある?』

 貴族……いや、魔法少女(笑)ベニが底抜けに明るい声で話す。

「あーーる…かな?」

『丁度良かった。午前十時頃、うちのカフェにサポーターサキコとして来てね。それじゃ。』


 ……………気が乗らねぇ…………













 まぁ、来たんですけどね。行かなかったら貴族に怒られる。それはすごくめんどくさい。


「あら、約束の時間より五分速いわね。分かってるじゃない。」

「あぁ、まぁ…」

 私が喋ろうとするとズイッと顔を近付けてきた。

「サ・キ・コ・ちゃん?」

 あぁ……はいはい、分かりましたよ!

「当たり前よ!私を誰だと思ってるの?」

「ふふふ、それじゃあ行きましょうか。」

 満足気な顔だな。お前はさぞ面白いだろうよ。

「仕事みたいだけど、具体的には?」

「え?」

「え?」

 え?

「……………あっ!ごめんね?サポーター用の端末渡し忘れてたわ。」

 おい!

「…き、気にしないで。失敗は誰にでもあるものね。」

 クソぅ…私の顔は今、絶対にピクピクしているだろう。舌を出してウィンクしてくる貴族の顔もなかなかイライラさせてくれる。

「はいこれ。大事に使ってね?」

「もちろんよ!」

 私は端末を受け取り、ある程度の設定をその場で終えた。

 すげぇ、最近機種だ……私は五年前のやつを未だに使っているのに。

「えー…と、シフト表?」

「うん、怪人が増え始めたから、ニューワールドがかなり暴れてた頃と同じ仕組みをまた導入したんだって。簡単に言えば異常がないかのチェックだね。」

 そんなのもあったな。あの時は世間がざわついていて、魔法少女達が細部まで目を光らせていた。

「ん、内容も把握したわ。行きましょう。」

「よし、行こー!」

 ノリノリだな………





 しばらく歩いて思ったが、一つ言わせてもらう。

 私は今サキコスタイルのため、露出がいつもよりある。………つまり、虫に挿されて痒い。

 今は虫除けスプレーも痒み止めも持っていない。

 ………最悪だ。

「どうしたの?サキコちゃん。」

「いや、ちょっと痒くて………」

「あ、虫刺され?」

「そうね…」

 そうすると私の耳許で衝撃のセリフを呟く。

「全身の内側から外側に力をいれてみて。力を解放する時みたいな感覚で。あの…ほら、力の膜を皮膚の上に敷く……みたいな?

 それやると虫の毒が効かなくなるわよ。」

 なん……だと!?

「ふ!

 一応したけど……効果あるのよね?」

「あるわよ。理論的にも、将軍に力を与えられた人なら誰でも出来るみたい。それにけーくんが実証済みよ。」

 戦闘員Kェ……お前はどれだけ…………

「…なら安心ね。」



 ピリリ!ピリリ!

 おっと………

「戦闘?」

「………すぐ近く、怪人よ。」

「あらぁ……」


 お互いに頷き合い、指定の場所へ走る。


「状況は?」

「交戦中なのは……魔法少女ユノと…げ、魔法少女ユリ………らしいわ。」

 こんな時でもサキコちゃん。

 ……いやマジでつれぇ。


「そういえば、ベニちゃんは能力なんだっけ?」

 現場に向かっている途中、私がわざとらしく問いかける。

「……もぅ、忘れちゃったの?私の能力は空気を液体に変えること"だけ"よ?」

「あ!そっか、ごめんね?」

「そうよ?速く行きましょう!」

 とりあえず、確認したいことは出来たけど、あとは…………まぁ、その場しのぎでいけるでしょう!

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