第40話 懐かしい!!

「良い天気で良かったな。」

「そうだな、敬一。」

 今日は将軍改め、敬一と実家に帰省する。こういう時は昔のままでいようと二人で決めたのだ。

 転移ポータルでサクッと飛んで、実家のある村に入る。

 簡素な掘っ立て小屋が多いこの村には老人がほとんどだ。所謂、限界集落。この村は俺と敬一の母親ともう一人の女性がこの村の若人である。

 その三人で村の老人を一斉に世話をしていて、村の人達全員が老人ホームにいるという訳の分からない状況になっている。

 その老人ホームに向かう前に、ちらほら見れる掘っ立て小屋は今は誰も住んでおらず、朽ちて腐るのを待っているだけだ。業者を呼ぼうにも、辺鄙な土地のため、無駄に金がかかってしまうし、思い入れがあるからと残すことを希望している人達ばかりで、我々も手を出そうにも出せないでいた。


 しばらく歩いていると、唯一手入れのされた大きな建造物、老人ホームに着いた。


ピーンポーン……

『ザ…どちら様でしょうか?』

「あ、お母さん。敬一敬一。」

『あぁ、待っててー。』


 ガチャ

 老人ホームの門の鍵が開き、俺と敬一は中に入る。外からでも見える程の丁寧に管理された庭を見ていると、門の鍵が閉まる音が聞こえた。

 二人で建物に入るためにドアの前に立ち、インターフォンではなく、ドアを五回ノックする。

 これは事前に決めておいた不審者防止の手段だ。

 ……まぁ、来たことはないらしいけど。

「いらっしゃーい。敬一も太郎も久し振りねぇ。」

 一つ言っておこう。私の母と敬一の母は親友ということもあり、俺と敬一は幼馴染みになったのだが、色々あって私の父が早くに亡くなり、ちょくちょく面倒を見てもらっていたこともあってからか、二人の母はお互いの子供を同一視している。

 つまり、俺には母親が二人いるってことさ……

 まぁ、それを言っていたら祖父母なんて老人ホームにいる人達全員みたいなものになる。

 生きている実の祖父母もいるが、俺の父方の祖父母は俺の母と縁を切っている為、会ったことすらない。


「ここの部屋を使いな。二人で一室だが別にいいだろ?」

「大丈夫、雪母さん。」

「ちょっと休んだら下に来なよ。みんな会いたいってせがんでんだから。」

「ふふ、分かった。」

「お土産あげるから静かにって伝えといて。」

「おや、そいつはありがたい。」

 

 祖父母が多いともらえるお小遣いが多いと思っている人はどれくらいいるかな?その通りでもあるが、言っておく。良いことばかりではない。

 上げたらキリがないが、明確にうんざりするのはやはり"ひ孫の顔"だろう。若い人が周りにいないのも相まって、見たい見たい攻撃がかなり激しい。親戚の人達もドン引きするレベルの頻度で会話にこの話題が躍り出てくる。頑張って、出会いがなくてー、と気を反らしているが、そろそろ本気で出会いについて考えた方が良いかもしれない。


「そろそろ、行くか。」

「そうだな。土産は持ったか?」

「もちろん。」

 俺は土産の入った袋を持ち上げる。

「うし、耐えるぞ、太郎。」

「あぁ、そうだな。」

 敬一が拳を付き出してきて、それに合わせて俺も拳をつける。なんか格好よくしてるけど、良い相手はいないのか攻撃に耐える名目の、特に意味のない行動だ。



 俺と敬一が階段を降りると、聞こえてきたのは…

「おかえり、二人とも。」

「元気してたか?」

「干し柿食うかい?」

「酒ぇねぇんか?酒ぇ!」

「うるさいジジイだねぇ、全く。」

 帰省を喜んでくれている声だった。若干一名、不安だが。

「これ、お土産。」

「お、野沢菜と蕎麦か。今日はこれだな。」

 どうやらお土産は夕飯で無くなりそうだ。


「太郎!敬一!元気だったぁ!?」

 ガバッと俺と敬一に抱き付く俺の母さん。

「美江母さん苦しいよ……」

「暑い………」

「良いじゃない!ちょっとくらい!」

 母さんがさらに力を強めようとすると、後ろから母さんの首根っこを掴みながら引き離す雪母さん。

 母さんはジタバタと手を伸ばして、俺と敬一に助けを懇願するような目を向ける。

「あぁ…あぁ……」

「二人ともまだ疲れてるんだから、するなら明日ね。」

「…はぁい。」

 早く子離れしてほしいんだがなぁ………


「太郎くん、敬一くん。呼ばれてるよ。いつものね。」

 母さんが悲しそうに引きずられていくのを見届けていると、二人の母さんより一回り若い、涼さんが親指でくいっと一つの部屋を指す。

「分かりました。行こう、敬一。」

「だな。」

 後ろからは頑張れよぉー、と涼さんの力の抜けた声が聞こえる。


「失礼します。」

 障子を開け、俺と敬一は正座で畳の上を進む。

「来たか。」

 目の前にいる七人。この人達こそ我々ニューワールド日本支部の財源の源だ。所謂株主となる。

 いつも帰省すると、この七人に活動報告とこれからもお願いしますと頭を下げている。周りの人達には、二人で立ち上げた会社に出資してもらっていると説明している。

 右から、

 美江母さんの母、タマ婆さん。

 美江母さんの父、五郎爺さん。

 雪母さんの父、忠爺さん。

 煙草屋の夏子婆さん。

 大工の和郎爺さん。

 漁師の興嗣爺さん。

 定食屋の志津婆さん。


「あれからどうだ?……あの計画を変えるつもりはないのか?」

 忠爺さんが眉を潜めて尋ねる。

「もちろん、そのつもりです。」

 それを受けて、敬一がハッキリと答える。

「だが………いや、すまん。もうなにも言うまい。覚悟を決めた男に無粋であったな。」

「……ありがとう。」

 敬一は認められたことが余程嬉しかったのか、頬が緩んでいる。

「敬ちゃん。そんなだらけた顔じゃ、女の心を掴めないよ。」

「ほうかい?あれはあれで、めんこいんがなぁ?」

 タマ婆さんと夏子婆さんが話す。

「ハッハッハ、二人ともイケメンなんだから、す~ぐに相手が見つかるさね。」

 志津婆さんが衰えることのない喉で、力強い声を出す。

「ふ、ワシの血を継いどるんじゃ、イケメンに決まっちょろう!」

「ワシの血の方がイケメンじゃがなぁ?」

 バチッ!と五郎爺さんと忠爺さんに雷が走る。

「そんにゃあ、どっちでもええっちゃ。」

 和郎爺さんが心底どうでも良さそうに水煙草をスパスパ吸う。

「「なんじゃぁ!?」」

 元気だなぁ……

「言いたい放題じゃのう。それで、金銭の援助はいるけ?」

 このグループのまとめ役の興嗣爺さんが本題に入ってくれた。

「いや、問題ないよ。今まで助けてくれてありがとう。会社も大分安定したから、これからは自分達の為に使ってよ。」

 緑木農園としての収入も安定し、幹部や他の会社が仮に全て独立してもやっていける様になれた。計画している作戦的にも、ニューワールドに所属している人は最終的に俺と敬一だけにするつもりだったから、最近の退職の流れはある意味手間が省けたとも言える。

「むぅ、そうけ?少しさみぃのう。」


 ……言っておくが、我々は無辜な老人の数少ない年金を搾取しているわけではない。この七人(特に興嗣爺さん)が投資で貯めたお金をお小遣いとして貰っていたわけだ。もちろん、もっと貯金が貯まったら少しずつでも返すつもりだ。流石に、貰った額が孫のお小遣いで片付く範囲じゃないからな。

「まぁ、ゆっくりしてけ。何もないがなぁ。」

「うん、分かったよ。」

「また、色々話そう。」

「ああ……太郎、敬一……」

「「「「「「「おかえり(なさい)。」」」」」」」

「「っ!…ただいま!」」

 これからさらに忙しくなるが、今だけは心身共によく休まることだろう。

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