第35話 お似合いですねぇ!

ー農家セーター


「美味しいですね、岸さん。………岸さん?」

「あえ!?っはい、美味しいですね。寒河江さん。」

 目の前には、高そうな店とキレイな女性、寒河江円衣さんが迷うことの無いフォークとナイフさばきで、次々と料理を口に運んでいく。

 き、緊張して食べれない………いや、このお店はニューワールドが運営してるから別に高い店に緊張してるわけじゃないんだ。それよりも、女性と二人きりで食事したことがないのだ。それに、畑で育てた野菜を卸すときによく話すシェフやウエイトレス達がにやけ面でこっちを見てることがなんかね、全員の雰囲気が優しいのがさらに拍車をかけている。

 まだ寒河江さんとは付き合ってないのに!

 これじゃ、迷惑………迷惑なのか?寒河江さんもJKが運用する相談所に来てるからそんなことはないのかな?

 でも、自分が釣り合えるとは思えないぃ………

 なんだよ、何でこんなにキレイでスタイルの良い美人が結婚相談所にいるんだよ!?(逆ギレ)

 うぅ…タロウさんに紹介された時は探りを入れる仕事かと思ったのに、普通のお見合いなんて!

 話もうまく返せないし、寒河江さんもチラチラ心配そうに俺を見てるしで最悪だ。


「えっと…緊張されてますか?」

 うっ!

「はい、実は。」

「そうでしたか。……私もなんです。」

「え?」 

「えへへ、緊張を誤魔化すためにとにかく食べ続けてたんです。」

 なんだこの笑顔?……眩しい…………

「えっと、何がお気に召しましたか?」

「いやぁ、社長さんに紹介されたこのお店、どれもこれも美味しくって。この小皿料理のフルコース、お店の料理をほとんど網羅できて最高です。でも、強いて言うなら野菜でしょうか?いつものスーパーのやつと違って甘みがすごいですね。」

 っ!?

「本当ですか!?」

「きゃ!?」

「あ!あっ…ごめんなさい。大きな声を出してしまって。」

「いえいえ、……どうして、突然?」

 それはもちろん……

「ここの野菜って、全部私が苗から育てた自慢の子達なんです。褒めてくれたことがすごく嬉しくて。」

 やっぱり、こうやって感想を聞くのは最高に気持ちが良い。これが合法なのが疑問なレベルだ。

「え!?そうなんですか!?

 ……えっと、規模や会社について聞いても?」

 来たか。この質問は確か……

「基本私と両親です。規模は自慢じゃないですが、かなり広いですね。近隣の方にもパートで来ていただいてますし、皆家族のような関係ですよ。」

 もし、今回の見合いを受けるならニューワールドから離れてもらうと言われた。正直不安があるが、タロウさんから直接、子会社から独立して同じ立場になるだけだから出世だな、と言われてしまった。

 これなら、俺がニューワールドから実質的に離れても、繋がりは保てるとのこと。寒河江さんが訝しんでも俺がニューワールドに騙されていたで通せると押しきられてしまった。

「……すごい………場所的にも……ぃぃ……」

「あの……何か気になることでも?」

 余計なことを言ってしまっただろうか?

「そうではないですよ?

 ………農業についてお話を聞いても?」

 な・ん・だ・と?

「もちろんもちろん!いつでもどこでも話せますよ!何から聞きたいですか?」

「えーっと…じゃあ…」




 




ー軍師タロウー


「店員さん。」

 私は手を上げて店員を呼ぶ。

「店員さん、ちょっとここの……」

 私がメニュー表に顔を近付けると、それにならってJKと店員、戦闘員CCが顔を寄せる。

「CC、二人はどう?」

「順調です。…農家様のメンドクサイ野菜オタクムーブに耐えられるならカップル成立するでしょう。」

「やっぱりー?私の勘は正しかったんだね。」

 小声でJKが嬉しそうに呟く。

「そうみたいですね。それではここからは普通の客として注文させていただきます。」

「はい。……………それではご注文をどうぞ。」

「私、夏野菜のペペロンチーノとイタリア野菜のビーフシチューで!」

 JKが年相応に欲張りな量を注文する。

「私は………生姜と香草のチキンステーキを。」

「承知しました。少々お待ちください。」

 CCが満点スマイルで下がっていった。

「今日は気分が良いので私が奢っちゃいますよ?」

「お、それは嬉しい。ただ飯よりうまいものなんて無いですからね。」

 この後、私が鶏皮の油で胃もたれをしたのはまた別の話。

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