第21話 confirmation

2049年11月


Rayからの話しを確信に変える為に、三人であの「聖地」へと一緒に行く事になった。DAMIAはその機器を調べる為の道具を揃えてくれている。

Rayはこの間持っていった道具を改めて用意して持ってきてくれるようだ。

そして私は・・・父さんの残した最後の「想い」を調べる為に向かっている。


あんなに一人であの場所に通っていたのに、今まで何も気付かなかったなんて。

でも、父さんはきっと、どうにかしてこの謎を解くんじゃないかと、最初から分かっていたのかもしれない。

そうだよな、万が一もっと前に機械の存在に気付いていたら、何も出来ないくせに何かやらかして壊しそうだもんな。今で良かったのかもしれない。

そうだ、今でないと・・・三人でないと・・・意味が無かったんだと思う。

でも、やっぱり父さんは・・・凄い。唯一の存在だ。年月を経て、全てを結び付けてくれているんだから。過去と未来、そして僕ら仲間を・・・。


______


その日は待ち合わせの時間を、それぞれがずらして「聖地」に向かう事にした。

もちろん「聖地」への一番乗りは私だ。

まずは自分でもその場所の事を一人で確かめたかったからだ。

父さんの残してくれた最後の希望かもしれないその機械を、自分で確認したかったのかもしれない。

それにしてもRayがこの場所を見付けてくれた事にも意味があるんじゃないかって、最近は時々思うようになっていた。そうでなければ、Rayのお兄さんが亡くなったあの場所で、僕らが出会うなんて事は有り得ないような気がするからだ。

あれからの出来事が全て父さんの仕組んでくれたトリックだと考えると、それはそれで面白い。きちんとそのトリックの謎は時を超えて解かれようとしている。

謎々の苦手な私にとっては、その謎を解いてくれたRayは神様だ。

そして、この「聖地」で三人が揃うなんて事は、本当に以前の自分からすると想像も出来ない事だった。この場所に自分以外の人間が来るなんて事は・・・。


_____


私は色々と考えながら、そのビルの長い階段を一段一段ゆっくりと登っていく。

今日に限っては、いつもここに来る時とは少し気分も違うようだ。


屋上に上がるとすぐさま、Rayの言っていたその場所へと向かう。

今日のこの場所から見える空も、いつもとはちょっとだけ様子が違う気がする。

不思議なもんだ。気持ちによって変化するなんて。


「ここか、確かにこの場所だけ付着している汚れが強いな。でも、Rayが隠した跡がなんとなく残っている。それにしても、これでは気付かなくても当然だ。本当にただの手摺の汚れくらいにしか見えない。」

私はその場所を確認後、他にも気になる所が無いかじっくりと床なども見て回りながら暫くは細かく観察してみる事にした。ちょうど一周して扉の所へ戻ってきた所で、扉が開く音が風の音と重なって聞こえてきた。

(ギピューッ)


Rayだった__

扉を開けながら、Rayが話を始める。

「お待たせ!SORA 。三人が外で会うのがなんだか不思議な気分。でも、何か分からないけど僕は嬉しいな。こうやって、一つの目標に向かって皆で行動出来ている事が。」


「やあ、Ray。僕もだよ・・・本当に不思議だね。この場所で皆が揃うなんて。特にDAMIAと外で会うのは変な感じがする。」


「間違いないね。」


そんな話をしている矢先に、続いてDAMIAが扉を開ける。


「あー、やっぱり来なきゃ良かったかも。階段がとにかくきつ過ぎるし、本当に外歩くの嫌いかも。ここに来るのは最後になるかもな。」

なかなか見れないDAMIAがHGPとEPを装着した姿。これもかなりレアな光景だ。

そして、とにかくDAMIAはマイペース。思った事をオブラートに包む事なく話してくれる。それが寧ろ裏表がなくて話しやすい。

こんな仲間達だからこそ、政府に対峙しようとしているこの瞬間も元気が出てくるのかもしれない。

Ray、そしてDAMIAと出会ってから自分でも分からなかった「感情」というものを、少しだけ理解出来るようになってきたような気がする。そして、皆と会う度に3人の時間を大切にしたいとも思うようになっていた。


「全然待ってないよ。僕もさっき来たばかり。本当は、先に父さんの残したその場所をじっくりと見ておこうかと思ってたんだけど。その他にも気になる所が無いかな?と思って見ていた所に・・・二人共来ちゃったね。」


「残念でした。」

DAMIAがさらっと言う。


そう話す言葉を遮るようにRayが先頭に立って、その「場所」へと自信ありげに案内してくれた。こっちこっちというRayの腕が示す方向へとDAMIAと共に付いていく。


「ここなんだよね。この手摺の中でもこのパラキャップの繋ぎ目の所が本当に汚れている感じだからちょっと気になって。一目見ただけじゃ分からないんだけど・・・でも、SORAのお父さんは本当によく考えたと思うよ。見付けられたからいいけどね。」そう言いながら、Rayは持ってきていた雑巾で汚れを拭き取り始めた。


「この部分をよく見ていてね。段々と、汚れの下から繋ぎ目がくっきりと浮かんでくるから。」

Rayが目を近付けながら汚れの強い部分を必死に拭いている。その仕草がまた面白い。そして持っていたカッターで削りながら続けて説明し始める。


「この上部のパラキャップ部分の繋ぎ目が蓋の役目をしていて、SORAのお父さんが細長い隠し扉みたいなのを作っていたんだよね。そこだけわざと、かなり汚して気付かれない様に。そしてそこを削ると・・・。」


削った所から切れ目がはっきりと見え始める。そして同時に少しだけその境目が浮いてきたような気がした。


DAMIAはRayの肩をポンと叩いて、蓋を開けようとする作業を止めさせる。

まるで「どけ」とでも言っているかのように。DAMIAは、まずは自分でその父さんの秘密を確認したかったのだろう。


「へー、面白いね。Ray、ちょっと開けるの待っていてよ。そこの所、まずは俺に見させてくれるかな?」


DAMIAは持ってきていた特殊レンズで切り口の所の蓋近付をよく調べ始める。そして、表面に不思議な液体を塗り始めた。するとその部分が少しだけ色が剥がれたのが分かる。


「なるほどね。これがお父さんのトリックだったんだ。これ見てみなよ。お父さん、その時代に凄い事考えたね。」

DAMIAの言葉で二人共さらに近寄って確認する。


「お父さん、このパラキャップ部分の蓋を特殊塗装して太陽光が中まで届くようにしていたんだ。面白いね・・・この発想。なんでこの場所がずっと政府の電波から逃れられる場所になっていたのか、そしてどうしてそれが稼働し続けられたのか?と不思議だったんだ。これなら確かに電源はいらない。特殊塗装によって太陽光が表面にあるパラキャップを透過する事を可能にした。そして下にあるお父さんの機械がその光を受けてずっと稼働するようになっていたんだ。ある意味ソーラーパワーは永遠だからね。お父さんは今のこの時代の太陽光の強さを利用したんだ・・・これは本当に驚きだね。それにしても当時のSORAのお父さんのスキルは異常すぎる。これでなんとなくSORAの能力が普通ではないという事が理解出来た。」


「いや、ちょっと見ただけでそれを見抜くDAMIAも凄いよ!それに、父さんが未来の状況を考えた上でこんな場所を作ったのだとしたら、本当に驚きとしか言いようがない。だけど、二人に会わなかったらずっと分からなかった事だから、二人には感謝しかないよ。」


「僕はSORAのお父さんが、SORAに何かを伝える為にこの「聖地」をいつでも来れるような場所にしたんだと思った。だからこそ、それを見付けたいと思えたんだ。・・・そこに何か秘密があるんじゃないかって。いや、僕らにお父さんの望みを託したんだと思いたい。だから、この場所を通して僕らとお父さんは再会したような気がする。」


父さんはやっぱり凄い。僕らに託してくれたのだとしたら・・・やるしかない。

その想いを僕らで繋げたい・・・。

そう、僕らは三人ではなく父さん含めて4人なのかもしれない。


「じゃ、ここ開けて調べるとするかね。」

興味津々のDAMIAがいつものように話すと、Rayからマイナスドライバーを借りてこじ開ける。パラキャップの蓋の部分が開き、中の空洞部分に機器が入っているのが分かる。至ってシンプルな機械が中にはあった。


「やっぱりそうだ。これは間違いなくこの場所だけを電波が届かないようにしている電波妨害装置だね。だとすると、ここはある意味、僕らがこの場所で何かをしていたとしても、政府にはネットワーク上ではバレない。空からのドローンだけを気にする必要はあるけど。それにしても、一部の部品が壊れたとしても他の部品が機械の能力を停滞させない様に至る所に細工がしてある。それによって時を超えてこの機械は稼働し続けていたんだ。本当に見事過ぎるね。」


「なるほど、僕らが政府ネットワークに侵入する時は、この場所とDAMIAの隠れ家とに別れて侵入を試みればバレにくいという事か。」


「簡単に言えばそう。」


「なんだかSORAのお父さんの秘密を見付けられて良かった。少しは皆の、いや、お父さんの力になれたような気がする。」

Rayが呟く。


「でもRayが、一番大きな失敗をしなかった事が何よりも良かった。万が一、ご丁寧にこの機器を外して持って帰ってきてたら、お父さんのした事は一瞬にして全てがパーになっていたからね。」と、DAMIAが強調して話す。


「確かにそうだね。」

二人のやり取りが面白かった。


「いや、そこは流石に僕でも外す勇気はなかったから良かったよ。でも、とりあえずはこの「聖地」が間違いなく電波の届かない場所であるっていう確信が得られた事は本当に大きいね。」と、Rayが言う。


「そうだね。とにかく、すごく長い間この場所を異空間にしているって事が凄い事なんだよ。現代の能力をもってしても、電力を使わずに何十年とそんなものを稼働させる事なんて出来るか分からない。そもそも電波が届かない場所だけでも作るのは大変だから。俺には分かる。」DAMIAが自分の苦労と重ねて話しているのが伝わる。


「サンクチュアリ・・・だね。この場所は僕らにとって。」

自分の発した言葉に三人が無言で頷く。


「どういう仕組みか全てが分かったから、またきちんと対策を練っていこう。それでそれぞれの役割を分担して今度こそRayのお兄さんのようにならないよう、きちんとした計画で戦おう。」

DAMIAが珍しく一番やる気が出てきているようだ。彼女なりに考えがあるのかもしれない。


「兄貴のように・・・だけは余計だけど・・・。」

Rayが口をはさむ。


「よし、なんとなくイメージ出来てきたよ。戦える気がする。いや、やれるね。」

今日のDAMIAは今までと違って感情に溢れている。どんどんと、Rayの周りにいる人達の雰囲気が変わっていくのが分かる。本当に不思議な人だ・・・Rayって。


確認作業が終わると、僕らはそのパラキャップを元の状態に戻し、家路についた。

目の前に差し迫っている「その日」に向かって・・・やるしかない、そんな感情が僕らを突き動かし始めた。








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