第22話  the secret of the two

今日は僕だけがDAMIAに呼び出された。

話って何だろう・・・?きっとあの事かな・・・。

いつものようにDAMIAの隠れ家に向かう道中、なんとなくすっきりとしない空を見ながらふと考えていた。

今日の空は、自分の気持ちを映し出しているようだな、と思いながら中華街の通りをゆっくりと歩く。見慣れた景色ではあるが、今日だけは違う街に来たような気分だ。DAMIAが僕を呼んだ理由が・・・なんとなくは分かっていたからかもしれない。


___


DAMIAの隠れ家に入ると、暗闇の中で沢山の機器とパソコンから放たれる光に照らされ、目だけが妙に光り輝いているDAMIAがこっちを見ていた。

暗闇にひっそりと横たわっている猫のような大きな目で。

その目の光にドキッとした僕だったが、近寄っていきDAMIAの近くにある椅子にゆっくりと腰掛ける。


「やあ、DAMIA。話したい事って、多分・・・例の、兄貴の時の事だよね?」


僕は想像していた話かな?という思いで自分から尋ねてみた。

DAMIAには回りくどい話は意味が無いと思ったからだ。


鋭い眼光でこっちを見たまま表情一つ変えずに座っているDAMIA。

「うん。たぶんRayが想像している通り。やっぱりRayもお兄さんの時に気付いていたの?」


DAMIAの顔からは ”既に僕がその話をなんとなく気付いている” と感じている様子が伺えた。

軽く頷く僕にDAMIAが話を続ける。


「じゃ、話は早いね。」


「あ、うん。兄貴の時と・・・同じだよね。」


お互いがその事について話しをたくなくても、DAMIAからするとこの話は絶対にしなくてはならない。僕が気付いている事で少しでもDAMIAが話しやすくなれば、それはそれで良かったと思う。


「あの時、Rayのお兄さんにも伝えたように、俺達もそろそろ考えないといけない時が来た。今度、政府のネットワークに侵入をした時、誰が「生贄」になるか?という事。前回の時は、お兄さんが「生贄」になってくれたからRayには危害が及ばなかった。そして今回も俺はあくまでもサポート側の人間。裏方だから今後も含めて俺は政府を倒すまでは死ぬわけにはいかない。だからRayかSORAのどちらかが、万が一の時には「生贄」に・・・。まあ、それが俺と組む事の条件でもあるから。」


(やっぱりそうだったんだ。薄々は気付いていたけど、なんとなくDAMIAに兄貴の「死」について聞く事が出来ないでいた。兄貴が選んだ道。だからこそ、僕は助かった。そして今から僕らがやろうとしている事も、万が一・・・の事を考えなければならない。この間の兄貴の時も、DAMIAと兄貴が二人で話し合って、その時には兄貴が「生贄」になるって決まっていたんだよね・・・僕を助けるために。結局、兄貴の死んだ後だった。・・・僕がその事に薄々気付いたのは。

でも、それがあったからこそ僕は今、生きていられてる。そしてSORAと出会えたんだ・・・。)


少しだけ目を閉じ、兄貴との事を思い出しながら考えた後、僕はDAMIAに自分の気持ちを伝えた。


「多分、DAMIAの言いたい事も分かっているつもり。SORAは僕から見ても特別な人間だと思うし、神様みたいな事が出来る人だって思う。今回失敗したとしても、SORAなら絶対にその次はやってくれると思う。それを考えれば当然・・・だから万が一の事があっても・・・SORAを死なせる訳にはいかない。勿論、僕が「生贄」になるよ。」


「うん・・・良かった。それなら話が早いね。俺の性格でもちょっと話しにくい事だったから。無神経な俺でも・・・ね。前回のお兄さんの時も、Rayには知らせないでくれって言われていて、それでお兄さんは「生贄」になる事を決めた。勿論、全てが上手くいけば誰も「排除」されて死ぬ事はない。でも万が一、政府側に俺たちのネットワーク信号がバレそうになったら、その時は俺が操作して仲間の誰かを「生贄」として奴らの目の前にぶら下げる。そして他の人間は次の為に逃げるしかない。俺の仕事で全員を死なせる訳にはいかないから。」


「そうだよね、上手くいけば死ななくて済む。でも、万が一が無いわけではないから、決めなくちゃいけないのも分かるし、そんな時は二人を死なせる訳にはいかない。それは兄貴の時で分かっているつもりだから。でも・・・SORAとDAMIAと一緒なら、なんだか無事で終われる気がするんだけどなー。僕には明るい結末しか見えていないんだけどね。」


前回兄貴がDAMIAと話した時の心境って、今の僕と同じだったのかな?と、少し兄貴の顔が頭をよぎった。


「Rayの覚悟が聞けて良かった。絶対にこの話は政府ネットワークに侵入する前には、必ず皆に話している事。そしてそれを理解してもらった上で、こちらはサポートするようにしている。

という事で、Rayも分かっているようだから早速、手順を話しておく。それと、SORAにはくれぐれも秘密にしてよ。テストでも分かったけど・・・、SORAは本人も気付かないうちにRayの事を大切に思っているっていうのも分かった。もし、その話を知ったら自分が「生贄」になるって言いかねないから。」


DAMIAのさっぱりとした話し方が僕の不安をかき消してくれる。表情変えずに話してくれる方がこっちとしても助かる。そんなDAMIAには感謝しかない。そして、僕に対するSORAの気持ちをテストを通してでも聞けた事で、なんだかとても嬉しい気分になれた。


「うん、分かってる。二人だけの秘密だから。SORAには口が裂けても言わないよ。」

僕が覚悟を決めて答える。



「ではまず、侵入している最中に、万が一、政府側に俺らのネットワークシグナルを拾われそうになったら、その時はRayだけのシグナルを相手側に拾わせるようにする。基本的にはその前に、全てのゲートをクリアすれば良いだけなんだけど。バレそうになった時だけ、先回りしてRayのシグナルだけを奴らの目の前に置く。そこでRayのシグナルが政府に拾われたとしても、政府がRayの全ての情報を読み取るのに10分は掛かるように仕込む。何も対策をしないと他の人達みたいに瞬時に情報を抜かれるからね。「死までの10分間」が最後の自由な時間。

だから、バレたとしてもこの間の兄貴の様に、パソコン前ではなく、外でも何処でも自分の死にたい場所で死ねる。

万が一に備えて、最後の「死」の場所を自分でも決めておく方が良い。

でも、10分を過ぎると全てのRayのプロファイルが抜き取られる。そうすると政府にただ「排除」されるだけ。他の人達がやられたようにね。

もしもの時に、俺が最後に出来る事は、この10分間をRayに与える事だけ。政府にバレた時に好きな死に方を選ぶか、あるいは最後まで戦って、他の奴らの様にパソコン前で「排除」されるかの二拓しかない。

そしてRayが「生贄」になっている間に、俺らは姿をくらます。もちろん、バレなければ今の話は全て無関係って事になるけど、あくまでも最悪な話の場合ね。これが一番重要だから。」


「あ、うん・・・。ありがとう。だから兄貴は直ぐに殺されなかったんだね。そこだけは謎だったんだ。でも、全てをDAMIAが操作してくれていた事なんだね。他の死んでいった仲間を考えると、10分間も自分に時間があるって幸せだよ。普通なら情報を抜き取られてすぐに「排除」されるわけだから。たぶん、その10分間は色んな気持ちになるんだろうな。それにしても、そんな事が出来るDAMIAはやっぱり凄い能力の持ち主だよ。お陰で最後は兄貴とも少しだけ話す事が出来たし。本当に・・・いつもありがとう。」


「おいおい、まだ死ぬって決まった訳じゃないんだよ!今は皆で政府のネットワークをぶち壊す事だけをひたすら考えろ!こんな時に(ありがとう)って・・・。お前は本当に変な奴だな。」


DAMIAは死ぬ話をしたかと思ったら今度は政府をぶち壊す話に変わっている。本当にサバサバしていて死ぬ話がまるっきり不安にならない。


「それで伝えておくけど、実はカラスっていう奴がこっち側の人間でいるんだよね。知っているかもしれないけど、他の誰かが侵入した時に政府を嘲笑うかの様にネットワークに入ってはパッと消えていなくなる奴。こいつもかなりのキーマン。」


「あ!知っている。結構僕らの界隈じゃ有名だよね。有名というか幽霊?みたいな出現の仕方する人。DAMIAはその人の事も知っているんだ!流石だね!」


「そう、その幽霊みたいな奴。それがカラス。そいつは誰とも組まない。常に単独行動。他の誰かが侵入している時にフラッと忍び込んでフラっと政府を潰したいらしい。でも、そいつがその時に侵入してきてネットワーク内をかき乱してくれたら、チャンスは更にこっちに巡って来る。まあ、そいつはかなりの傾奇者だね。悪い意味で自己中心野郎。」


「え?そのカラスって、どうしても仲間には加わってくれないのかな?一緒にやれば間違いなく確率が上がるんでしょ?そんな風に簡単に入り込めるんだったら。」


「仲間にはならないね。この間もとりあえず聞いてみたけど。まるっきり興味なし。でも、やろうとしている最終的な目的は同じ。多分、俺達が侵入すれば直ぐにカラスは気付く。その時は必ずと言っていいくらい現れるはず。あいつは常に誰かが侵入している状況を高みの見物しているから。そして自分が入るタイミングを見計らって、一番おいしい所を持っていこうと考えている。まあ、最後のトドメは自分の手で刺したいんだろうね。」


「そうか、そんなに凄いんだ。そのカラスって。噂だけが独り歩きしていたけど、噂以上の能力の持ち主なんだね。なんだかそれを聞くとちょっと心強いけど。仲間が他にもいるんだって思う。」


「うん、まあ・・・、カラスを仲間の人数に入れていいかは分からないけど、あいつは他人の事より自分の事だから。ただ、能力は優れている。SORAよりは劣るけど、俺と同等位の能力があるのは間違いない。正直、SORAが実際に忍び込んだのを見た事ないからその能力はまだ未知数だけど。」


カラスという存在を聞き、自分の中にあった不安感がさらに消えていく。SORAといい、DAMIA、そしてカラス。僕以外は本当にレベルが突き抜けている。


「なんか、兄貴には悪いけど、SORAと出会ってからは本当に政府ネットワークを壊せるような気がしてるんだ。だから僕は・・・怖くないよ。一人じゃないから。」


「良かった。まあ、後は俺の方でも考えてる事があるから。もう少し対策は練らないといけないけどね。たぶん、今度はかなり面白い事になる予定。計画実行の時には俺の中の秘策も固まっていると思う。」


「わかった。とにかく信じてやるだけだね。僕も頑張るよ・・・。」


DAMIAの隠れ家からの帰り道、僕の心を埋めていた霧みたいなものが消えていくのを感じた。「自分の死」について話したはずなのに、来た時よりもどちらかと言うと帰る時の方がすっきりとして、不安も無くなっている。そして今までにない高揚感さえ感じる。


空を見上げると、来た時よりもドローンの隙間から見える空がなんとなく綺麗になったような気がした。

これで大丈夫。僕はもう・・・前だけを向いている。


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