第8話 The beginning

SORAと会ってから僕のテンションは上向きだ。


彼も「反政府」思考だった事が嬉しく、そして彼が協力してくれたらこんなに頼もしい事はないと感じた。


兄貴が亡くなった時には、仲間を探すのはもう諦めるしかないかな?と思った矢先だった。こんなにも早く、もしかしたら「仲間」になってくれるかもしれない人と出会えたなんて、と思うと自分の幸運さにその感情を抑えられなかった。

とにかく理由なんてどうでも良かった。

一人よりは仲間がいてくれた方が確実に自分達の目標は達成される。

「SORA」も協力してくれる事を今は願うばかりだった。

きっと彼はすごい能力を持っているはず。

そう信じるに至る何かを僕は感じていた。

________________


兄貴と僕は小さい時から親に捨てられ児童養護施設で育った。

この時代には捨てられた子供なんて沢山いるから親の顔も知らないなんてごく普通の事だったし、ましてや親を恨んでいる子供達なんてほとんどいない。

そこにいた他の子供達とはIDブレスだけで通信しながら生活をしていたから自分に名前がない事になんの疑問も抱いていなかった。

そう、周りの子供達にも名前なんて無かったから。

僕らはただの番号だけの繋がりだった。

児童養護施設はある意味政府の管轄下にある為、子供達同士の自由な付き合いもさせてはもらえなかった。

かなり子供の頃から統制が厳しかったのを思い出す。

そして13歳になると児童養護施設の子供達も皆、他の国民と同じように「適正テスト」を受ける事になっている。

勿論当時は兄貴と僕は政府下で働くのが当たり前だと思っていた。

今まで以上に良い暮らしが手に入り、何も不安なく暮らせるのは本当に有難い事だったし、政府下で生きる事こそが普通の人間の在り方だとも思っていたからだ。

そして二人共、テストを受ける頃には自分達の能力が他の子供達よりも優れている事に気付いていた。でもそんな時・・・。

今でも思い出す。あの時の事を。

____

「適正テスト」を受ける3か月くらい前に、兄貴と僕はとんでもない事を聞いてしまい、ある「真実」を知る事になった。

児童養護施設の施設長が「NCCB」の人とやり取りしているのを。

きっとIDブレスでの通信では傍受される可能性があるのを考えて、直接会って話していたのだと思う。

_________


「とにかく適正テストで良い結果を出してくれ。この子供不足の今、あなた達の努力はかなり重要になってくる。そして政府に貢献出来る子供達を沢山作り上げるんだ。何の為に行き場のない子供達に投資しているか分からないからな。」


「はい、わかっております。子供達は日々、我が国の為に真面目に勉強に取り組んでおります。きっと上層部の皆様が喜ぶ結果を出すと思います」


__養護施設という名を語った政府へ絶対服従出来る人間を製造する場所__


「いいか、反政府の人間が日々増えてきているという事がこちら側の調査で分かっている。以前よりも「虫」の増殖スピードが増している。幼少期からきちんとした教育でマインドコントロール出来ていないと大変な事になる。反政府思想を持たぬようくれぐれも見張っておくんだ。」


「もちろん心得ております。万が一、子供達の中でそのような思想が芽生える事があれば、私どもの権限により「排除」させて頂きます。例え「排除」しても子供達もお互いに無関心であるのでその事が周りに及ぼす影響は無いかと思われます。」


「・・・実際去年も3人程「排除」しましたが誰一人、気にする様子もありませんでしたし、寧ろ、いなくなった事に気付いてもいないかと。もちろん、「排除」を出来る限り避け、子供の数を必要以上に減らさないよう努力して参ります。」


「それなら良いんだ。しっかりとやってくれ。君も「虫」を作ったとなったらタダじゃ済まない事は分かっているだろうから。」


「それこそ私の望まない所でございます。しっかりと教育をして、国に忠誠を誓えるよう育てて参りますのでご安心を。」


_____________


兄貴と僕は瞬時に児童養護施設で起こった過去の出来事を思い出した。

二人共一度見た記憶は決して消えないという人間離れした頭脳の持ち主。

レベルが飛びぬけているという事は自分達でもわかっていた。

気にしていなかった出来事が、あっという間に走馬灯のように二人の頭に浮かんできた。そして点と点を結ぶかの如く二人の頭の中で全て起こった事を繋げていき、何が起こっていたのかという事を頭の中で組み立てていった。

以前から政府が推し進めてきた統制の事も。

その為にそのレールに乗れなければ子供でも「排除」していたのかと思うと、一瞬にして政府下で働くという夢なんか吹っ飛んでしまった。


___許せない___


それにしても「虫」・・・って。僕らは人間か「虫」かに分けられているだけの生き物なんだとその時察した。


__僕らは国によって決められた道を歩かされ、脇に逸れるような事があれば排除されるのだ____


この時から二人は反政府思想が強く芽生えていった。

もちろんそんなのは噯気にも出さず、第三者からは分からないような行動を心掛けていた。

そして3か月後の「適正テスト」を「不可」にする為の作戦を二人で構築していった。僕らはそんな中で、政府のネットワークの歪みを見つけだした。その歪みを操作する事で見事二人共「不可」を手に入れた…という言い方は可笑しいかもしれないが「不可」のレッテルを貼られた。


その後、児童養護施設から出された僕達二人は、当然のように世の中のごみ処理の仕事に就きながら二人で隠れながら自分達の能力を高めていき、その「時」を待ちながら過ごしていた。

僕らは空いている時間は常に新たな目標に向かって動いていた。

日々、ネットワーク上から色んな情報を政府に削除される前に拾っては保存し、を繰り返し入念に対策を練っていった。「真実」をもっともっと知る為に。

そして僕らに出来る事を探していった・・・。


__知れば知るほど僕らの国は愚かな人間が作り上げたものだったんだと__







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