第9話 Tracking

「棚橋さん、見つけましたよ。九州地区で意外と大きめな「虫」の集団を」


「トキタ、九州のどの辺りだ?」


「福岡県の中心部から少し外れた所からのネットワーク侵入を見つけました。まだ「虫」共にはこちら側が監視している事は気付かれていないようです。」


「どこまで侵入してきている状態だ?」


「はい、第一ゲートを突破され、第二ゲートへ向かっているようです。しかしながら前回、他の「虫」に第二ゲートを突破された後に奴らには気付かれないよう各ゲートの至る所にトラップを仕込んでおきました。」


「トラップ?・・・どんな?」


「はい、モニターをご覧頂いてる間にも「虫」共がどのようになっていくのかをお見せする事が出来るかと思いますが、まず第二ゲートには本物と偽物の二種類のゲートを用意致しました。今こちらの監視部隊により偽の第二ゲートへと「虫」共をおびき寄せるよう丁重に導いております。そして、そこのトラップにかかると・・・・。」


「・・・しかし、奴らに万が一トラップがバレたとしたらどうするんだ。きちんとその先も対策は練ってあるんだろうな?」


「もちろんです。第三、第四、そして最後の第五ゲートまでそれぞれ先へ行けば行くほど難しいなぞなぞのようにトラップが仕掛けてあります。そしてそれらもその都度、AI自動修復機能によりさらに強度を高めております。」


NCCBは常にネットワーク網を強化し、防御能力を高めているだけではなく、沢山のトラップも常時配置しているのだ。

トラップと言っても生半可なものではない。他の「虫」が政府のネットワークに入る事を恐れるくらいの事を考えなければ、また同じような輩が出てこないとも限らない。だからこそ、見せしめになるようなトラップを沢山ばら撒いている。


「さあ、「虫」共が第二ゲートのトラップ前までやってきましたよ。見ていて下さい。」


トキタの背中からは少しワクワクしたような様子が棚橋には見て取れる。


_________


「こちらから第二ゲート突破を試みる。突破したら俺を超えて第三ゲートへ向かってくれ!」


「了解!今、私も第二ゲート入口付近まで来ています。」


「こちらもすぐに第二まで到着します。」


「了解、こちらもあと少しです」


各々のパソコン前で皆、第二ゲート侵入のスタンバイに入る。


九州地区の今回の「虫」組織は数名から成り立っている。この数でも政府にとっては脅威である事は間違いない。ある男が発起人となり集まった九州福岡地区の集団。

この「虫」組織はお互いに顔も知らないIDブレスのみで連絡を取り合い今回の侵入の為に集まった者たち。

それぞれが違う場所に住み、同じ志を持つ者同士が何らかの形で繋がり、自分達のみでしか通信しあえない特殊なアプリを作りあげ、その通信アプリを使って連絡を取り合っている。

その為、政府には短時間ではそのアプリの存在やIDブレスの内容は気付かれない。もちろん、政府もそのようなアプリが沢山作られている事は重々承知だ。常に監視部隊が怪しいアプリの存在を見つけ出そうと日々ネットワーク上を巡回している。見つけ次第すぐにそれらのアプリを排除する為に。

だが、今では独自で色んなアプリを作れる人間達もちらほら出てきた。

「虫」と呼ばれる人間と政府の戦いは水面下ではかなり大きくなってきていた。

____________


「あと、もう少し!各自、自分達の持ち場で政府のプログラムを潜り抜けてくれ!目標は目の前だ!第二ゲートまであと10秒!」


「了解!」


と、その時


「う、、、、ぐしゃっつ」


「どうしまし・・・・!!ぐしゃっつ」


「ぐしゃっつ!!!」


__________


__言葉にし難い音がNCCB内にも異様な音となって響き渡る・・・。


暗闇の部内で顔を歪める人間もちらほら出るほどの映像が目の前に飛び込んでくる。まるで毛虫を足で一思いに踏みつぶした時のようにあっという間にぐしゃりと。


NCCBが配置したトラップにより第二ゲート手前まで来た先頭の男のマイクロチップ操作が行われ「排除」が行われた。その途端、他の仲間達も次々と同じように「排除」されていく。

一瞬にしてその「虫」達が首のない肉の塊と化した。

その光景は見るも無残としか言いようがない。

彼らはキーボードに手を置いたままの状態でテーブル上は真っ赤に染まり、それこそ血の海だ。まるで新品のケチャップをこぼしたかのように彼らの前に置かれているモニターまでも血まみれとなっている。

その飛び散った鮮血と頭がないだけの「虫」の姿があっという間の出来事だった事を想像させる。

むしろ頭があればまだ生きているようにさえも見える。

そしてそれら全ての死骸をNCCB本部内の壁面の大型スクリーンが分割して映し出し、部内を怪しい赤い光で照らしていた。


____________


「棚橋さん、ご覧頂けましたでしょうか?偽の第二ゲート手前でこの集団を皆「排除」致しました。皆、見ての通りパソコン前で首のない体だけの姿でタイピングしていますよ。まんまと罠に引っ掛かりましたね。」


一瞬間を置いてからトキタが続ける。


「このトラップの仕組みはと言うと、間違えて偽のゲートに入ろうとすると即座にこちら側のセキュリティープログラムが作動して相手のマイクロチップに逆に悪性のウィルスが侵入するように作られております。そのウィルスが侵入した途端にそのマイクロチップは制御不能になり自爆のように「排除」に至ります・・・そうです。首が吹っ飛びます。同時に「虫」の全てのプロファイルが収集されあっという間に個人を特定しこちらのモニターに全員を映し出せる仕組みとなっております。

いわゆる、「逆乗っ取り」とでも言いましょうか。」


「見事だな、トキタ・・。あっという間にそのウィルスは相手に感染して制御出来なくするのか。」


「はい、その通りでございます。」


「・・・ん・・・???」


____その時だった。


「おい、本物の第二ゲートを一匹の「虫」が突破しているぞ!」


「そ、そんな馬鹿な?!!」


NCCBの全員が壁面の大型モニターに目をやる。


全員が見ている目の前でその「虫」は本物の第二ゲートを突破したと思ったら画面上からふわっと消えた・・・。


「トキタ、今のはなんなんだ??」


「いや、わかりません・・・が、しかし、この「虫」は九州地区からではないようです。どうやって第二ゲートをすり抜けたのか、こちらでも把握出来てません。しかもそのあと幽霊のように自ら姿をくらますなんて・・・。偽の第二ゲートに惑わされることもなく・・・。な、なぜ・・完璧だと思ったトラップが見破られるなんて・・・。」


「どういうことだ・・。突破されたのか。またも第二ゲートを・・・。まずいぞ・・。いとも簡単に。しかも私達をあざ笑うかのように痕跡も残さず消えるなんて・・・」


「も、申し訳ございません。現在素性を調べておりますが、その「虫」がどこから侵入したのかも、その後の道筋も追跡出来ないようになっていてこちらでもさっぱり何が起こったのかも分からない状況です・・・。」


「・・・どういう事だ・・・どうして・・・?」


「さらに能力の高い「虫」がいるという事なのか・・・。もっともっと鉄壁なものにしないとまずい事態になるかも知れない・・・。一人だけなのか?それとももっと・・・・。」


瞬間的に現れた「虫」によりNCCB本部内は異様な空気に包まれた___


国の「AI」防御能力をもってしても破られるなんて・・・。

人間の能力が想像を超えようとしているのか?あるいは既に・・・。


棚橋は静かに目を閉じながらも胸騒ぎが起こるのを感じずにはいられなかった。


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