第5話 ごぼうときのこ

独特の苦み、というか

部屋に広がるきのこの香りになあさんは

鼻をぷすぷすさせて

入ってきた。


こたつの横で一度止まって

うろうろして、

俺はキッチンから見ていた

開けっ放しのドアの枠を何度も過ぎるなあさん

出たり、引っ込んだり、

出たり、引っ込んだり。


思い出した。

言っとかないと。


「なあさん、今日、俺の原チャ来てるの見てから道渡った黒ねこがいる」


目が合ったのに黒ねこは、

渡り始めた。

渡るだろうな、とは思った。

だからもちろんちゃんと止まって、

先に渡っていただきましたが、

危なかったよ。


なあさんは

首を傾げた。


「黒ねこ、おれだった?」

「なあさんじゃなかったよ」


ふうん、となあさんは

扉の枠の真ん中で止まった。

額縁に入れられた絵のようだ。


鍋がふつふつ

火を止める。


こたつに運んだ鍋を見てなあさんは

聞いた。


「きのこ?」

「まいたけ」

「きのこ?」

「ひらたけ」

「きのこ?」

「ごぼう」


なあさんは

首を傾げた。


それから嬉しそうに鳴いた。


「ゆきおは、ちがいがわかる男だな」






……定番えのきが、歯に悪い今日この頃。(雪緒)

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