第2話

その頃。

14歳の松原明梨まつばらあかりはまだ6歳の妹、松原明日香まつばらあすかを抱っこして逃げていた。いきなり追いかけて来た人から逃げているのだ。

(私は騎士。明日香は逃亡者。何かあったら明日香を守ってあげないと…)

「お姉ちゃん?どうしたの?」

「明日香。今は黙って。危ないから」

「はーい…」

明日香が居なければ、普通に[騎士]として戦える。なんなら明梨は剣道部の中でもトップで、県大会で優勝した。しかし、明日香を守るという任務がある今の明梨は、そう簡単には戦えないのだ。

「ちょ待って…お姉さん!」

さっきの人は追いかけてくる。口調的には大丈夫そうだ…が、油断させるつもりかもしれない。

「お姉さん、俺はっ…あう…痛ぁ…!!」

転んだらしい。今のうちに逃げる。

「お姉さん、お願いだから、待ってくれえぇ……………」

離れて声も聞こえなくなってくる。

「ふぅ…明日香、怪我ない?大丈夫?」

「うん。それよりお姉ちゃんは?大丈夫?」

「大丈夫。…あの人。いったい何なの…」

「?お姉ちゃん?」

「あ、いや、な、ななな何でもない」


「兄さん」

一人の少女、天乃月華あまのげっかが兄、天乃陽太あまのようたに話しかける。

「どうした」

「兄さんの役職って何」

「俺は応援団だよ。月華は?」

「私も」

「そっか!…っていうか、最近月華って俺に冷たいよね…俺、なんかした?」

「した」

「何したの?俺」

「…私が大切に取って置いた期間限定のチョコゼリーを食べた」

「えっ!?それだけ?」

「…?何がそれなの?」

「…え?」

数分間言い合いを続け、結局…

「月華様、大変申し訳ございませんでした」

陽太が言い合いに負け、土下座。すると月華は満足そうに頷き、

「じゃあ、デスゲーム終わったら高級焼肉屋連れてって」

「…え?奢りってこと?」

「うん。そゆこと」

「うわぁ…」

そんな会話をしていると。

「あ、月華。狂人の情報入ったよ」

「ホントに?」

月華の顔は、さっきまでは暗く、ドス黒いオーラを纏っていたが、中の人は明るい子らしい。

「えっと、名前は白石安奈。女性。銀髪。大体17歳くらいで、美人。春日丘高校かすがおかこうこうの制服を着てる。…だって」

「誰がその情報を?」

月石美咲つきいしみさき、って人らしい」

「有能だね、その人」

ピコンピコン。

スマホから着信音が。兄妹は早速確認。

【通知】[運営より]

{ただいま、鬼により月石ツキイシ美咲ミサキが葬られました。}

(葬られた…鬼に捕まったって事!?こんなに早く…さっきまで讃えてたのに…)

一方、陽太は別のことを考えていた。

(邪魔だから、葬られたのか?なら、あまり目立った行動はできない…)

そして、最後にこう呟いた。

「俺は、応援団じゃなくて、実は…………………だから、な」


(どうしよう、俺、足遅いのに。鬼ごっこなんて…無理だよ…)

心の中でそう呟いたのは、秋野忠司あきのただし。運動が大の苦手である。

(しかも、俺、騎士じゃん…。結構重要な役割じゃん…)

そう油断していると、背後から急にタッチされた。ビビったが、振り向くのが怖い。死を覚悟した忠司だが。

(…何も起こらない)

「よう、秋野。俺だ、樽井冬馬たるいとうま

冬馬は真の大親友。足が速い。

「秋野、お前逃亡者だろ?ちなみにだが、俺も逃亡者」

「え…あ、うん。樽井!一緒に逃げてくれないか?」

「ああ」

そして、しばらく雑談していると…

「獲物みっけ」

「狂人、白石安奈、か…」

「ふーん。バレてるんだ。まあいいや。鬼にタッチされたし、アイツ。ミサキ…だっけ?」

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