第36話 【幸太】一触即発

午前中はわりと落ち着いていたので、チャイムと同時に昼休憩に入った。


久々に、定食屋でもいくか。

美波に余計なことを話しためぐにも、文句をいってやらないと気が済まないし。

めぐのせいで、俺は美波と会うたびにガンを飛ばされるようになり、前よりさらに気まずくなってしまった。



大盛りにしたうどんを手に、いつものように定食屋で秋山とランチしているめぐのテーブルに座った。

「あれっ、小倉さん、こんな早い時間から珍しいじゃないですか」


「今日は暇でさ。てかさ、めぐ、お前美波に余計なこと言っただろ。俺、毎日睨まれるようになってマジで最悪だわ。一言お前に文句いってやりたくて」


「え、ヤキモチじゃないんですか?美波さん、まだ小倉さんに未練あると思うから」


「はあ?あるわけねーだろ、あんな恐い顔してんのに」


「だーかーらぁー、未練があるから怒ってるんじゃないですか。女心がわかってないなあ。」



調子にのるめぐに少しイラっとしたが、ふと、美波の言葉を思い出した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


‥‥社内の女なら誰でもよかったんだって思ったら、マジムカついてきて。‥‥


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




美波が??

まさかな。

だいたい、おれが振られた側だし。



「それより、小倉さん、ひなともうヤりました?」



「お前さぁ、聞き方!!女なんだからさ。」


「今時、女だから男だからとかいうの、流行んないですよ。てかその指輪、ひなとペアなんじゃないんですか?」


さすが情報通のめぐ。晴翔並みに気付くのが早い。うっかりにやけてしまいそうな俺は、目を逸らして壁のメニュー表を見た。

「あ、これ?まぁね〜。そーだけど?」


「なあんだ!やっぱり!!ひなは月曜日の朝しかしてなかったからはっきり覚えてないけど、絶対お揃いだと思って。ひな、なんか月曜日暑いのにタートルネックとか着てて、イミフだったし。」

めぐは俺のワイシャツの襟元に目をやった。

「小倉さんの方が、ひなに夢中みたいですね。」



俺は調味料とメニュー表の間におかれた、変色したうちわを出してあおいだ。

「観察力細けぇな!!恐れ入るわ!ひなは、社内だし、まだあんまりばらしたくないみたいだから、あんまり他のやつに言うなよ。」

言うなよ、っていってめぐが約束を守るなんて到底思えない。

むしろ、言うなよって言ったら、余計言いたくなるのがめぐだろう。



「ひなの下着、黒でしたか??」

めぐは楽しそうに続ける。


「はぁ?」


「いや、小倉さんとデートの前、ひな、水着どうしよう下着どうしようって騒いでたから。ひなの勝負下着は黒らしいですよ!」



「マジさぁ、お前ほんと、口軽すぎ‥‥」

めぐには呆れつつも、ひなが、俺とのデート前にそんな事期待したり相談してたことや、下着が黒だった事を思い出して、俺は照れ隠しに下を向いて頭を掻いた。



「秋山さんも、何黙ってきいてるんですか。めぐにちょっと説教してやって下さい。」


「いやぁ、みんな若くていいねぇ〜。ハハハ。」


のほほんと人畜無害な顔しやがって。実は秋山の方がスパイで、めぐのためにせかせかと情報収集してるんじゃないだろうか。

バカなことを考えていたら、晴翔が店に入ってきた。


「おー、晴翔じゃん、定食屋くるの珍しいな。」


「そーっす。定食屋のキラカードっすよ。俺。最近、よくめぐにチャットで話きいてもらってて。」


「なんだよ、恋の悩みか?」


「そーっす。でも、昨日めぐにアドバイスもらって、この前のこと謝りたいって連絡してみたら、なんかまたいい感じになって、ごはん食べにいけたんすよ!だから、めぐに報告しようと思って。」



「マジかぁ、めぐやるじゃん、キューピッドってやつだな。いいところあんじゃん。」

俺は少しだけめぐを見直した。





めぐはなぜか不敵な笑みを浮かべて俺たちのほうを見ている。



「そっ、恋のキューピットです。私は、みんなに幸せになってほしいんで。」




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