第35話 【陽奈】本当のキャラはどっち

定時後、私は化粧を直して会社を出た。

ハルトが予約してくれた、夜景が見えるレストランの近くの広場で、6時半に待ち合わせをした。


6時15分、地下街のトイレで、私はまた化粧を直した。アイメイクとリップをばっちり決める。




何やってんだろ、私。

ごはん食べるだけ。そう決めてきた。



でも、少しでも可愛い自分をハルトに見てもらいたい。そのくらい、いいよね。



今日は夏の音楽祭の真っ最中。広場には様々な屋台が並び、大音量のジャズで会場は賑わっている。

6時20分をさす大きな時計の下に、ハルトの姿が見えた。

「ひなさ〜ん!!!」

人混みの中、ハルトは大きく手を振り、ピョンピョンと飛び跳ねながら、いつもの笑顔で私を呼んだ。


「ハルト、遅れてごめん、待った??」


「全然っす。ひなさん、食べたいもの決まりました??」


「いや、まだ、、」


「俺、ホームページ見て、これとか、これとか頼んで一緒にわけたらいいかな〜って!!」

ハルトはスマホでレストランのメニューを開きながら、とても楽しそうに食事の話をした。




ハルトは、作るのも食べるのも好きなんだな。ハルトがもし旦那さんになったら、土日はいっぱいおいしいものを作って食べさせてくれそう。。。


なーんて。




コータは忙しくて平日はあんまり連絡してこないから、バレることもないだろう。

ごはん食べるだけなんだし、何もへるもんじゃないし。


自分に言い訳をして、ハルトの横を歩く。



「とりゃー!!!!」

突然、小さい男の子が、お祭りの出店で当たったのであろうおもちゃの剣を振り回して、ハルトを叩いた。



「すみませーん!!!こらっ、ユーキ!!!!」

母親と思われる人が後から走ってきて、子どもの頭を掴んだ。


「いやいや、全然大丈夫っすよー」

母親に笑顔でそう言うと、ハルトはしゃがんで子どもに言った。

「ユーキくん、ガイオージャー好きなの?お兄ちゃんと戦おっか?」

「えっ、本当!?」


母親らしき人は慌てて、ユーキくんを引っ張ると

「すみません、お邪魔して。ほらっ、ユーキいくよっ!」

と反対を向いて歩いて行った。



私は少し気持ちがほっこりして、ハルトに聞いた。

「ハルトは、兄弟いるの?」


「うん、兄ちゃんと、弟2人。歳離れてるけど。」

4人兄弟!!珍しい。


「ねぇ、なんであの剣が戦隊モノってわかったの??」


「甥っ子が今3歳で、ちょうどガイオージャーが大好きで、よく戦わされてんすよ。」


楽しそうに笑うハルトを見て、私は、抱っこ紐をつけて上の子を公園で遊ばせる、私の中の理想的なパパ像を思い浮かべた。





レストランに入り、私達は窓際の席に案内された。

パノラマビューの夜景が綺麗な、ホテル最上階のレストラン。店内には、広場の音楽祭とあわせてか、ムーディーなジャズが流れる。


「オシャレなお店知ってるんだね。よく来るの?」

さりげなく探りを入れる。


「いや、この前、親戚の還暦祝いで甥っ子たちときてさ。そん時は、個室だったんだけど、ここ絶対デートだろ!って思って。笑」


親戚付き合いのよさそうなハルト。


時折、普通の喋り方になるハルトを見ていると、チャラいキャラは演技で、本当は家庭的な性格なのではないかと思えてくる。


料理をひととおり頼み、先にワインで乾杯した。


「ハルト、モテるでしょ?」


「小学校がピークでしたね。チョコが、持ち帰りきれなくて、2日にわけたり、友達にあげたりしてたんすよ。笑」

届いた前菜をほおばりながら、ハルトは楽しげに話す。


「さすがだね。笑 最近はどうなの?」


「先月まで彼女いたんすけど、ふられちゃって。笑 それ以降はなんもないっすよ〜。高校の男友達と会ったり、会社の同僚と飲んだりそんなんばっかっす。昨日も、コータさんと2人で夜中まで飲んだりしてて。笑」



「え、コ‥‥って、小倉さんのこと!??」



私は笑顔が保てなくなり、表情を悟られないよう、料理のほうに目を落とし、口元を手で隠した。




「あ、そうそう、小倉さん。よくわかったっすね。前、プロジェクトが一緒で、毎日飲んだりしてて、小倉さん、面倒見いくって、兄ちゃんみたいなかんじなんで、俺、大好きなんすよ〜。でも、最近彼女できたみたいだから、あんま構ってもらえなくなりそーっすけど。」



「‥‥」



「ひなさん、どしたんすか??」

ハルトが手を止める。


「い、いや別に、小倉さんとハルトが親しかったなんて、年も離れてるし、なんか意外だなーって。」



「そーすか?俺、結構、上司に可愛がられるタイプなんすよ。あ、次何飲みます?」


私のグラスが空になったのに気づき、ハルトはドリンクメニューをさしだした。



私は、迷ったあげく、罪悪感を覚えながらペアリングを外して今日ここにきたのだが、別の意味で大正解だった。

ハルトなら、きっとすぐ私たちがお揃いの指輪をしてるって気づいてしまっただろう。



2人で飲んで、彼女いるとかいないとか話すほど、ハルトとコータは親しかったんだ。


ハルトは、その彼女が私だって知ってるの??


コータは、ハルトから私のことを何か聞いているんだろうか。


嫉妬深いコータが、私とハルトが関係もってたって知ったら、どうなるんだろう。


体中から血の気がひいていく感じがした。



「ごめん、ちょっとトイレいってくる。」




レストランの外のトイレで、私は呼吸を整えた。

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