第5話 自称森の大賢者、聖獣お猫様登場1

 さて、道路を開削し始めて2週間ほど経つ。

 距離計を見ると30kmほど進んだことがわかる。


 以前よりも微妙に寒くなってきている。

 木々も紅葉を通り越して茶色になった。

 落ち葉も凄くて道路を外れると地面がフワフワしている。


 背の高い木に囲まれているから、見通しはさっぱり。

 森はずっと平地のようだ。

 丘のような場所はあるけど、概ね平坦で助かる。

 川はあるけど、せいぜい小川レベルだ。

 簡単に越えられる。


 2日に一度程度はゴブリン軍団の襲撃がある。

 ネズミとか兎とかの類の小動物型魔物や魔獣も

 襲撃してくる。


 200体程度はやっつけているし、

 相応の魔石もゲットしている。

 でも、レベル4にはなかなかならない。


 もうレベルアップしないなんてないよね?

 いい加減、マ◯クに飽きてきたんだ。

 だって、4種類しかメニューがない。


 まあ、異世界で食べるものが自動的に出てくる、

 というのは本当に助かるから、

 贅沢な悩みなのは重々承知してるんだけど、

 何しろ2週間ほぼかわりのない毎日なんだ。

 しかも、視界がほぼ森に遮られているから、

 かなりの閉塞感がある。



 少しばかり不安がよぎりながら道路を切り開く。

 すると、探索レーダーに緑色の点滅が。


 レーダーに探知されるのは赤色ばかりだった。

 緑色は始めてだ。


『赤色は攻撃性の強い物体。緑色は対象者が攻撃する意志のない場合』


 攻撃する意志を判断するんだと。

 それこそチート能力だと思う。

 ファンタジー世界だしなんでもありなんだろう。

 マ◯ク食べられるし。


 僕は急いで緑の点滅場所に向かった。

 すると、動物が横たわっている。

 

「猫?」


 大きめの猫らしき獣が横たわっていた。


「おい、大丈夫?」


 顔をピチャピチャ叩いてみる。

 

「(腹減った……)」


 え、この猫しゃべった!

 さすが、異世界。

 でも、不思議な声だ。

 僕の脳に声が響く感じだ。


 と同時にうっすらと目を開く。

 印象的なブルーだ。

 体毛はモコモコの長毛白色。

 耳が濃いブルーグレー。

 顔は薄いハチワレ・ブルーグレー。

 ラグドールとかバーマンの系統に似てる。


 でも、ハンバーガーとカロリー◯イトもどき。

 僕の持っているものはそれだけ。

 猫にはまずいだろ。

 迷った末に、ハンバーガーのパテを水で洗って

 猫に食べさせてみる。


「(!)」


 猫は目を大きく見開くと、皿にもられた

 パテの残骸にむしゃぶりついた。


「(うますぎる!もうないか?)」


「いや、人間の食い物はダメでしょ?」


「(全然問題あらへん。ワテは魔猫やさかいにな)」


 関西弁をしゃべっているように聞こえる。

 ただ、「さかい」はご年配以外あんまり使わないと思う。

 僕は大阪に5年ほどいたことがあるから、

 多少は関西弁に詳しい。


 まあ、魔猫というし、大丈夫か?

 僕はハンバーガーをまるっとあげることにした。


「(なんや、これ!衝撃的な旨さやん!)」


 魔猫はウニャウニャいいつつ、かぶりつく。

 器用に足?手?で持って。


「(ふう。ちょっと人心地ついたわ)」


「どうしたの?こんなとこで倒れてたら、危ないでしょ?」


「(いやいや、数日食ってないんや。腹減って力がでんよってな)」


「そう?んじゃ急ぐんで」


「(ちょっとまってーな。まだおんねん。奴らにもあげたってや)」


「まだいるの?いいよ」


「(ピー!)」

 

 魔猫は口笛を鳴らす。

 すると、ヨタヨタと子猫が現れた。

 生後一ヶ月程度?

 横耳じゃないけど、後ろ足を揃えて走ってくる。


「うわ、可愛い!」


 僕は動物好きだ。

 特に猫。

 子猫が走ってきたら頬が緩んでくる。


 でも、走ってくるのは一匹だけじゃなかった。

 草むらからどんどん出てくる。

 次から次へと。


 結局、10匹の子猫が勢ぞろいした。


「ミャー」「ミーミー」「ピニャー」


 大騒動になってる。

 僕は大慌てでハンバーガーを大量に注文し、

 一応パテを細かくして水で洗い、

 子猫たちに食べさせた。


「「「ウマウマウマ!」」」


 食べながら大声で可愛い唸り声をあげている。


「「「ウミャー!ミーミー!」」」

 

 あっという間に食べ尽くし、

 僕の周りに集まっておかわりを要求している。


 すると、ヤンキー座りしている僕の背中に

 次々と子猫たちが登り始めた。

 爪が痛い。

 

 頭の上に一匹、左右の肩に一匹ずつ、

 あと残りが次々と頭頂チャレンジ中。


「仕方ないなあ」


 僕はニヤニヤが止まらないのだけど、

 一匹ずつ地面に下ろし、おかわりを持ってくる。


 それをあと一回繰り返し、ようやく騒動は収まった。


「(あんがとさん。助かったで。へんなもの食ってな、動けんようになってもうたんや)」


「どういたしまして」


「(ところで、あのけったいな箱、あんさんのか?)」


「自動車なんだけど」


「(自動車?なんやそれ)」


 なるほど。

 自動車を見たことないのか。

 この世界にはないのかもな。


「ああ、馬なしの馬車」


「(なんやて、馬なしの馬車?)」


 魔猫はそういうと車のほうへ走っていった。


「ああ、結界があるから走っちゃダメ…」


 と言おうとしたら、魔猫は結界をするりと通り抜け、

 開けっ放しのドアから車の中に入ってしまった!


「(おお、すごいやんけ!こんなキレイな馬車、始めて見たで!)」

 

 続いて子猫たちが続く。

 でも、結界にはばまれてミーミー怒ってる。


「おい、結界があるのに」


「(あ?結界?そんなん、ワテにかかればないのとおんなしや)」


 なんと。

 ゴブリンやホブゴブリンにも通用した結界。

 それがこの魔猫には通用しないって?


「(ワテはな。森の大賢者様や。一応、聖獣カテゴリーやさかいにな。リスペクトせーや)」


 うーむ。

 顔は可愛いけど、ちょっとドヤ顔でイラッと来る。


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