最終話 ジューダス・クライム
「あの後の日々は本当につらかったよ、リーダー。」
後悔と懺悔のような過去を語り、俯く彼女は今何を思っているのだろう。表情は見えず、唯々俺は話を聞き続けていた。
「…頑張ったんだな、ミハイル。」
「ああ、頑張ったよ。どうにかして皆を、リーダーを助けられないかずっと探し続けていた。何も知らないリーダーに隊長だなんて言い張って指示を飛ばす日々は本当につらかった。何度自殺しようと思ったかわからない。」
でもソレすら叶わなかったのだろう、話を聞く限りではミハイル達もまたレイメイの住人に数えられている。
自殺ですら、レイメイの住人に悪意を持って行動することと数えられてもおかしくない。
「なあ、何が隊長だ。リーダーを、皆の未来を犠牲にして生きながらえておいて何が
今まで見たこともないような笑顔で笑うミハイルはこちらへと歩いてくる。その手にもった小さな
「白紙化は思っていたほど万能の秘宝じゃなかったが…それでも皆を救える。もうリーダーは苦しまなくていいんだ。」
「まてよ、その秘宝はどういう能力を持つ、何をする気で…」
トン、とミハイルは俺の胸に飛び込んできて…
体に
体が動かない、ただただ開かれた俺の過去が流れ込むだけ。
「契約改竄、5年前のアルランドとクライムの契約について。」
詠唱を、始める。
「契約の破棄による犠牲をミハイル、レイシア、ネームレス、ラグナロク、ROA、の5人から現国王アルランドに。代償は私の命でだ。」
「ミ…ハイル、」
「さよならだ、リーダー。ありがとう。私を助けてくれて。皆と過ごした時間だけが私の人生だった。」
はにかむ笑顔でこちらを見据えて段々と力が抜けていく。
「まて、待ってくれ!!!」
体は依然動かない。ふらふらと足で立つのもおぼつか無くなり、そしてミハイルは倒れ伏す。
その死に顔はとても安らかなものだった。
◆◇◆
「なん、なんで。なんでこんな…。」
いくら隊長を抱きかかえて揺さぶろうがもう彼女は目覚めない。
突如告げられた過去に、今の現状。もう何もかも俺の頭で理解できる許容量を超えていた。
パチパチパチ、拍手が、たった一人による拍手が狭い宝物庫で響く。
「いやあホントに使っちゃんだんだ、白紙化。はは、ウケる。」
こちらに近づいてきたのは第一皇子だった。
「お前…。」
「はは、見事に騙されてくれちゃってさ、白紙化なんてそう都合のいいもんあるわけねえだろってね。ま、この女も周りが見えなくなってたんだろうね、滑稽で面白かったよ。」
「なに、言ってんだ…?お前…。」
「いやいや御免御免、わかんないよね、実はさ、ボクがミハイルちゃんに情報をあげたんだよ。こんなにも都合にいい秘宝があるってね。」
ゲラゲラ下品に笑う彼は品位も欠片もなかった。
「契約の改竄?できるわけねえだろ!契約を結んだのは生まれ変わる前のクライムだぜ?生まれ変わった後のコイツに鍵差してもなにも変わんねえよ!」
ゲラゲラ、ゲラゲラ。腹を抱えて笑う彼の顔は醜く歪み切っていた。その性根を現すように。
「つまりこの女はただの無駄死にってね!ったくオモシレーたらありゃしねえよ!!お前らは今後も俺達レイメイのために人生捧げるの確定なんだよ。馬鹿どもが。」
「もう、黙ってろよ。」
「は?なんて?何か言った?もしかして俺に危害を加える気か?」
「要は、取り戻せばいいわけだ。そうだろ。」
「気でも狂ったか?クライム。でも関係ない、契約はそのままだ。一生お前らは…」
長々と勝ち誇った顔をさらし続ける彼を放って俺はドアを叩く。
心の中の記憶の扉。いつもいつも聖属性魔法を使った後に訪れる。あの部屋に。
◆◇◆
「よ、楽しくやってるか?クライム。」
「…ハイザキ。」
一面の白、ここに自分から訪れることになるとは思いもしなかったが。
「なんとなく思い出したか?自分が何者か。」
「ああ、だがわからなかったのは過去の記憶を失った俺がどうしてお前だけは記憶から消えていないのかってことだ。」
この前世。新たなジューダスクライムとして生まれ変わったのならこの記憶だって消えているはずだ。
「言ってんだろ、俺は前世だ。消えない罪だぜ?罪は何処まで行ってもついて回る、影のようにな。例え記憶を失ったとしてもこうして残るんだ。こんな部屋に押し込められちまったがな。」
「俺は昔の俺を取り戻さなくちゃいけねえ。」
「分かってる。でもそれは今日までのお前の否定だ。曲がりなりにも生きてきたお前の今の人生と昔の人生の統合だ。正義を為してきた。そんな自分との決別だ。」
ハイザキは続ける。
「お前はどうする?クライム。」
「俺の答えは決まってる。今分かったよ、ハイザキ。大事な物ってのが何か。俺は自分が正常でないといけないとそう思っていた。」
言葉を紡ぐ。
「レイメイの特殊部隊なんていう一員で、誰かの命を奪うこともある人生に、正しく生きるためにそう言い聞かせてきた。正しくあろうとしたんだ。」
生き方を、道を決める。
「思い出したんだ。仲間を救うためならば、俺は何でもやれるって。」
「そうかい、じゃ、終わらせて来いよ。」
トンと、背中を叩かれる。
「ああ、俺は
終わらせよう、何もかも。
◆◇◆
眼を開く、俺の腕で倒れたままのミハイルと、笑い続ける皇子サマ。
「ハッ!どうした?さっきまでの威勢はよ!!ほら、攻撃してみ…」
バキッ!!!!!と骨の砕ける音。
一撃で皇子の顎を砕きながら吹き飛ばす。
「アガッ…!!!!」
「ざまあねえなクソッたれが。」
「ほ、ほひてめえ!こんなことして許されるとでも」
上手くしゃべれなくなっている皇子を無視して彼を呼び出す。
「確か…こうだったかな、メーミン。」
俺の後ろに男が現れる、白の世界から飛び出てきた悪魔が。
「お前のやってきたことを思えばだ、ハイザキ。とうに人間なんてくくりを越えた現代の悪魔みたいなもんだろう?だから仲介しろよ。」
「知らねえよ。」
正常に拘っていたが故に使えた聖属性など捨て去った。
代わりに残ったのは悪意と、倫理観を捨て去った者に使える闇属性魔法だけ。
「犠牲儀式をする。」
魔法陣を広げて儀式を始める。今までのありったけの恨みを込めて、異常を為す。
―
一際大きい、最早城を包み込むかのようなサイズの陣が壁を突き抜けて描かれる。
「願いはミハイル・カロラインの蘇生だ。」
「でもそんな願い、代償がでかいんじゃねえの。」
ケラケラ笑う
「ああ、そうさ。代償は大きい。とてもじゃないが釣り合わないだろうな。」
とてもとても一人だけの犠牲では足りぬ。
「代償は魔法国家レイメイの王族全員の命にしよう。あぁ、きっとそれがいい。」
内から笑みがこぼれて止まらない。もう過去の自分と融合した自分になったのだと。正義を為すのではない、気分で全てを害して救う異常者へと変質したんだろう。
「まずは手始めに一番近い王族から行こう。」
「ヒィッ!!」
残虐を行使し、異常を遂行する。犯罪者なんてそんなもんだろ?
其の日、レイメイは崩壊した。
◆◇◆
ある日、大陸に激震が走った。
魔法国家レイメイがある集団によって滅亡したのだ。
一面そのニュースは駆け巡り、どうにもある集団は今も逃亡中らしい。
気の向くままに殺しと救いを振りまく6人が、再来するのは何処の街なのか、犯罪者の足取りは杳として知れない。
その集団の名前は
かつて特殊部隊として名を馳せた彼らは外道に堕ちきった。
願わくば、彼らに出会わないことを祈るばかりだ。
今の彼らはより残虐で気分屋なのだから。
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