第26話 完全調和メーミン
「地脈操作 弐号
何度も何度も障壁を重ねる、重ねて、重ねて…壊される。
「殺して…殺して…頭を撫でてもらわなきゃ…。」
魔法の詠唱すらない、めちゃくちゃな攻撃。本来詠唱せずに放つ魔法などたかが知れているものだが並みの魔法レベルはある。
仮に本気で詠唱したなら…考えるのは良そう。
差し迫る炎の蛇と宙を舞う氷の斧を壁で防いで逃げていく。
「チッ、攻めねえと話にならないな。」
地脈操作 肆号 亜流
まずは拘束、細い土腕が何本も生えては彼女につかみかかる。
しかしそんな行為は彼女には意味はない。意識はぶっ飛んでいようと自分の身に降りかかる悪意への対処は完璧だ。
10の魔法陣のうち3つを腕を潰す行為に充てて残りを引き続き攻撃に転じさせる。
雷の剣に闇の盾、風の槌が守りを担当したなら残りは俺を襲うだけ。
「やわな攻撃はお嫌いってか?いいさ、からだにちょっと穴開くけど派手なピアスでもつけてくれや。」
地脈操作 捌号 泥遊び 亜流
両手に握った拳銃が火を噴く。いつかの悪魔を殺したように。
ドガガガガ!!!!と、およそ人体に向けて撃つべきではないほどの威力を誇っているのが音だけでも理解できる。
爆音からの静寂、いくら10の魔法陣の数を防御に充てていようがさすがにこの土細工の攻撃は防ぐなんざ不可能だ。
なんせ速すぎる、そして仮に間に合おうが威力自体も絶大。難点と言えば暴力的すぎて確実に原型を保たねえことだが…。
土煙が晴れたころには体中に穴の開いたメーミンが立ち尽くしていた。
この大会では初の死者だがこれもルーr…
「アハハハハハハ!!!!!!」
笑う、笑う、笑い続ける。何がおかしいのか、何がおかしくないのか。
「やっとわたし死んだんだ。だったら、だったら、」
もう一度生きていかなきゃ。
その台詞を言い終わるやいなや彼女の肉体が癒えていく。
いや少し違う。回復術などを使ったような自己修復を速めるような、そんなものとは別の何か。
自然の摂理から外れきったような、そういった感覚を与えるような治り方。
「あはあっは、あhっはあh。」
痛みに顔を歪めながらもいびつに笑い続ける彼女は一体何が
「いよいよイカれちまってるな。」
肉体を完全に治した彼女はまたも魔法陣を展開…しなかった。
「脅威…殺意、判別。ウチの、ウチは調整を…」
うわ言をいいながらゆっくりと、しかし確かな意思をもって彼女は右腕で左腕を掴むと…
ボチン!!!とおよそ聞いたことの無い音。いや聞くことがあってはならない音。
自分で自分の腕を引っこ抜くような音など誰も聞いたことがない。
そうして腕を地面にほおって唱えだす。
「
地面から巨大な物が近づいてくる振動を感じた矢先、何かが飛び出て彼女の浮いた腕に喰らいつく。
眼の無い巨大な魚のような、ミミズのような、そういうなにか。
今の召喚によって呼び出されたのであろう魚は一応は彼女を主として認めているようだった。
がぶがぶ、がぶがぶ。正気を保ってこの光景を見続けるのには強靭な精神がいるだろう。
魚は食事を終えるとその体躯を俺へと向ける。
「気味が悪いな、全く。」
2VS1が始まった。
◆◇◆
「地脈操作 伍号、壱号
すぐに俺の足元の地面を爆ぜて宙に飛び空中で地面を道を固定して上空に立つ。
「ッと。」
魚が俺を呑もうと飛び掛かってくるのをギリギリで避ける。
コイツがいる限りそのまま地面に立っているわけにはいかない。
ただし空中に居れば…
「地脈操作 弐号
四方八方からの魔法陣による攻撃が飛んでくる。宙にいるなら下方向からのバリエーションまで増えてしまうが魚から距離をとるためには抗せざるを得ない。
全く以ていいコンビネーションだ。
陣の中心にいる彼女を見れば既にもげた…もいだ腕は治っていた。
「ったくどんな
ぶっちぎりでイカレた能力だ。今まで戦ったどんな奴よりも狂っている。強いとかそれ以前に狂いきっている。
「もう手抜きなんてできねえよな。」
俺の腕から指先へ、今まで以上に力を籠め、さりとて今まで以上に繊細に。
一際大きな魔法陣を描いて描く。
「地脈操作 裏ノ玖號
ガン、ゴン、ガン、ガン、ガン!ガン!!と一瞬のうちに
神聖な神々しさすら漂わせるその神社はまさしく俺がいるにふさわしい。
「俺んところに参りに来い。それがオマエの宿業だ。」
呪いの言葉を彼女に投げかければ、
「あ、あああ。」
体は縛れ、碌な発生は許されず、ただただゆっくりと、敬うべき、信仰すべき、敬愛するべき俺の方へと参りに来る。
「オマエの罪は果てしなく、ただ捨て去るには重すぎる。なれど俺は赦しを与えよう。」
一方的な赦し、押し付けるがごとき傲慢さだが、参ってきたのは向こうの方だ。ならば赦しも許される。
「信託、契約破棄。」
一方的に彼女が何かと交わしただろう契約を破棄させる。勿論
彼女に宿る異常な治癒能力に明らかに異様な魔物との召喚術。
およそ普通に手に入るような能力、というより自然界の摂理を越えすぎたこれらはどう考えても超常存在との犠牲契約しかありえない。
それらを強引に破棄させる、他者に強いるのがこの裏ノ玖號。
さすがに10を超える魔法陣は消えなかろうが
「ああ、あああ、赦された?私は、ウチは。ねえ、」
助けて、クライム。
今までとは違う声色。懇願するような最後の叫び。狂気が普通になってしまった彼女の最期の
「お前、正気が」
「赦されはしない。ウチノ罪が、赦されない。ウチが、ウチを。わたss…。」
そして彼女は異常に逆戻り。
一瞬だけ垣間見せた普通なんてどこにもなかったように。ただ一つ分かるのは犠牲契約に彼女は正気を捧げていない。
「ウチは死ぬまで死にはしない。」
ぎこちない笑顔で両腕を横に付きだすと、
バチン!!と雷の剣が両腕を切り落とす。
「馬鹿が!!」
彼女は取り憑かれたままだ。例え腕が治らなかろうが自罰は変わらない。そんな簡単な事にも気づけていない俺はまさしく白痴の極みだった。
「
両の腕を片方ずつ仲良く分け合う眼の無い化け物、今度は地に足の着いた獣のようなナニカではあったが未だ潜航している魚とは別物だろうか。
食事を終えてやはりこちらをエサだと思っているのか、ねめつく視線が俺を貫く。
襲い来る3匹の化け物からの猛攻を地を這いずるように避けて彼女の方を向いた時俺は初めて絶望した。
「なんで…。」
彼女は依然立ったままだ。試合開始のその時と同じ姿で。
五体満足、何不自由ないその姿は、
正しく調和がとれていた。
究極的なまでに。
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