第25話 武器狂いレイシア
戦局はもはや一変しているといっても過言ではなかった。
ランスロットによる一方的な蹂躙から、徐々に徐々にゆっくりとレイシアの占見が上回り始めていた。
唯々黙して耐え忍び、彼の動きの癖を叩き込んだ彼女と、彼の避けた先になぜか事前に撃たれている弓矢。
「ハッ、ハッ…。」
息を切らして体制を整えるランスロット。会場にいる全員が最早時間の問題だろうと思った時、其の全てを棄てた打開策を打ち出してくる。
「本当はさ…。使う予定は無かったんだ。いよいよ俺の
1勝2敗、それが今のグレイディの戦績。これ以上の敗北はそのままにグレイディの負けを意味する。だからこそ負けられない。
自分の心情を曲げてしまおうとも。
「魔石―
覚悟を決めた彼が懐から取り出したのは手のひら大の石ころ、もとい魔石。いわゆる誰にでも使える魔法や能力を宿した外部装置。
それを思いきり地面の陰に叩きつけるとその魔力が影に浸透していく、ゆっくりと。
「これを使うのは最低の行為だとは思ってる。宿った能力は
「…なるほどな。お前の言いたいことはわかったよランスロット。」
魔装限定の
レイシアは武器を召喚する能力以外持ち合わせてはいない。無論単純な戦闘能力が高いが故に成り立つ芸当だがこの状況では話が変わる。
「お前の誤射はもう通用しないんだ、ここから先は俺の領域だ。」
引っ付く影が物語るように最早彼女の占見の明弓が未来を視ることは無い。
「流儀を棄てる、
本来は初めて使う相手は
そういいながら彼女はただの弓を棄てる。
そして光に包まれる。いくら武装を変えようとももう何も能力のないただの武器しか呼べないのだとしても。
それでも彼女は武器を変える、装備を変える。たった一つの模倣ではない、彼女だけの武器へと。
「伝承開闢 ―
武器狂いが選んだ最後の武器は自分の肉体。ただそれだけ。さらしと袴だけを身に纏い、長い髪を一文字に結んだ彼女の姿は伝説の幕開けを予感させるほどに。
「何かと思えば無手か、それだけで俺の影を攻略できるとでも…」
彼女は何も返さない、深く腰を落とし両の拳をしっかりと握りこむ。
刹那、彼女の体が消える。影も残らないほどの速度が成した技の極致が彼の肉体を貫く。
「無影」
彼女の体の動きに遅れて引っ付いてくる衝撃と轟音がその技の威力を示す。
そして音もなく崩れ落ちる両者。
「くっ…はあっ…、やはり持たないか…。」
攻撃した側であるレイシアも何故か疲弊し倒れ込んでいる。
「伝承開闢、理想の私を呼び起こす憑依させる武装召喚だが…。やはりまだまだ修行が足りないらしい。」
簡単なことで、彼女の限界を超えた技量と能力を前借したようなものだろう。必然肉体への負荷は尋常なものではない。
「ったく…。完敗だ。何もかも負けだ、降参するよ。はは…
天を見上げながら諦めた様に語る彼のセリフがこの4戦目の決着を語った。
◆◇◆
耳が壊れんばかりの歓声の中でレイシアが戻ってきた。
「なんとか辛勝、といった所か。私としたことがこれでは格好がつかないな。」
「でも勝ちは勝ちだろ。気にすんなよ。」
大事なことは勝つことだ。これでレイメイ側の勝利は確定、実を言ってしまえば5戦行われることは行われるが降参してしまってもいいのだ。
ま、最終戦が碌に戦いもせずに即降参だなんて会場の冷え方と言ったら尋常ではなかろうが。
「まァでもこれで何とかなッてよかッたじゃん。」
「ちょっと雲行きが怪しくなったのはてめーのせいだろーが!」
ROAもああ言ってはいるが実際何とかなったのだから問題ない。
「小僧もしっかり頑張って来いよ。」
「酒飲みながら言われてもあんまり頑張ろうって思えねーよ…。」
やるせない応援を受けけ闘技場の方へと向かう俺に一人の男が近づいてくる。
「やあ、負けてしまったよ。」
ついさっきまで死闘を演じていたランスロットが俺の前に立っていた。
「…?なんだ、なにか用でもあるのか。」
「そうだね、用というよりはお願いかな。」
お願い、ねえ。今更になって八百長なんぞ意味のない事ではあるが。
「負けてくれ、って言われても俺はどうにもできねえ…っつか負けても大した意味は…」
「隊長を
理解のできないお願いが俺の心を惑わせる。
「…何を。」
「言ってるだろ、助けてやってくれって。」
「だからその意味が分かんねえんだよ。」
「薄々わかってんだろ?ダンジョンで会った時もそうさ、いかにも正気じゃないってな。」
確かに狂気的というよりはもはや自我があるのかすらも疑わしいほどの錯乱状態だったと思う。
「隊長は操り人形なんだよ、グレイディのね。」
「…どうしろってんだよ。」
「だから
シニカルに笑う彼は何処か諦めたような顔をしていた。
◆◇◆
「さあ!第5試合目だ!決着は着いてるって?関係ねえよなあ!?そういう事じゃねえんだよ!!血沸き肉躍る決戦の末に賭けに勝ったかが大事なんだ!!」
ラスカルが熱気をつくる。とても大勢が決まった消化試合が行われるとは思えないほどの熱苦しさを作り出す。
「私…ウチの隊長はメーミンだったはずでは?でもそんなことはあり得ない。そうでしょう?だって私は…」
錯乱、というよりはもう言語の体をなしていない彼女の姿はとてもじゃないが戦えるような状態には見えなかった。
「それじゃあいこう!第5回戦!!」
「さあてどうしたもんかね、こっちから仕掛けるのはなんとなく心が痛むっつーか気が引けるんだが…。」
「わた、わたしっ!わたたったtttt」
彼女の言葉の異常と共に首がぐるんと回るとこちらを見据えて離さない。
強さとしての忌避感ではない、何かもっと別の、人が立ち入ってはいけないナニカを軽く踏み越えたかのような、そんな恐怖。
彼女が両腕を横に薙ぎ払うと一気に10を超える魔法陣が立ちならぶ。
「おいおい。」
「わたしのために殺さなきゃ、ウチをころしてやさしく褒めてあげなくっちゃ。」
どこまでも歪みに歪んだ
俺は果たして
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