第24話 愛に生きるランスロット

「はは、さっきの戦いがあった手前、あんまりお喋りすると君にも嫌われてしまうかな?」


「安心しろ、私はアイツと違ってそこまで無粋では無い。」


 軽やかな会話に映るがその実、期を伺っては牽制し続けている。


「さて、ではあまり遊んでいても仕方ないしね。」


 爽やかな笑みを浮かべる彼の纏う戦意が殺意へと変わる。






。」






 レイシアの後ろにいたランスロットはそのままの勢いで突剣をレイシアに突き刺す。


「ッ!」


 さすがに直撃はしなかったが紙一重、想定外の死角からの一撃はある意味で避けやすい。おそらく直感で躱したのだろう。


「避けるのか、一撃で終わらせるつもりだったんだが。」


 何でもないように剣を撫でる彼の姿は爽やかさとは裏腹にどこかを感じられる。


「武装召喚 月食の剣エクリプス


 レイシアが持つ二剣一体の武装、その効果は何度かの打ち合いで月が欠け、新月になった時、硬度を無視した一撃が可能になるものだったはずだ。


「能力を宿した魔装、それが君の得意だったね。でもそれは俺も承知の上さ。ダンジョンで見せたときは12だったかな?」


 …成程、ダンジョンに行った時はレイシアたちとは別グループに別れたがでも使っていたのか。



「だったら俺の回答は簡単。そもそも君と。」



 そう言ってのけるとランスロットは実際にレイシアの攻撃を寸でのところで躱し続ける。


 これがいかにであるかということが問題だ。


 第一に前提としてレイシアは武器術のエキスパートであり、その身体能力も申し分ない。


 そんな彼女の攻撃をならまだしも完全にとなると相当の実力の開きがあることを示す。


「妙な男だ。」


「そうかい?俺はいつも優しい男だと言われるけど。」


「最初はお前の速度が異様に早いのかと思っていたが恐らく違うな。思うに…」





 転移ワープしているな?






「さあどうでしょう?答えを言わないのが面白い男の条件だからね。」



 彼のキザな態度は崩れない。動揺しているのかどうかは判別できないが…成程、転移ワープなら初撃の消えたかのような速度からの死角攻撃も理解ができる。


 レイシアの攻撃を回避し続けられるのも途中、途中でまさしくその場から消えているのなら幾分やりようはあるだろう。


 それでも驚異的であることは変わらないが。


「でもこうして一方的に攻められてたんじゃ格好がつかないし…ならば二の手だ。」


 レイシアが攻撃を続ける都合、ランスロットはゆっくりと後退し、レイシアは前進する。そんなゆっくりとした進行の中で一点、が残る。




 まるで過去のランスロットが固定したかのような影がレイシアの後ろに残ったかと思うと一気にレイシアを貫通して本体のランスロットに





「むぐっ…。」



 ガキン!ガキン!と連続した金属音が鳴り響く。



「驚いた!反応できるのか!!」



 心からの称賛といわんばかりの表情で叫ぶ彼。対するレイシアの表情は苦しいままだが。



「なんだ…今のは…。」



「…そうだね、君に敬意を表して少しだけ教えてあげよう。」



 そういうと男は宙に手を振るう。すると始点に影が残り、そして終点の手に向かってまた影が引き戻る。とでもいえばいいか。



「俺の能力は影歩きナイトストーカー、影に愛されているし、影を愛していると言える。例えば…」


「ッ!」


 またもや急襲。レイシアの死角、影の中からまるで最初からそこにいたかのように剣を振るう彼の姿は全く以て影そのものだ。


「こんなふうに影を追っかけることもできるし、」


 そして元に居た位置に残っていた影が彼を追いかける。さすがにレイシアも同じ轍は踏まない、体をよじって影のを躱す。



「影に追いかけられてストーキングされている。今度は躱した?正解だ。本来影の中には人はいられない。当然、なんてもってのほかだ。」



 だから溺れてもと言ったのか。これはかなりだ。常に自分と相手の影の位置を確認しながら加えて移動前の彼の地点にも気を払わなければならない。


 つまるところ単純に考えることが。ただ多数と戦うような事とは違う。


 影に殺意も意思もない。感覚ではなく理論的に躱さなければならない。



 戦いを組み立てる必要がある、ただでさえ強い彼を前にして。






「それじゃネタバラシも済んだところでと行こう。」






 突然彼を起点に足元から闇、いや影が広がる。そうして地面に溶け込んで…影が一帯を支配する。




 何処にも光の当たる場所はない。ただただ、暗く恐ろしい。




影庭園シャドウガーデン、言わなくったって分かるだろ?君は俺に勝てない。」




 曇りなく爽やかに笑う彼の笑顔に影がないことが何よりも悍ましかった。



 ◆◇◆



 防戦一方、と言う他なかった。


 縦横無尽、神出鬼没な彼の攻撃は俺でもすべて回避できるか怪しいものだし、攻めようと思っても好きなように回避ができる。いやができる。


 極論、攻撃を食らいそうになった段階で適当な位置に飛んでしまえば全てが無意味。


 レイシアはある意味で詰んでいるも同然だった。


「どうだ?俺も鬼じゃない。降参したっていい。むしろここまで持ったことを誇るべきだ。恥ずべきことじゃあない。」


「…。」


 黙して語らず。


 どれほど攻撃を躱されようが、どれほど無茶苦茶な方向からの攻撃を躱そうが、引き戻る影から逃れようが。


 彼女はアレ以来一切無言を貫いていた。たとえ彼の剣が幾らか体をかすめていても。


「はあ…こうなると一方的でつまらないんだ…、俺としても流儀やりかたがあるから、あんまり長引くと…」




「よし、頃合いだろう。」




 突然、沈黙を貫いていた彼女が動き出す。




「伝承模倣 ―星詠みの少女アイリーン― 占見の明弓フォーチュン星の守り絹スターライト



 伝承模倣、彼女に許された偉業再編もういちど



「へえ、弓矢ね。随分と趣向を変えたみたいだけどそれだけじゃ俺の…。」




 余裕を崩さない彼を余所にレイシアは矢を放つ。まるで彼とは




「気でも狂ったかい?」



 シュンと心地よく風を切る音が鳴ったかと思うと矢が


 2発、3発。全てを大きく外して撃っては消えていく。



「さあ、いくぞランスロット。ここからがだ。」



 今までの誤射は何だったのかというようにしっかりと彼に狙いを定める。


「ふん、なにかしらないが手は抜かない。いや、今まで以上の精度でやらせてもらう。」


 そして再演。今までのように防戦一方の戦いが幕を開け…。



 数回の機先を制した後、現れた矢が彼の頬をかすめる。



「なっ!」



 急いでを行い、距離をとるランスロットにもう一発。今度は腕を。


 加えて3発目、胴を掠って矢は消える。



「さすがに直撃とはいかないか。お前のは覚えたと思ったんだがな。ではネタバラシといこう。」



 まさしく今度は彼女の番。



占見の明弓フォーチュンは未来を視る弓、つまりは弓だ。」



 星詠みの少女が使ったと言われる武装。若干マイナーではあるが知っている人は少なくない。


 態勢を取り戻すランスロットに隙を与えぬようにまた数発の誤射をする彼女。



「言っただろ?ここから先が本番だ。お前のせかいと私の未来撃ちフォーチュン、どちらが上を行くかの戦いだ。死ぬ気でやろう、でなければ死ぬぞ。」




 不敵に笑う彼女はまるで未来が見えているようだった。

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