第19話 簒奪者ジゼル

「あんたが…そっちの隊長ってことでいいのかな。」


「いや?僕は隊長じゃない。隊長はそこの寝てる彼女さ。」


 煌びやかな衣装を身にまとういかにもな男が指さした先にはがいた。


 おいおい、あの娘本当に隊長なのかよ。というよりメーミンもそうだがコイツら見た目からが伝わってくる。


「ああ、もしかして疑ってる?隊長化け物の事、何も知らないくせにね。」


 屈託のない笑顔で笑う彼の言葉には言いしれないような含みがあった。


「おしゃべりはイイがそろそろ時間だ。ほら、準備しろ配置につけ。もうすぐ正午になる。」


 ミハイル隊長がそういい終わると同時に大闘技場コロッセオから一人の男が歩き出てくる。


「ハロー!馬鹿ども!今日は滅多に見れない一押しのイベントがあるもんなあ!?」


 中央に立つと魔法か能力だろうかおよそ一人の人間ではおよそ出せないような声量で大闘技場で高らかに謳う。


 不思議なのは傍に立つ俺達が一番五月蠅いはずなのにそう感じないこと。それも含めての能力か。


「チケット完売!!満員御礼!!この国ウチに住んでてコレ見逃したら一生後悔するだろうぜ?」


「「「うおおおおおおおお!!!!!!!!」」」


 会場はますます盛り上がっていく。


「レイメイとグレイディの代表選!大陸最強ハウンドVS正体不明マンフレッド!!!おめーらどっちに賭けたんだあ!?」


 賭けまでやってんのかよこの国。いよいよ見世物だな。


「1回戦から5回戦までの各試合の賭けから総合でどちらが勝つかのBetまで!!破産しない程度に全掛けしろよ!?」


「絶対負けんなよハウンド!!!俺全財産賭けたんだからなー!!」


「バーか奴はマンフレッドに賭けるんだよ。チョロいぜこの博打。」


 外野から散々な内容のヤジが飛び交う。騒がしいのはキライじゃないが此処まで来るとうんざりだな。


「前語りはここまで!!これからの司会、進行、審判!!そのすべてをこの俺、みーんな大好きが請け負うぜ?死ぬ気で応援して、死んでも応援しろよお前ら!!!」


 熱気は一段と上がり観客はますますヒートアップ、これが一流の扇動者インフルエンサーか。


「まーずは開会宣言だ!ちょーっと難しい話が出るが気に入らなかったら眠っちまえ!!大事なことは血沸き肉躍る戦いの方だろ!?」


 そういうと中立を保つクロノの国としての規約やらこれからの代表選のルールやらを丁寧に説明し始める。こういう所はしっかりしてるあたりにも一流の影がちらつく。


 代表選のルールはすごい細かいところを除けば大体こうだ。


 ・5対5の代表を各国は選出し、1体1の戦闘を5回行う。

 ・各戦闘中他者からの妨害があった場合、妨害した側の国の反則負けとする。

 ・3勝した国の方が勝利するが5戦は全て執り行う。

 ・戦闘者は武器、魔法、能力、なんでも使用可能。

 ・各戦闘における判定は中立を宣言した国の者が行う。

 追加ルール

 ・各戦闘は降参が認められる(本来はどちらかが死ぬまで続く)。

 ・レイメイ側は事前にグレイディに出場者及びその順を通告せねばならない。


 大まかにこんな感じだった。ま、簡単に言えばってこった。


「ふー、いい子のフリはここまでだ!寝てる奴らは目ぇ覚ませよ!!こっから先が本命だ!!」


 今までのルール説明とは打って変わって調子を取り戻したラスカルの声に観客も盛り上がる。


「第一回戦始めるぜ?各代表は前に出てきてくれ!!」


 その言葉に誘われるままラグナロクが肩を回しながら大闘技場の中央に向けて歩き始める。


 対する向こうの方からは鍛え上げた上半身をむき出しにし、その両手には年季の入った拳鍔ナックルを付けたまさしく無法者アウトローという言葉が似合うような男が歩いてくる。


凶信者ツェペラウスラグナロクVS簒奪者マーダージゼル!!!」


 間髪入れずに扇動者が問いかける。


「二人とも!武装はどうだ?魔法はどうだ?用意はできてるか!?」


「ああ、構わんよ。」


「俺も問題ねえ。」


 二人して準備は万端、もう遠巻きに見ている俺達からの干渉は不可能だろう。果たしてどうなることやら。


「そいつは重畳!それじゃあ行こうか、代表選第一回戦開始スタートだああああ!!!!!」


 高らかな開戦の合図に皆が沸き立つ、彼らもまたそうだろう。


 正体不明マンフレッド、その正体が今明らかになろうとしていた。


 ◆◇◆


「なあ、オッサン。あんた体調悪いのか?顔色酷いぜ?それともビビってんのか?」


「いやなに、昨日飲み過ぎてのぉ…頭が痛くてかなわん。」


「へぇ、そいつはイイね。俺ぁ…」



 


 そう言い終わるや否や地面は炸裂し、ジゼルは一気にラグナロクに詰め寄るとその腹を殴り飛ばして闘技場の壁に叩きつける。


 あまりにも速度、ラグナロクに見えていたかどうかはわからないが明らかなのは正体不明マンフレッドは雑魚じゃないってこと。


「やれやれ…年上はもっと労わらん―」


 ズガン!!ともう一発、二発、三発


「だったらさっさとくたばれや!!!」


 ジゼルの咆哮と共に何度も何度も拳を叩き込む、崩れる壁と舞い上がった土埃で様子はうかがえないがその音から攻撃の手が緩んでいないのは確実だ。


 このまま終わりか、とおもったがそこはラグナロク。ジゼルを蹴り飛ばして仕切り直す。


「最近の若者は皆こうなんかの。」


 煙の中からゆっくりと歩き出る僧侶。


「ハッ、余裕かましてんのも今のうちだぜオッサン。こっからはもっとギア上げんぞ。」


「どうやらそうらしい。回復術―全身治療フルヒール―」


 両手を合わせて祈りを作ればラグナロクの傷が癒えていく。これがラグナロクの戦闘の基本。即死しなければ死なない反則チート


 不死身のラグナロク。そんな異名もあったっけか。


「回復術ねえ、。」


 ジゼルが納得の表情を見せる。能力が割れているのは俺とレイシア、ネームレスの3人のはずだが…。


「いつかのダンジョンでいってたろ?ラグナロクってやつは回復術使いだってな。」


 …そういえばそれっぽいことを言った気がする。全て聞かれているわけか。


「だから俺がお前の相手してんだよ、。」


「ほお?儂の対策があるという事かな?」


「ったりめえだろうが。」


 そういうと男は緊張感を放ちだす、雰囲気は変わり殺意が顔をのぞかせる。


「回復術者、それもSSS級レベルにもなるならただ治療が得意ぐらいで済むわけもねえ。実際に見たことはねえが戦闘方法バトルスタイルは予測がつくんだよ。」


 ガンガンと拳鍔ナックルを打ち合わせて何かの構えをとり始める


「俺の能力は簒奪者マーダー。殺した相手の能力や魔法を奪い取って自分の者にできる能力だ。」


 成程、だからこその簒奪者。奪い取るものとしてこれほどの能力はない。


「単体じゃあ使いにくい能力だろうが俺なら活かせる。奪い、集める俺ならな。」


 そういうとジゼルの拳鍔がオーラを纏う。




「簒奪能力 ―神からの脱却アンチヒール―」




 お前の祈りはもう届かねぇ。




 ニヤリと笑う無法者の顔はまさしく殺人鬼マーダーそのものだった。

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