第17話 久しぶりのダンス

「武装召喚 月食の刃エクリプス


 そういい終わるとレイシアの両手に短剣と長剣の2つが握られる。


「マジかよ…地脈操作 捌号 泥遊び 亜流 土細工つちざいく 」


 泥から形を作るのは片手剣、そもそも俺はあんまり接近戦が得意じゃない。であれば使いやすい武器一択だ。


 ガキン!と剣同士がぶつかり合う音が広間にこだまする。


「っぶね!!」


 長剣と片手剣が衝突最中、短剣が隙間を縫って振るわれるのを回避し続ける。


「チッ!!」


 レイシアを何とか蹴っ飛ばして距離を取り魔法陣を展開する。


「いいぜお前がやる気ならやってやるよ。


 地脈操作 拾号 泥人形マッドパペット


 地面を崩して泥の兵隊を1体控えさせる。体躯は俺の1.5倍、自立駆動で巨剣と大盾を携えたコイツはさながら姫を守る騎士ナイトだ。


 勿論姫は俺ね。


 接近はコイツに任せて俺は距離をとって魔法を連打する。


「地脈操作肆号 亜流 細狭土はさみつち


 いつかの時とは違い細い泥掌がいくつもレイシアを襲うが一つずつ丁寧に叩き落される。泥兵と戦いながら器用なやつだ。


「こんなんじゃ効かねえってか!」


 俺の問いかけにもレイシアは特に反応しない。完全になのな。


 前線を泥兵、後方から俺が魔法で援護する形をとっていたがそもそもレイシア相手にが長持ちするはずもない。


は来た。」


 口数少ないレイシアがそう告げれば一太刀で泥人形が真っ二つに効き裂かれる。


「そういえばそんな能力だったなその魔装。」


 月食の剣エクリプス、満月から始まり打ち合うほどに


 そして完全に欠けた新月に至った時、相手の硬度を無視して問答無用で斬ることの可能な魔装、だったか。


 じっとお互いににらみ合う。もうこれで充分なんじゃないかと目で訴えかけてみる、が向こうはその気じゃないらしい。


「催眠ねえ…催眠。」


 今までで一番粗末な言い訳だ。


「まさかと思うがまで使わなきゃダメか?」


 俺の問いかけに彼女もで答える。


「伝承模倣 ―ベルセルク― 破壊の星クラックスター血喰いの鎧ブラッドソング


 伝承模倣、かつて大陸にいたとされる伝説的強者の装備を模倣コピーして自分のモノにする能力だ。


 破壊の星クラックスター血喰いの鎧ブラッドソング、滅多に見ねえから能力なんざ覚えてねえが伝承模倣はアイツの本気装備だ。


 に決まってる。


「いくとこまでいくしかねえのな。」


 地脈操作、その名の通り大地に流れる地脈のエネルギーを使用して放つ魔法。地脈は自然に回復するため余程乱発しなければ地脈が枯れることは無い。


 しかしまで使うとかなり地脈を消費する。1回の戦闘で1回まで、それが俺のルールだ。


 両手を拡げ魔法陣を描く、いつもよりも大きく、地脈をもらい受けるために。


「地脈操作 裏ノ拾號 傑作人形パーフェクト ―灰被りの少女シンデレラ―」


 さっきの表拾號で作り上げた泥兵とは精密さ、強度共に段違いの操作型人形。


 人形とは人が操ってこその傑作パーフェクト、自動人形の時とは違い俺の指先と灰被りの少女シンデレラの全身がリンクする。


「死ぬ気で踊ろうぜ、折角の機会だ。他の誰も目に入らないほど2人きりで楽しまないと損だろう?」


 もう任務だとかそんなことはどうだっていい、今を全力で過ごすことこそが何よりも優先されることだった。




 ◆◇◆ 視点カルト集団リーダー


 後悔をしていた。


 最初にアジトに入ってきた特殊部隊ハウンドの女を催眠して手駒にできたのはまだいい、でもそこから先が何もかも失敗だった。


 今にも崩落しそうなこの場所を見てそう思う。


 こんなアジトほっぽってさっさと逃げりゃあ良かったんだ。女一人でお釣りがくることなんてわかり切っていたはずだった。


 ただもしかしたら近づいてきているも手に入るのではと期待したのが間違いだった。


 土使いの男は催眠に耐性があるようでさっきから術師がタイミングを見てかけ続けるが効果がない。


 ズガン、ドゴンとおよそ普通の戦いでは聞くことの無いような轟音がアジトに鳴り響く。


 途中の戦闘まではまだ理解できた。大陸最強の部隊の戦闘とは言えまだができた。


 だが女が武装を変え、男が少女の人形を造ってからは


 打ち合いが目で追えない、何が起きているのか、どんな競り合いが、どんな読み合いが、何もかもが分からない。


 ただ一つ分かるのは俺たちはこの戦いを見守るしかないという事。


 崩落しそうなアジトから逃げるにも出口に続く階段と俺たちの間でこんな神話レベルの戦いやってるんだ。合間をぬって進めるわけもない。


 大体女の装備がオカシイ、ベルセルクの冒険譚、おとぎ話で有名なベルセルクの装備を纏っている。


 破壊するという概念そのものを押し付けるめちゃくちゃな魔装ハンマーである破壊の星クラックスター

 返り血を浴びるほどに強度が増し、重量が軽くなるという血喰いの鎧ブラッドソング


 寝る前に親に聞かされたようなおとぎ話が目の前にある。


 それに対する泥人形も大概だ。


 最初こそズタボロの人形だったが破壊の星クラックスターで壊され、修復されるほどにが増していく。


 ドレスを、化粧を、髪飾りを、そして色が付き、そして最後にガラスの靴を。


 全て振られるたびに一撃で破壊してきたハンマーがその偉業を止める。何度振るおうと色づいた少女は崩れない。


 打ち合うたびに、部屋が揺れる。催眠術者が地上に出て戦うように誘導しても女は


 俺たち全員はどうか早く終わって欲しいと祈る事しかできなかった。


 ◆◇◆ 視点クライム


 バキン!と破壊の星クラックスター灰被りの少女シンデレラにヒビが入る。


 互いの武器はボロボロだ。これ以上の戦闘にはもう


「こんなところか、俺とのダンスは楽しかったか?レイシア。」


「嗚呼、久しぶりだったよここまで体を動かしたのは。やはりお前じゃないとなクライム。」


「大体、お前は建前作りが下手なんだよ。なんだ?って。別にりたかったらそう言えよ。何時でも付き合ってやるから。」


「たまにはこういうのもいいかと思ってな。」


 結局、レイシアが催眠されるなんて馬鹿なことはまずない。カルト集団はなんて言ってたが俺たちが催眠されるなんて契約か犠牲の儀を伴わないと不可能だ。


 となるとコイツレイシアの悪癖が出た、と考えつく。


 適当にこうやって体を動かしてガス抜きしないとストレスが溜まってしょうがないとか何とか。


 互いに矛を収めてカルトに向き合う。


「おーい、どうするんだお前らは。俺達二人と戦ってみるか、それとも大人しく付いて行くか。好きにしろよ。」


 返事は無かったが帰る俺たちに無言で付いてくる彼らの決定は正解だろう。


「明日もあるってのによ…。」


 明日の代表選はどうなる事やら。


 予測できないことよりもまずは今日の晩飯は何を食べるかを考えてアジトを後にした。


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