第16話 不穏

 3日目の朝。


 代表選を明日に控えた俺の頭に朝一番から隊長の声が響く。


「通達だ、明日に控えた代表選、その順番が決定した。といってもこれはラグナロクを使うためのこちら側の通知でもあるがね。」


 そうそう、確か降参を認める代わりにこっちは順番を提示するんだっけか。


「初戦はラグナロク、2戦目はネームレス、3戦目はROA、4戦目はレイシア、そしてがクライムだ。文句はないだろう。」


 ほーん、俺が最後か。まあ3勝したらその時点で代表選の勝利は決定だし、あんまり戦うことは無いだろうな。


 ただ重要なのは向こうに能力が割れている俺、レイシア、ネームレス、の3人のうち誰かが勝たなくてはならないってことか。


 向こうが用意してるのも特殊部隊マンフレッドなんだろうが…。気になるのはダンジョン攻略時にだよな。


 普通に考えて一緒に戦った方が殺せる確率は高いだろ。ホントに勝てるかは置いといて。


「ま、ナントカなんだろ。」


 気楽に構えるが吉だ。国のためだなんだと変に背負って戦ったんじゃ寧ろ負けかねんしな。


「さーすがに今日ぐらいはゆっくり…。」


 折角貴重な3日間の休みだ。ついぞ2日間は色々と足を運んでしまったが今日こそは家のベッドで…。


「業務連絡だ、クライムとレイシアは至急、詰め所に来い。以上。」


 告げられた命令に、今日も今日とて休めないようだった。


 ◆◇◆


「おはようございまーす。」


 朝の挨拶はコミュニケーションの基本、といっても返してくれるのは大抵隊長かレイシアだけだが。


「ああ、おはよう。クライム。」


「レイシアはまだっすか?珍しい。」


 俺より集合が遅いなんてほとんどないのだが。


「いや、レイシアは思ったより来るのが早かったのでな、先に行ってもらっている。」


「どこか行かなきゃなんねーんすか?」


「以前ドラゴン討伐を行った平野を覚えているか?」


 ドラゴン討伐…ああ、レイシアとやったやつね。正直大した相手でもなかったからあんまり記憶にとどめてなかった。


「どうもあのあたりにカルト宗教のアジトがあるようでな。」


「ふーん?それを探すってことすか。」


「どうやら向こうの一団、しめて30人前後なんだと思われるんだが…、どうにも足取りが途中からつかめん。何か隠蔽魔法でも使っているかも知らん。注意しろ。といってもお前にはあまり心配はいらんだろうがな。」


 隠蔽魔法ねえ…30人も入れるような場所を隠せるもんかね。


「ま、内容は了解しました。行ってきますよ。途中でレイシアと合流すりゃあいいんでしょう?」


「ああ、あと今回の任務は出来れば捕縛にしてくれ。残党が他のアジトにいるかもしれんのでな。」


「ういーっす。」


 カルト宗教ねえ、俺たちが出向くあたり脅威度は高いんだろうが…こういうのは騎士団とかに任せたいよな。


 物探しとか苦手なタイプなんだよな、俺。


 兎にも角にも足を動かす必要があるだろう。この先を思うやられながら俺は詰め所を後にした。


 ◆◇◆


 いつかの平野に到着。まー見れば見るほどなんもないっつーか、何もないがあるっていうのか?ドラゴンなんてデカすぎてどこにいるか遠目でも丸わかりだったしな。


「しっかしレイシアは何処にいんだ?そんな迷うようなこともねえだろ。つーかどこかで待っとけよ。」


 先行しているらしいアイツの姿も見当たらない。目が悪い方ではないので平野に居たら見つけられると踏んだが…。


「もうアジト見つけて入っちゃってんのか?まあいい、俺も探すとするかね。」


 足を使って地道に調査…というのが騎士団たちのやり方だが生憎と俺は疲れるのはキライでね。


「地脈操作 きゅう号 大地共鳴」


 両手に魔法陣を携えて地面に叩きつけると、俺と地面とで感覚が共有される。


 何と説明したものか、地面に神経がつながって広がっていく感じとでもいえばいいだろうか。


 どんどんと神経を伸ばしていくと妙な空間があることに気づく。


「あー、成程な。建設して隠蔽魔法をかけてんじゃなくて最初から地中に造ってたのか。」


 俺の読みではデカめの建物が立っていてそこに透明化なんかがかかってるんだと思っていたが、読みが外れたな。


「中には…隊長の言ってた通り30人くらいか。レイシアもこの中にいるとみていいのか?にしては落ち着いてるっつーか…戦ってる感じがねえけど。」


 もし中にレイシアが先行しているのなら今頃血祭、とまでは言わないがぐちゃぐちゃになってもよさそうなもんなんだが。


 両手を大地から離してパスを切る。


「なーんかがすんなあ、明日が大一番だってのによお。」


 肩をぐるぐる回しながら歩いて異常な空洞を検知した方角へと向かう。


 これから何か悪い事が起きるような、そんな感覚を第六感が告げていた。


 ◆◇◆


「大体このあたりかねえ。よっと。」


 件の場所で地面を掘り返してみると地下へと誘う階段が現れる。


「おあつらえ向きだな。」


 こんなところによくもまあ造ったものだ。もしかしたらそういう魔法を使える術者がいるのかもしれない。


 土属性使いとしてはかなり気になるところだが。


 くだらないことに思いを馳せながら薄暗い階段を下りていく。


 と言っても完全に真っ暗というわけでもない。おそらく奥の方で何か明かりがついているのだろう。こちらにも漏れてきている。


 階段を下りた先の扉を開けると中にはやや生活感のある空間が視界に飛び込んでくる。


「来客だぜ?しっかりもてなしてくれよ俺を。」


 見るからに待ち構えていた集団に挑発する。


「ああ、しっかり歓迎してやるよ。俺たちなりのやり方でな。」


 30人全員集まっているらしい。ただ全員リラックスしている、というか構えを取る気が無い。


「舐めてんのか?一瞬で終わらせてやるよ。」


「まあ待てよ、お前も逢いたい奴がいるんじゃないのか?」


「あん?」


 30人の群れの中掻き分けるようにカツカツと歩いてくる誰かが一人。




「どういうつもりだよ。。」




「ハハッ!!傑作だなその顔。コイツはもう俺たちの仲間になったんだ。」


 そういうとおそらく群れの長であろう男がレイシアの肩に手を回す。


「ウチの仲間には催眠魔法が使える奴がいんだよ。正直あっさりかかったのには驚いたが…ハッ、かけちまえばこっちのもんだ。コイツはと使えそうだしな。」


「催眠…なるほどな。よりにもよって今日かよお前。」


「イイショーになるだろうさ!特殊部隊ハウンド同士の殺し合い。俺たちに見せてくれよ。勝ち残ったらご褒美に俺達30人が相手してやるからよ!」


 高らかに笑うボスの横でレイシアの目は赫く輝く。


「チッ、はぁめんどくせえ。程々にやんぞ。」


「手加減したいのは分かるがね。コイツには本気で戦ってもらうよ?それじゃあ…」



 ショーの始まりだ。



 男の声が開戦の狼煙になった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る