第14話 恨み、シャミアお嬢様
「お前たちとて儂の戒律は知っていようが。」
ラグナロクの戒律、つまりは決して破れない自己ルールと言い換えることもできる。
「儂は人を自ら殺すことを禁じておる。しかしよりにもよって代理戦争だろう?相手を殺さんという訳にもいかんだろうに。」
やれやれと首を振る僧正。実際この戒律は俺も知っている。だからこのオッサンは任務の参加率が低い…というよりいてもすることが無いので行かないという事がある。
いや実際には回復術が使えるのでいるだけでも価値はあるがなんせ俺達だ。
よっぽどの任務でないとそもそも役目が回ってこない。
「だってよ、レイシア。つーかお前も分かってたろ。どうすんだよ。」
「なに、問題ないさ。というより問題ないように取り計らう、というべきかな。重要なことは向こうが宣戦布告をしたことだ。」
レイシアもまた当然ラグナロクの返しを想定していたのだろう。ラグナロクの説得に話が移る。
「こちらもこちらで代理戦争に有利になるように取引をしているようでな。ルールを一つ加えられるという権利を得た。これにより本来殺害を必至とする戦争において手を加えられるというわけだ。」
成程、代理戦争にはいろいろと取り決めがあるが、それをこっちのいいようにできるってことか。
「でも大変だったんじゃねえか?取引っていっても戦争だ。特にルールを一つ加えるなんて何と交換したらそんな権利を得られるんだ。」
確かにラグナロクの言う通りだ。なんせルールの追加なんてレイメイ側に圧倒的に有利なようにすることもできる。
実際、ラグナロクのためにルールを追加しようとしている
「勿論こちらにも不利な条件はある、5対5の勝負を行う、といっても正確に言ってしまえば1対1を5回繰り返すわけだ。この際レイメイは5人の戦う順を事前に向こうに伝える必要があるという条件を呑んだ。」
成程、こっちの戦力は半分が向こうに割れている。となると戦う順が分かっているというのはそのまま対策できる人材を当てられるという事。
早い話が俺、ネームレス、レイシアの3人は確実に不利な戦いを強いられるという事だろう。
「…わかったわかった、儂のために骨を折ったのは理解した。それでなんだ…こっちが追加するるーるとやらはなんとする。」
「降参の追加だ。」
…なんとまあ、悪質な。
「気が思いやられるのぉ…、そういう戦いは好きではないんだが、まあわかった。さしもの儂もそこまでされれば不参加とはいえん。順番も適当に決めてよい、どうせどこででようが変わらんだろうしな。」
渋々、といった表情がありありと浮かんでいる。
「そうか、助かる。本来の要件はコレで終わりだ。」
そういうとレイシアはすっと立ち上がり寺…というかボロを出ようとする。
「なんじゃ、折角久しぶりに来たんじゃもっとゆっくりせい。」
「私はこれから用事があるのでな。代わりに暇そうな男を連れてきたんだ。」
暇そうな男…俺じゃん。
「い、いや~俺も実は大層な用事が…。」
「嬉しそうな声を出すな小僧、今日はたっぷりと説法をきかせてやるからのう。」
「俺の休日ジジイの長話で終わっちまうだろうが!!いやだ!せめてレイシアも一緒にしろ!男二人で何を話すっつーんだ!」
振り返っても
あの女絶対許さねえ…。こうなることを予想して身代わりにするために俺を連れてきやがった。
正座で痺れた足を労わりながら床に就いた。決してこの恨みを忘れないという誓いも胸に抱いて。
◆◇◆
翌日、
「よし、今日も俺は正常だ。」
いつものを終えて外に出る…。と言いたいところだが特に用事が無い。
「まあ家でくつろぐのもアリだろ。」
誰に聞かれるでもない独り言をつぶやきながら着替えもせずにもう一度ベッドに寝転がる。
人間休みの日なんてものがあるんだから文字通り一日何もせずに休むべきなんだよな。
誰にも邪魔されず2度目の眠りにつく…というタイミングで俺の家の戸が叩かれる。
「ねェ、いるんでしょ?クライムー。」
やや間の抜けたようなこの声はネームレスか。珍しい。
扉を開けて顔を出すとただでさえ珍しい早起きなネームレスに正装という最早別人のような誰かが立っていた。
「今日のお昼にさ、イイとこ呼ばれちゃってね。折角ならクライムもどォかなって。」
「それ当日の朝に言うか?普通。」
「いいじゃん、どうせ暇してたんでしょ?」
「いやそうだけどよ…、もうちょっと早く連絡できねえのかよ。」
「僕も思いついたのさっきだし。」
思い付きで人を誘ってんじゃねえよ…。
「あー…昼飯な、わかったからちょっと待ってろ。」
埃をかぶった…とは言わないがほとんど使われることの無い紳士服を引っ張り出す。
「待たせたな、昼まで時間があるが…どうするんだ?」
「あぁ、ここから結構遠いから移動してたら丁度いいと思うよ。」
「遠いって、何処まで行くんだよ。」
「アルヴェリア家。」
めんどくせえ…。アルヴェリア家の本家って俺んちからめっちゃ遠いじゃん…。
「つーかそれって俺いるのか?」
アルヴェリア家はネームレスから結構な額で画を買い取っている貴族の一つだ。まあ実際はそこのお嬢様であるシャミア嬢がネームレスを気に入ってるからだとか何とか。
「護衛ってことでさ。」
「お前の護衛?この世で一番要らないものだろ。」
適当な会話をしながら馬車と歩きで本家に向かう。着くころにはネームレスの予想通り丁度昼頃になっていた。
「なあ、思うんだがよ。これはパーティみたいに大勢呼ばれてんのか?それともお前だけ招待されてんの?」
「んー?多分僕だけじゃないかなァ。」
「なんで俺を呼んだんだよ、スゲー気まずいじゃん。」
「まあまあ。」
聞きそびれていたイヤーな事実を確認したところで来客を告げるベルを鳴らすと中から執事が出てきて案内をしてくれる。
「ようこそ、御待ちしておりました。ネームレス様とそちらは…クライム様ですね。」
「どうも、俺の名をご存じなんですね。」
「特殊部隊の方々を知らない者などこの国にはいませんよ。」
実際、特殊部隊なんて言ってるが隠れて任務をしているわけでもない。名家の人間なら知っていても当然か。
「彼は僕の護衛ってことでさ、彼女には通しておいてくれる?」
「護衛…なるほど承知しました。シャミアお嬢様にはそうお伝えいたしましょう。では、こちらに。」
執事に付いて行きながら大層な装飾やらインテリアやらの見栄えを重視したような家の内装を見て回る。
「どうしたの?クライム。」
「いや、あんまりこういう名家の家には呼ばれたことが無いもんでな。少し目新しいんだよ。」
「どォでもいいけどさっさとご飯食べて帰ろっか。」
「お前ってホントに気軽に飯食いに来た感覚なのな…。」
緊張とかそういう物とは無縁の人生を送ってんだろうなとつくづく思う。
「こちらです。」
案内された部屋には既にシャミアお嬢様がまっていた。
「待ってましたわ!久しぶりねネームレス!」
華のような笑顔で少女は笑っていた。両の目に包帯を巻いた状態で。
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