第10話 俺の本来の魔法
side 襲撃者
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グレイディの貴族連中からこの話を持ち掛けられたときは断るべきだと考えていた。
隣国、魔法国家レイメイ特殊部隊ハウンドの首を持って帰る事。
それこそが俺たちに与えられた依頼。
いまでこそレイメイの狗になり下がったがアイツらは伝説の集団だ。
特に俺達みたいなハズレ者には知らないものはいないといってもいいほど。
「で?どうするんだ。
グレイディの貴族様が答えを急かす。
「…俺たちはプライドなんていくらでも棄ててきた。生きることだけを考えて考えてここまで来たんだ。はっきり言って正面からハウンドに勝てる集団は存在しねえよ。ウチにだって俺を含めてSSS級は3人いる。だが向こうは5人だ。ウチにいる合わせて7人のS級とSS級がいようがこの二人の差で圧倒的に敗北する。」
「それについては問題ない。第一真正面から殺せなどと誰が言ったかね?あくまで今は友好国の立場なのだ我が国は。それを利用すればどうとだってできるとも。現段階での作戦を伝えよう。それで決断してみるといい。君たちがハウンドを越えて新たな伝説になるかどうかをな。」
こうして告げられるハウンド、いや魔法国家レイメイを陥れる計画に俺たちは賛同した。
伝説殺しが始まった。
◆◇◆
意図的に造られたダンジョンの奥の奥。偉業を為すための広間で俺は声を上げる。
「ハイ、お疲れさーん。じゃあ死んでいいよオマエラ。」
合図とともに仲間たちで上位魔法による一斉掃射を開始する。
「やめろ。」
二度目の合図で攻撃を中止、出方を伺う。
「いまので死んでくれればいいが…まあ少なくとも多少の手傷は追ってるはずだ。」
流石に全員死んではいないだろうが先手を打ったのは大きい。
「警戒を解くなよ、特に画家と武器使いの女には気をつけろ。」
配置されたSS級の悪魔や天使との戦闘を監視した結論からすればあの二人はヤバい。
いや土属性を使う男も大概だがまだ何とかなる。ただ残りの二人が問題だ。
「全員能力は伝えた通りだ。忘れましたなんて通用しねえぞ。」
「オイオイ、なんて愉快な歓迎だよ。おかげで服が土埃に塗れちまった。」
この声はおそらく土属性使いの男か、仲間からはクライムと呼ばれていたな。
「チッ、やっぱり死んでねえか。」
「死ぬと思うか?これしきのことで。」
土煙の中から平然と3人が立ち上がってくる。
「なあ、クライム。なんで殺しちゃダメなんだい?」
「馬鹿!今殺したら尋問できねえだろうが!」
「尋問する必要もないと思うがな。」
まるで何でもないかのように振舞っちゃいるが内心焦ってるはずだ。
「強がるのもいいがよ、状況分かってるのかオマエラ。いくらアンタらが伝説だろうがこっちにもSSS級は3人いるんだ。これで互角なのに加えてS級以上が7人。終わってんだよ戦いは。」
「終わってんのはお前らの愉快な脳みその方だよ。」
「おい、お前ら。まずあの土属性使いを殺る。おそらくアイツがサポーターであの中じゃ一番弱い。」
仲間に指示を出す。人間同士の戦いではサポート役、回復術者なんかを優先して潰すのがセオリー。定石は最も効果的だから定石と呼ばれる。
無論伝説相手だろうが効果的なのは変わらない。
「だってさクライム、面白い事言うよねェ、彼ら。」
「折角だ、お前ひとりでやったらどうだクライム。」
「他人事だと思いやがって…。」
この期に及んでまだ余裕をこいてやがる。
「行くぞ、攻撃開始だ。」
「
S級の水属性魔法による鞭が男の体全体を縛る。巻き付いた水の鞭はそうやすやすとほどけない。
「重力魔法
使い手の希少なSS級重力魔法で体を粉砕。どれほどの武人だろうが動くことはおろか体中の骨が砕け散る。
「次元裂き―還り刀―」
SSS級の剣士による多重空間すら切り裂く剣戟がサポーターの体を切り刻む。
鮮血。舞い上がる血が攻撃の手ごたえを感じさせる。
「最後だ、属性融合、
俺の闇と雷の2属性を纏った一撃が男を破壊する。
「直撃…さすがに死んだろ。」
いくら何でもこの連携を食らって生きていた奴はいない。
「次はあんたらだお二人さん。どっちから死にたい?」
俺の問いにどちらも答える様子はない。
「どうした?仲間が死んで声も出ねえか?」
「呆れてモノが言えねえんだよ。全く…」
死んだはずの男が喋りだす。ボロボロの肉塊が、生きているはずのない傷を負った土使いが話しやがる。
「何故まだ喋れる!!魔力による肉体防御だって限界が…」
「S級だのSS級だの、SSS級だのと。人は危険度に応じてその実力をランク付けしたがる。まあ、実際役立つことも多い。」
まるで痛みすら感じていないかのような平穏な声。
「だがSSS級以上にはランク分けは無い。実際それ以上なんて実力はまず無いといってもいいしそこまで来たらランクがどうだのというよりは相性の方が重要だったりするしな。」
「知ったことか!!攻撃再開だてめえら!!今のうちに叩き込むぞ!!」
「つまるところどっちが理不尽を押し付けるかだ。どうしようもないほどの絶望を叩きつけてこそのSSS級。その点、お前たちはどうなんだろうな?」
悠長にしゃべり続ける男を目掛けて再度一斉掃射、十八番の連携でトドメを…
「地脈操作裏ノ
華が咲いていた。真っ赤な真っ赤な華が。
次元斬りのギンの体が朱く染まり、一輪の華が咲き誇る。
「ギン!!!!」
「分からねえよな、この剣士もSSS級なんだろ?俺と同じに。」
「…一体何が。」
何も見えなかった。結果だけだ、ギンが死んだという結果だけしか頭が理解しない。
「確かに、俺の能力はサポート向きで実際そう戦う方が楽な場面も多い。」
カツカツと足音を響かせながらこちらに歩み寄ってくる。
「そんなサポーターである俺が明らかに戦闘一筋だろうSSS級の
ナニカ言いながら血濡れの華を愛でる。
「難しい事なんて何もないのさ。俺一人でもお前ら全員容易く殺せるほどにはお前らが弱いんだ。」
「そんなわけがあるか!!!伝説だろうが俺達だって同じレベルに上り詰めたんだ!!どれほど血反吐吐いたと思ってる!どれほど努力したと思ってる!!そんなに力の差があるわけねえだろうが!!」
「てめえの実力不足を、努力の不足を、俺たちのせいにすんじゃねえよ。」
男の纏う雰囲気が変わる。
「ただのサポート役なら
男の手から魔法陣が紡がれる、今までに使っていない全く別の法則をした土属性とは違う魔法。
「土と共に歩く者、大地から愛された者、魔法国家の逆十字。呼び方なんて様々だ。でも俺の本来の魔法を言い当てた名は未だない。」
土埃に塗れた部隊服が失われ、死装束のごとき真白な布を身にまとう。
「生れ堕ちる前から罪を背負ったこの身為れども、今生の生に罪は無し。」
「なに、を…。」
「であれば美しく生きる我と汝らと、どちらが生きるか秤にかけよう。」
瞬間大広間の隅から隅まで白の魔法陣が覆いつくす、俺たちごと。
「―白の罰―」
俺の胸、心の臓腑を、自らの罪が貫いた。
「あぁやはり、今日も俺は正常だ。」
罪なき男と対照的に。
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