第8話 狂人と悪魔

「重ねて聞くけど…どういうことかな?」


「正直にいうとね、国の姿勢だって私は気に喰わないのよ、マンフレッドわたしたちが壊滅したからってすぐに他国に助けを請うプライドの無さもね。」


 俺の少し先をゆっくりと歩き続ける彼女。その顔にどんな表情を浮かべているのかはこちらからは伺えないが。


「でも何より気に入らないのは、何よりムカつくのはアンタらよ。私たちが入念に準備をしてなお3人も死んだを舐めた装備で挑むアンタらが。」


 なるほど、確かに俺達には俺たちのやり方があるとはいえ身内が死んだ場所をピクニック気分で挑むなんて言われればその心象は察するものがある。


「正直、だって殺してやりたいけど…まあ、あの二人よりはまだマシね。」


 俺も殺してやりたいという言葉に嘘は混じっていない。実際、呆れるほどにラフな装備でここに立っているのは間違いないわけだし。


「この奥にいるのはSS級の難易度はくだらない化け物よ。それを倒さない限り認められない。両方の道で試練を越えなきゃ道は開かない、そういうこと。」


 …つまるところ、彼女は一人でその化け物とやらを倒して見せたのだろう、だが仲間3人は倒せなかった。だから中央の扉の先は知らないという事だ。


「アンタたちが自分の力に自惚れてるのか知らないけど…所詮は部隊の一隊員に過ぎないんでしょう?隊長クラスなら知らないけどの2人は間違いなく死ぬわね。」


 万全の3人があの万全とは言い難い装備の2人に負けるはずがないと、そう信じている。だから2人が死ぬのだと、そう言い切っているわけか。


「…メーミンちゃんの気持ちも分かるし申し訳ないとは思うんだけど…でもね、、絶対ね。」


「…そう、私もそう思ってたわよ。最初にこの遺跡を出てくるまではね。」


 いい加減歩くのにも飽きてきた頃合いで、進む先にを感じる。


 威圧感、強者特有のプレッシャー。


 メーミンちゃんはSS級と言っていたが…、たどり着いたのは開けた空間。


 その奥に立ち尽くすのは


 人型をしているものの目を引くのは禍々しい形状の、およそ飛ぶことを考慮していないような形状の翼。


 長く傷つけるためだけの爪に貫くためだけの尾。


「わかるでしょ?これと同じレベルのモノがあっちにもいるわけ。ま、私がいるからアンタは死なないでしょうけど…」


「成程ね、メーミンちゃん。きっと多分君はもう大事なものを失ってるんだろ?冷静な判断ができてない。いやを持ってない。」


「…?何を言ってるのクライム。私はコイツを…。」


 出会った時から何かがおかしいと感じていた。な印象。


 周りは見えているのにがややおかしい。





「多分君は…本当はでチーム分けをしたんだ。コイツを見てはっきり分かったよ。。」




「違う!!!!!!!!」



 絶叫が開けた空間に反響する。



「私は…ウチはマンフレッドの隊長で…メーミンで…」


 言い聞かせるように、そうだと信じ込むように彼女はうわ言を宣う。


「3人が死んだのは間違いじゃないんだろう、でも君はコイツと立ち向かった仲間を救えなかった。回復術が使えるのに。他者を救う魔法を生業とするのに。」


「黙れ!黙れ!ウチは隊長だ!ウチの判断が間違ったのがミスだったんだ!4人で行くべきだった!3人に分けるなんて…」


 支離滅裂で全てが狂った彼女には何を言っても届かないだろう。


 そんなことよりも解決するべきは目の前の悪魔だ。


 狂気が侵食する彼女を置いてそれと対峙する。


「汝、力ヲ示セ。」


「ガキのに悪魔退治、やる事が多くて困るね全く。」


 手を掲げて魔法陣を描く。SS級の悪魔であることだけは間違いない。


「気合入れていきますか…。」


 開戦の合図はやる気のない台詞から始まった。


 ◆◇◆


「地脈操作肆号 挟土はさみつち


 両手を横に広げ魔法陣を2つ展開し、同時に悪魔の左右から土づくりの巨大な手が現れその体躯を握りつぶす、が。


 ガラガラガラ、とゆっくりとが崩れ落ちる。


「ったく…なんでよりによってコイツ風属性の魔法メインなんだよ!相性最悪だろうが!」


 魔法にも様々あるがその属性によって相性のようなものがある。俺がメインにする土属性は風属性に弱いというどうしようもない壁が戦闘を長引かせていた。


「っぶね!」


 身をよじって目に見えない飛来する風刃を躱す。


「チッ、質量攻撃じゃダメか?となるとやっぱ一撃必殺だよなあ…。してるみてえで使いたくねえんだけどなあ…。」


 個人のポリシーも命がかかってくれば話は変わる。覚悟を決めて姿勢を正す。


「地脈操作捌号 泥遊び 亜流 土細工つちざいく


 魔法陣を描くと陣の中央から生まれてくるようにが作られる。


 両の手に一丁ずつ、グリップを深く握りしめる。


前世の記憶俺だけの知識だからさあ…、使いたくねえんだけど特別に見せてやるよ。」


 この世界ではまだ生れ落ちていない武器、まあもう少しすれば発明されるんだろうが今は俺だけの武器だ。


「まあ俺もこの武器、詳しい構造知らねえんだけどさ。やる事は単純なんだ。」


「この筒の中で起こして弾飛ばすってだけ、見た目ガワだけ真似てるが造りは俺のだ。だからよ…」




 本物オリジナルよりも威力あるぜ?



 バン!!とトリガーを引いて弾を放つと悪魔の右足に風穴があく。


「おっと、すまんすまん。俺って狙いつけるのが苦手でよ。だから質量攻撃ばっかりなんだが…、でもいいよな?お前がになるころには死んでるだろ?」


 広い空間に何十にも渡る発砲音。本物オリジナルはリロードなんていうが要るらしいが俺の特別製は勝手が違う。


 なんせ弾も俺のお手製だから撃った端からに造ってまた撃つだけ。


 言ってしまえば尽きない弾薬だ。


「っと、こんな具合で充分か。」


 適当な所で切り上げたときには既に悪魔は元の形を保っていなかった。


 後ろの方で何かガシャンという音が聞こえてくる。大方右の道に入って閉ざされた扉が開いたのだろう。


「私は…ウチは…。」


「さて…ちょっと眠っててもらうか。ウルセエからな。」


 手刀で首の後ろを狙って意識を奪う。


「お、一発で成功するのは珍しいな。俺下手くそだし。」


 狙いが悪いのか何度もゲシゲシやるのがいつもの事なんだが、今日は調子がいい。


 横たわる少女を肩に担いで俺は広間を後にした。


 ◆◇◆


「随分と遅かったな。お前ともあろうものが。」


「うるせえなあ、大体俺はじゃないんだよ。それに色々あったしな。」


 主に肩に乗っかる少女がひとりで狂っていただけだが。


「ふーん?案外、奥でタノシイ事してたんじゃないの?クライム。」


「ネームレスは知らねえのか?俺は少女趣味はねえの。」


 妙な誤解をされてそうな気がするがどうせくだらない軽口だ。気にするようなもんでもない。


「ちなみにお前らの方はどうだったんだ?」


「んー?レイシアがパパッとやっちゃったよ。無粋だよねェ。」


 マジかよ、俺結構苦労したんだけどな。


「そんなことよりさっさと奥に行くぞ。時間の無駄だ。」


 そう言い残してスタスタと先を進んでいってしまうレイシア。


 なんというかせっかちなんだろう。追いかけるように俺とネームレスも中央の扉の中へと足を踏み入れていった。





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