第7話 メーミン

「あの…一応聞いてみるんですけど…このままダンジョンに行くんですか?」


「ねェクライム。このくだりさっきもやらなかった?」


「よく覚えてたなネームレス。俺はびっくりだよ。」


 ダンジョン前、新たに加わったメーミンちゃんを連れてそびえ立つダンジョンの入り口の前で往生していた。


「いやでも皆さんホントにその軽装で行くんですか?」


 メーミンちゃんはやや呆れたように言う。そりゃそうだろうな。街のが帰ってこなかったダンジョンの中にこんな気軽に入る奴もいないだろう。


「くどいなメーミンとやら。クライムがどうしてもというから目を瞑るが…任務の邪魔になるなら容赦なく置いていく。」


「なんでそんな高圧的なんだよ…。まあ大丈夫だよ。なんとかなるなる。」


 レイシアの態度が少し不安だがまあ大丈夫だと信じたい。


「ホントにいくのかよこいつら…。」


 おや、若干メーミンちゃんの本音が見えただろうか。


「じゃあ出発しようか。とりあえず指揮は俺が執るぞ。つっても聞かねえだろうけどなお前らは。」


 なんとも締まらないスタートがダンジョン攻略の始まりだった。


 グレイディ近郊、


 ◆◇◆


「確かメーミンちゃんは回復術が使えるんだっけ?」


「はい!メインはそうですけど…。攻撃魔法とかもちゃんと使えますから安心してください。」


「成程、ウチのと役割は一緒か。ならまあ使えるだろう。」


「さすがにアレと一緒にするのは可哀そうだろ…。」


 レイシアがさらっと酒飲み馬鹿ラグナロクと同じなんて言ってたがあまりにも酷だろう、それは。


「ん~いいねェこの洞窟、風情があるよ。」


 さっきからネームレスは指で四角を作っては題材であるダンジョンを評価しては頭の中で何かを描いているのだろう。


「あの…クライムさん。みなさんっていつもこんな感じなんですか?」


 メーミンちゃんが小声で俺に心配そうに問いかけてくる。


「そうだね…。まあこんな感じだよ。」


「…そうですか。」


 明らかに残念がっている…というか失望しているような表情を浮かべる彼女。


 一応特殊部隊ハウンドってそこそこ名が知られているもんだからどこか期待されていたのかもしれない。


「む…?」


 レイシアが声を上げた先にはゴブリンがいた。特に何の変哲もない、表現のしようもないような


「あの…みなさん?」


「ん?どうしたの?メーミンちゃん。」


「いや、ゴブリン…いますけど…。」


「別にいいんじゃない?無視しとけば。特に襲ってこないんなら。」


「マジかよこいつら…。」


 なんだかさっきからメーミンちゃんにがっかりされてばっかりな気がする。まあでも俺達ってこんな感じだし変に気取ってもそれはそれで違う気がするし。


 だけ済ませながらダンジョンを攻略していくが特に問題が無い。


 


「おい、少し気になったんだが…。」


 途中喋ることもないのでだんまりを決めていたレイシアが久しぶりに口を開く。


「このダンジョンは私たちが来る必要はあったのか?」


「ああ、俺も気になってた。ちょっと簡単イージーすぎる。俺たちが出張ってくるようなレベルとは到底思えない。」


「なにか隠してるんじゃないのか?メーミンとやら。」


「…、さあ?私にもわかりません。」


 明らかにを切っているのは見え見えだが話さないのなら仕方がない。


 そのまま妙な雰囲気を漂わせ続けるダンジョンを進んでいくとようやくに到着した。


「…成程ねえ、二手に分かれないと先に進む中央の扉が開かないってことね。」


 3叉に分かれた道の端、古代文字で刻まれた看板によるとこうだ。


 ―右と左に分かれ、それぞれ武勇を示せ、さすれば道は開かれん―


 みたいな感じ。もっと古風に書いてあったがそこは意訳した。


「どういう仕組みか知らんがまあ、同時に何かをしないと開かないんだろうな、この真ん中の扉は。」


 レイシアの予想通りだろう。となると重要になるのはチーム分けになるが。


「チーム分けはどうするかね…。」


「私は当然クライムといく。というよりこのメーミンとやらは信用ならん。ネームレスなんてもってのほかだ。」


「同感だね、でも僕もクライムとがいいなァ。メーミンちゃんはが見えなくてモデルにしたくない。」


 やだ、俺ってば大人気…というより二人ともメーミンちゃんの事嫌いすぎだろ。なんでそんなこと言うんだマジで。


「死ねよお前ら…まあいい、メーミンちゃんはどう?誰と行きたいとかある?」


「…クライムさんで。」


 …参った。誰を選んでも地雷だ。帰った後でお小言を言われるのが目に見えている。


「はあ…ま、と俺が組むのが一番か?お前らは二人でよろしく。」


 非難の嵐が数分止まなかったが結局は俺とメーミン、レイシアとネームレスのコンビで分かれることが決定した。


「なんでチーム分けが一番時間かかるんだよ、難易度が高いってそういう意味かよ。」


 メーミンちゃんと一緒に右側の道を選択し歩いていくとガシャン!、と後ろの方で何かが降りたような音が聞こえる。


「ハッ、よかったねクライム。私と組めて。」


 突然人が変わったかのような威圧的な声。


「ん?ようやく本音で話してくれるつもりになったのか?メーミンちゃん。」


 メーミンちゃんの偽ったが霧散する。


 代わりに纏うのは敵愾心の鎧。


「残念だけどあの二人は死ぬわ。アンタは…まあ私が何とかしてあげる。」


「…どういうことかな?」


「私はグレイディの特殊部隊の隊長メーミン・ブラックロッド。自己紹介はコレでいいかしら?」


「ご丁寧にどうも。」


 冒険者ではないだろうとは思っていたが成程、この国の特殊部隊か。しかし特殊部隊の隊長は低身長の女性が務める法則でもあるんだろうか。


「我々は一度このダンジョンを攻略するために中に入っているの。当然この分かれ道まで到着して同じようにチーム分けをした。」


「ほーん?つーとこの先の構造も分かってんのか?」


はね。」


 この先まで…、持って回った言い方だがなるほどそういうことか。


「つまりアンタらは中央の扉の先には踏み入ってないわけだ。」


「ええ、その通りよ。中央の先は見ていない。」


「…それはなんでなのかな?」


「言わなきゃわからないのかしら?死んだからよ私以外のが。」


 死んだ…、死んだ、ねえ。


 …少しだけおかしいところがある。それをあえて言わないのは俺から聞かれるのを待っているという認識でいいのだろうか。


 それともをした方がいいか。


「つまりあんたらはでチーム分けをしたのか。おそらくアンタは隊でも飛びぬけて強いんだろう?なんせ隊長なんだしな。だから片道をアンタ一人だけで担当したってとこか?」


「そうよ。」


 回復術がメインだという彼女が2人ずつでチーム分けをしたならが死ぬはずがない。


 カツン、カツン、と洞窟内に足音が響く。


 先を行く彼女には、口調にも、その足取りにも何も迷いはない。


「だったら事前に俺たちに教えてくれてもいいんじゃないか?何が起きたのかを。」


「アンタたちに会うまでどうするか迷ってたのよ。でも決めたの。」





 ゆっくりと、彼女は立ち止まる。






「アンタはともかく、もう二人にはって。」





 夕刻のグレイディ特殊部隊マンフレッドの隊長メーミン・ブラックロッドに


 迷いはない。




 例え人を殺す決断ですら。



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