第6話 隣国グレイディ、小さな4人目

 乗るのが遅れた馬車の中、揺られるのにも疲れた頃合いでネームレスが話しかけてくる。


「でさァ、お二人さん。僕たちは今どこに向かってるの?」


 さっきも話したばかりだろうにコイツは…。


「お前昨日の伝達聞いてなかったのか?」


「うーん…聞いてたような…、聞いてないような。」


「大方絵でもかいていたんだろうさ。そうだろう?」


 レイシアが茶々を入れる。


「よくわかったねェ、レイシアにしては頭が回ッてるじゃん。」


「お前と違って私は任務に忠実なんでな、趣味に勤しんで仕事を忘れたりしないんだよ。」


 ああもう始まったよ、なんーでこいつらすぐ喧嘩腰になるんだろうか。とある一件以来、イマイチこいつらの仲が良くない。大した事件でもないのだが。


「ええっとなあ、ネームレス。つまりこれから俺たちはグレイディに行ってダンジョンを攻略する。そんだけだ、わかったか?」


「ダンジョン…いいね!僕行ったこと無かッたんだよねェ、良い画の題材になりそうだ。」


「それ朝も聞いたよ…。」


 コイツはどこか人の話を聞かないことが多い…というより聞いても忘れていることが多い。


 頭の中が画を書くこと、何かを描くことしか詰まってない芸術馬鹿だ。


「どうでもいいが任務の邪魔はするなよ。」


「邪魔?するわけないじゃん。むしろ君のお堅い姿勢の方が心配だけどね…。」


「言ってろ。」


「なんでお前らは…まあいいや、ダンジョンでは喧嘩すんなよ。」


 もう仲裁すんのは無理だな、派手にやらかさない限りもうほおっておこう。


 ◆◇◆


「やっと到着か。もう日が落ちちまってるよ。」


 馬車にも流石にうんざりするほどの時間が流れ、グレイディに着いた頃には既に夜だった。


 馬車の中での会話は想像にお任せする、まあ俺のが積み重なったとだけ残しておこう。


「ここがグレイディかァ、来たことないから新鮮だよ。」


「私も来るのは初めてだな。」


「さて、ガイドがいるらしいんだが…。」


 一応3人とはいえ他国からの賓客でもある。任務できているので宿屋や装備等々の準備に関してはある程度向こうがセッティングしているはずだが…。


「お待ちしておりました。この国グレイディでのガイドをさせていただきますサリアと申します。」


 俺たちの前でぺこりと一礼した女性が今回のガイドらしい。服装からして冒険者組合の者だろうか。


「すんませんね、どうも遅くなっちまいまして。」


「いえ、問題ありません。今日は夜も遅いですし、ひとまずは宿をご紹介いたします。武具や魔導書、その他道具類については明日、信頼できる商会をお連れ致しますので。」


 彼女に言われるがまま、3人で宿に向かう。街の中央、おそらくは国の中でもかなり宿だろう。外観からして高級なのが分かる。


「それぞれ一室ご用意しておりますので。」


 明日の朝また迎えに来ると言い残して去ってしまった。


「明日は寝坊すんなよネームレス。」


「だァいじょうぶだって。」


「私としてはむしろクライムがさぼらないかの方が気になるがな。」


「僕もそれは同感だね。」


「任務はさぼらねえよ…。つかネームレスにだけは言われたくねえ。」


 散々な一日だったが宿の待遇は良いもので、食事やらを終えるとベッドに倒れるようにすぐに眠ってしまった。


 ◆◇◆


「ああ…朝か…。」


 昨日ああは言ったが別に朝に強いというわけでもない。


 なんとか気を奮い立たせて起き上がる。朝強いヤツってのはすげえよな。俺には到底たどり着ける境地じゃないね。


 まあでもレイシアあたりは滅法強そうだよなあ、というよりアイツが気を緩めるような場面をあまり想像できないが。


「よし、今日も俺はだ。」


 姿見の前でいつもの確認。部屋を出てロビーで二人を待つ…つもりだったが既にレイシアが武器の手入れをしていた。


「お前はいっつも早いなレイシア。」


「当然だろう。」


「ネームレスはまだか。まあ少し待ってみるか。」


「私は寝坊すると予想しているが。」


「賭けるか?俺は寝坊しないと信じたいけどね。」


 昨日の今日だ、さすがに起きてくるだろう。


「お前も案外アイツの事が分かっていないな。今日の昼飯代はおごってもらおう。」


「まさか…。」


 結局ネームレスが起きてきたのは約束の時間からかなり経った後だった。


「なあ、今日ばっかりはお前を殴っていいか?いいよなネームレス。」


「どォしたの?クライムらしくないね。」


「お前がのがよくねえんだよ。」


 昼飯代が高くついたのはさておき、ガイドのサリアに連れられて街の冒険者がよく利用する様々な店を紹介された。


「といった具合なのですが…。」


 サリアが若干苦い顔をする。


「あまりお眼鏡にはかなわなかったでしょうか…。」


「ん?いや別に?そんなことは無いと思うぜ?いいもの取り扱ってると思うよ。」


「にしては皆さんダンジョン攻略の物資を何も買われませんでしたが…。」


「特に必要ないのでな。そうだろう?クライム。」


 レイシアがやや突っぱねるように問い返す。


「いえしかし…今日早速向かわれるんですよね?今回見つかったダンジョンは規模もそれなりのものですしバックパックの一つも持たないというのは…。」


「あー…ごめんねサリアさん、ハウンドウチってこういう感じなんだ。ま、ちゃんと任務はこなすから安心してよ。」


「…そうですか。分かりました。一応3人で来られるとのことでしたのでもう一人力になれるような人材を用意しているのですが…お会いになりますか?」


 力になれるような人材、か。もともと3人で攻略するつもりだったが…本来4人での攻略が基本とはされている。


「それも必要ないだろう。クライム。」


「そうっちゃそうなんだけど…折角準備してきてるんでしょう?その人。さすがに会わずに突っぱねるのはマズいだろ。」


「僕は別にどォでもいいよ。クライムの好きにして。」


 お前はそう言うと思ったよネームレス。


「まあ一回会ってみましょう。サリアさん。その方はどこに?」


「冒険者ギルドで待っておられるかと。ご案内します。」


 一応ウチのやり方があるとはいえ賓客の立場だ。さすがに失礼が過ぎては後で色々隊長にどやされるのは間違いない。


 サリアの案内で冒険者ギルドに向かうと中の待合室で小柄のローブを着た女の子が待っていた。


「は、初めまして!今日からお世話になります!メーミンといいます!」


 元気いっぱいの挨拶に俺はどうやって傷つけずに断るかどうかを考え始めていた。


 ◆◇◆


「僕は入れてもいいと思うけど。」


「私は必要ないと思うがな。」


 なんか二人で意見が割れていた。


 それなりに簡単な自己紹介を終えた後、彼女を仲間に加えるかどうかで若干もめていた所だ。


「ええっと…メーミンちゃん。」


「はい!」


「一応聞くんだけど…君って結構冒険者の中ではレベル高いんだよね?」


「はい!一応です!」


 さて…どうしたもんかねえ…。


「少し二人で話したいんだけど…。いいかな。」


「私は良いですけど…。」


 メーミンと名乗る少女からの確認をとってギルドの適当な部屋を借りる。


「あのー…面倒だから単刀直入に聞くんだけど…君じゃないよね?」


「…私は一級冒険者ですよ?」


 不安そうに見つめる彼女、ぼさぼさの髪に綺麗に整った服装。なんだろうか、どこかな印象。ナニカがずれている感覚。


「あー…なるほどね。でもなあ…突っぱねてこっそり監視つけられてもだるいしなあ…。」


 もう明らかに彼女は冒険者ではない。おそらくグレイディにおける特殊部隊ハウンドのようなものの一員だろう。


 さすがに他国に依頼を飛ばしたあたり実力が俺たちを越えていることは無いんだろうが、大方監視の役目なんだろう。


「いいや、仲間に入っていいよ。そっちの方が多分俺たちもやりやすいし。」


「ホントですか!?やったー!!」


 この少女がいつまで仮面をかぶったままなのかは知らないが新たな仲間が加わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る