第5話 お上の会議、特殊部隊の名無し
「いいか、念を押しておくがお前は余計なことを喋るな。」
「分かってますって。ガキじゃねえんすから…。」
礼服に着替て王国に向かう道中もう何度聞いたかわからないぐらいに余計なことをするなと頼まれる。
「上の連中は別に私達に敵意があるわけでもないし、私達がマズいことを隠しているわけでもない。ただ…隊の予算がな…。どこかの誰かさんのおかげで全く足らんのだ。」
「あー…なるほど?」
正直ウチの金回りなんてさっぱりわからん…というか王国が全部負担してたんじゃないのか。
「アレ?もしかして宿の破壊とかって結構とんでもないんじゃあ…?」
「とんでもないどころで済むものか!ウチが必要不可欠の部隊と言っても限度があるんだよ。」
あとでROAにはキツく灸をすえねばなるまい、つーかこういう問題ってほとんどアイツのせいじゃないか…?
「まあ、なんだ。別に説教だの説法だのを食らうわけじゃないんだ。気軽に構えて結構。失礼さえなければそれでいいさ。」
王城の見張り番に入城の手続きを済ませながら中に入る。
「これはこれは…。」
普通の人間には王城に入ることは人生一度も訪れる機会は無い。
つまりは俺のような人間にはこんな場所は目新しくって仕方ないわけだ。
メイドらしき人物に誘導されつつ、会議室らしき場所の前に到着。
周りばかり見て道を全く覚えてないがまあどうでもいいだろうか。
「こちらになります。」
無駄のない一礼を終えた後、メイドが扉を開くと中にはまだ1人しかいなかった。
「やあミハイル殿。ご無沙汰しております。」
「どうも、メルビン商会長殿。」
商会長…まあ商業ギルド辺りのトップ、という所だろうか。正直あまりなじみのない人物だが若くしてこんなところにいるのだ。どうせ傑物なのだろう。
「お連れの方は…初めてお会いしますね。」
「どうも、クライムと申します。」
まあ実際にはそれなりに堅苦しい挨拶をするつもりでいたんだが恐らく彼には必要ないと踏んだ。
臨機応変にやるべきではあるだろう。
俺たちが席について少しも経たないうちに様々な立場の人間が集まり始める。
冒険者ギルド組合会長、「蒼き薔薇の一団」団長、医術協会「救いの眼」会長etc…。
頭が痛くなるような相手ばかりだ。会ったことは無くとも名前、或いは所属組織は知っているような有名人ばかり、隊長のように供を連れてる奴もちらほら見える。
そうして最後に次期王位継承候補第一位、ヴェイロン皇子が入室し、会議は始まった。
喧々囂々、とでも言えば良いのだろうか。別に俺が口を挟むことでもないし、挟もうとも思わないのだが中々に会議は劇的だった。
会議の内容は様々で今後の予算から、街のインフラだの様々な内容が議題に上がる。果ては街の文化財の破壊は認められるかどうかなど会議することなのかわからないものまであった。
ただこうして人が舌戦を繰り広げるのを見ているのはなかなかどうして面白いものがある。
別に人を見て笑う趣味は無いが知恵者が集まって勝負している様は中々勉強になった。
「さて…、」
また新たな議題が上がるようだ。さっきまで話し合っていた魔法動物の保護運用費の可否はあまり面白い議題ではなかったが…。
「今日の議題はこれからだ。先日より隣国であるグレイディより一報が入った。知っている者もいるだろうが…」
グレイディか…行ったことは何度かあるがまあ悪い国ではなかったはずだ。さすがにここレイメイと比べてしまうとどうしても見劣りする部分はあるが発展が遅れているというわけでもない。
「…というわけだ。そこで特殊部隊ハウンドを数名派遣するかどうかについての可否について検討する。」
…派遣?マズい、あんまり話を聞いてなかったから要点が分からない。
「ウチの国の治安は彼らによるところが大きい事を考えると…」
「しかしこの問題は単純に騎士団を派遣するのとは…」
会議室の役者は踊り続ける。進んでいるかどうかは…わからないが。
実際問題どうなのだろうか、俺達がある程度国を離れた場合、結構面倒な事になりそうではある。
全く対処できないとは言わないがそれなりに被害が大きくなるのは間違いないだろう。
隊長も表立って意見を落とす。まあ俺たちの事一番わかってるのは隊長だろうし。
「まあ、ここが落としどころか。では対処可能と考えられるハウンド隊員半数を派遣する形で進める。では次の議題だが…。」
結論が出たらしい。半数の派遣か。誰が選抜されるやら。その後は大して面白い話もなく、踊り続けて舞台は幕を閉じた。
◆◇◆
幕間、というよりは幕後。城を出た俺と隊長は詰め所に戻っていた。
「さて、誰を派遣したものかな。」
「俺はめんどいんでパスで。」
「いや、お前は確定だ。任務と都合がいいんでな。」
「噓でしょ⁉やめときましょ、ROAとかでいいじゃねえっすか。」
「他国にROAを送れるわけないだろうが。あとは…レイシアと、そうだなあ…。」
最悪だ。別にグレイディに行きたくないっていうんじゃなく、旅をするのが面倒でならない。まして自分が決めたんじゃなく任務の都合でだなんて…。
「つか、俺あんまり聞いてなかったんすけど。向こう行って何するんすか。」
「…お前は話を聞いてたのか?グレイディ近郊で発見された新規ダンジョンについてだ。」
「…そういうのって他国が首突っ込んでいいんすか?利権がどうとかあるでしょうに。」
「利権を絡めたうえでウチの国に依頼が来てるんだ。つまりそれだけの難易度ともいえる。」
「メンドクセー…」
ダンジョン攻略は大抵冒険者ギルドの管轄だ。グレイディにも多くの冒険者ギルドがあったはずだし、一級のパーティもそれなりにいたはずだが…。
「よし、お前とレイシア、あとネームレスに行かせよう。明日には出発できるよう準備しておけ。」
そういい終わると隊長はいつもみたくトントントンと頭を叩く。まあ大方任務伝達をしてるんだろうが。
レイシアとネームレスか…。あいつらあんまり仲良くねえんだよなあ…。
ウマが合わないっつーべきか。信条の違いとでもいうべきか。
「はあ~あ、ま~た俺が仲取り持つのかよ…。しかもダンジョン攻略だろ?ダンジョンよりアイツらの機嫌とる方がだりいよなあ。」
「まあ精々うまくやれ。報酬もでかいんだ。しくじるなよ。」
「俺たちに失敗は無いっすけどね。妥協はありますけど。」
「そうだな。」
かくして明日の出立用の準備をしてその日の夜は眠りについた。とはいっても俺はあまり持ち物も多くないので特に困ることは無かったが。
◆◇◆
翌朝、隊長から指定された待ち合わせ場所で待っているのだが。
「なあレイシア。確か早朝から馬車乗れば夕方には着くって話だったよな?」
「ああ、そのはずだ。」
「じゃあなんで此処にネームレスが来ねえんだ?」
「さあな。二人で行くか?」
「んなわけにいくかよ!!ああ!もうめんどくせえなあ!アイツの家行ってくるから!ちょっと待ってろ!」
任務しょっぱから遅刻してやがる馬鹿のせいで俺が面倒を被るんだよな、いつもいつも。
「地脈操作参号亜流 土車」
即席の自立移動車を作って街中を駆ける。朝も早く人は少ないし、街中は魔法馬車も通るために道は広い。
何度か行ったことのある、いや行かされたことのあるネームレスの家に向かう。
着いたのは家、というよりはあばら家の様なそれ。
「おい、どうせ寝てるんだろ。さっさと起きろ。」
人に言えた義理じゃないが流石に俺も任務があるとわかっていて寝坊したことは無い。
「うーん…。煩いなァ…。」
「さっさと起きねえと引きずっていくぞ、マジでな。」
「わかった、わかったって…。」
長身で痩せぎす、洒落た襤褸を纏った前衛的な装束。ぼさぼさの髪をがりがりと掻いている彼こそが、
名無しの筆取り、ネームレスだった。
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