第32話 ゆっくり走らせた自転車並
身悶えするほどの羞恥を忘れるかのように、私とミライは洞窟調査の翌日からも、レベル上げに励んでいる。
七月中旬。
私たちのレベルは順調に上昇し、もうすぐで次の祝福が得られそうな段階に到った。
ミライとの関係も、お互いを支え合うことで良好。
タイガさんやキヌヨさんとの関係も、良好……出来の悪い弟や子供のように、二人に接されているな? と感じたりもするけど良好なはず。
しかし、何もかもが順調とはいかず、最大の問題が解決できていない。
最大の問題……北海道から新潟へ向かう、旅路に関する諸問題。
タイガさんと共に、青森に向けて出発するまで残り一月半。
テレポート的な何かは期待出来ないため、定期的に話し合いをしているが、行き詰っていた。
「やっぱり一番の問題は、青森から新潟までの距離と日数ですね」
ミライが難しい表情で眉を寄せ、目下最大の問題を挙げる。
青森までタイガさんも含めた三人で行動出来るため、問題はほとんどない。
問題は青森から新潟。
「ここから青森まで、最短でも一泊は確実。青森から新潟までミライと二人で飛んでも、最短四泊。野宿は確実かぁ」
ミライが飛行の祝福を得なくても、私が背負うことで解決できる。
しかし、飛行は常に全力で飛び続けられる、反則じみた力ではない。安全な高度と最高速度では消耗が激しく、一時間も飛び続けることは不可能。
安全な高度まで上がると、半日ほどの長時間維持できる速度は、ゆっくり走らせた自転車並に遅くなってしまう。
「最短で急ぎたいですけど、無理はしたくないですね。一週間以上の野宿を覚悟した方が良さそうですけど、そんな覚悟したくなかったですよ……」
彼女がものすごく悲しい表情で言ったように、北海道から新潟まで寄り道せずに進んでも、一週間は野宿生活が待っている。
登山やキャンプなど行楽のアウトドアではなく、ガチのサバイバル。野宿だ。
ゴブリンなどのモンスターも襲ってくるから、バトルサバイバル……ゲームなら楽しいけど、現実では絶対にやりたくなかった。
「これだ! って解決策がないのが、痛いよね。俺とミライは幸い格納が使えるけど、なんでもかんでも入るわけじゃないから……」
最低でも一人二週間分の食料と、武器や着替えの予備などの物資を、仮に全て私が格納すると空き重量は三割以下。武器が重い。
完全に空のミライの格納と、私の三割以下の格納で、野宿対策をしなければならない。
実際には二人で均等に格納するけど、安全な野営を考えると、心許無い空きしかない。
格納の空きを最大まで使用して、鉄パイプと鉄板を入れてみるか?
そんな野営に対する不安なども、タイガさんとキヌヨさんに相談している。
「アキトとカノが次の祝福スキル使えるようになったら、野営の練習に行ってみっか。いろいろ試してみようぜ。オレも青森からは、一人で帰ることになるかもしれねぇからな」
タイガさんは野営練習の提案を、
「そうだべな。練習しないで本番は危ねぇべ? ここいる内に、やってみるのがいいべ。実践してみたら、いい案も問題もはっきりとわかるようになるさ」
キヌヨさんは野営練習への賛同と、問題点の洗い出しを提案してくれる。
確かに、ぶっつけ本番で未経験の野営を何日も続けたら、想定外の失敗をしそうだ。
その後、野営資材の吟味をしながら数日が過ぎた頃。
私とミライは、次の新しい祝福を得ることが出来た。
ーーーー
始まりの祝福(身体強化 三、水火生成 二、小回復)
祝福 格納 飛行 強化 癒手
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私は「癒手」、ミライは「飛行」を獲得。
目標にしていた祝福スキルを得る事が出来て、以前に立てた「願えば叶う仮説」がほぼ証明されたと思う。
そして、体感してわかる「癒手」の驚くべき有用性。
対象物の治療だけではなく、自身に常に微弱な回復効果があり、驚異的な持久力が副次的に得られる。
また、始まりの祝福の「身体強化」が「二」から「三」に上がり、身体能力も飛躍的な上昇を見せた。
この「身体強化 三」が、思わぬ幸運をもたらしてくれる。
筋力や持久力など、肉体的な強化がされるものとばかり思っていたけれど、もっととんでもない祝福だった。
タイガさんの身体能力などを測定出来る「眼識」で見てもらうと、肉体強度が数値的に三割ほど上昇しているらしい。
車のギアを変えるような、全力を出したときの上限が段階的に増えた感覚。
特に力の調節で困るようなことはなく、日常生活には支障がない。
その上昇した三割には肉体強度の他に、私たちが内包する謎エネルギーや祝福スキルも含まれている。
「格納」の最大重量が、三割増。
「強化」「飛行」「癒手」の消耗三割減と効果三割増。
長所が三割増、短所が三割減。
思わぬ幸運をミライと一緒に喜び、翌日には野営練習に出ることになった。
――――
tips 洞窟内のモンスター
洞窟型迷宮に出現するモンスターは、洞窟外には出ない。
行動原理は侵入者への敵対のみ。
個体数の自然な増減はせず、常に一定の個体数を維持し、減った個体数は一日で光と共に復活する。
地球大進化 〜ファンタジーを取り込んだ地球で生きる!〜 本大 @hondai
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