第31話 鼻の奥がツンとして

 祝福スキルの相談や、戦闘指導を受けながら目標地点に到着。

 モンスターがたむろしやすい場所なのか、大量に徘徊している。二十匹は確実にいるな。


 私とミライの出現地点の調査が目的なので、タイガさんも積極的に戦闘というか殲滅に加わる。


 前回とは異なり、こちらが不意打ち気味に先手を取ったこともあって、戦闘は一方的なものだった。


 相変わらず、タイガさんはとんでもない。

 でかい剣鉈を二本、無茶苦茶に振り回しているようで、無駄な攻撃を全くしていない。


 以前は私とミライを守るために、飛んで跳ねてビームも出して、大々おお立ち回りしていた。

 今回は私たちを守る必要がないからか、派手な動きは剣鉈を振る動作だけ。


 モンスター集団の中を、まるで散歩するかの如く歩き、次々と斬り捨てて行く姿は微塵も揺らがない。

 これが無双かぁ……やっぱり彼はバグキャラだよ。


「こいつで最後だな。アキト、カノ、怪我はないよな?」


 最後のゴブリンを蹴り飛ばし、周囲を警戒しながらタイガさんが確認を取ってくれる。


「はい、おれに怪我はありません。ミライも怪我はない?」


「ええ、私も怪我はないですよ。というかですね。アカギさんが引き付けていたから、怪我のしようがなかったです」


 うん。ミライの言うとおり、彼の独壇場だったよね。


「怪我がねぇなら何よりだ。帰りもあっから、ここで消耗もしてられねぇしな。

 ええっと……確かあれだな。お前らが突然出てきた所は」


 あの辺。と彼が指し示す場所には、今まで通ってきた洞窟の壁面と、変わりはない。

 気になるとしたら、大人一人が立った程度に、壁が出っ張っているくらいだ。

 ここまで通った洞窟内でも、同じような出っ張りあったから、特別目立ってもいない。


「ここですか。俺とミライが倒れていた所は」


「目が覚めたらモンスターに囲まれているし、アカギさんは怖いし、アキトさんは祝福で癒しても起きなくて、本当に怖かったんですよ。……あ、ごめんなさい、アカギさん。助けてもらったのに」


 私が壁の出っ張りを触らないように確認していると、ミライが当時を思い出したのか目を潤ませ、次いで失言だったと慌ててタイガさんに謝罪した。


「あの状況じゃ、カノが怯えるのはしょうがねぇわ。気にすんな。

 まぁ、あんときはいつまでのんきに寝てんだ、この男! って思ったが、カノの復帰が早かったのは、癒手の効果かもしれねぇな」


 タイガさんもミライの謝罪を受け入れ、当時の様子を思い出しているみたいだ。


 助け出されてから何度か聞いたけど……もしかして、祝福で癒されても起きなかった私は、かなり危険な状態だった?


「んん、その節はご迷惑をおかけしました。それで、ミライはこの周辺から何か感じたり、気になることってあった?」


 二人に改めてお詫びして、ミライに聞いてみるが、彼女も特に発見はないようだ。首を横に振っている。


「その出っ張りって、触ったら危ないですか?」


 ミライが確認してくるが、危険かどうかも私にはわからない。


「危ないかどうかも、正直何もわからないなぁ。タイガさん、触ってみていいと思います?」


 見てわからないなら、触ってみるしかないけど、彼にも確認したい。


「何が起きるか危ねぇかどうかも、オレもわかんねぇわ。もし触ってみるなら、二人で手でも繋いで触ってみたらどうだ?」


 腕を組み、眉を下げた心配そうな表情でタイガさんは続ける。


「二人とも、ある程度の物資は格納してるよな? テレポートか何か知らんけど、マジで何があるかわかんねぇ。その出っ張り触るなら、一応覚悟して触れよ?」


 彼の提案を受けて、ミライと互いの格納している物資の確認をする。

 食料、衣類、予備の武器などの物資は、一週間以上困ることはない量を格納している。


 ……二人で頷き合い、出っ張りに触る決心を決めた。

 もしも新潟に帰ることが出来たとして、心残りはキヌヨさんに挨拶が出来ないことくらいか。


「タイガさん、あれに触ってみます。帰ることが出来るなら、やっぱり帰りたいですし。

 俺、タイガさんに本当に感謝してます。言葉じゃ言い表せないくらい感謝してます。ありがとうございました!」


 鼻の奥がツンとして涙があふれそうになるけど、彼に精一杯の感謝を伝える。

 絶対に強くなって北海道に行こう。今度は、家族みんなで行くのもいいかもしれない。


 ミライも涙をこぼしながら感謝を伝えている。

 キヌヨさんにも感謝を伝えてほしいと、二人分の伝言を頼み手を繋ぐ。


「泣くな泣くな。オレもお前らに感謝してんだ。短い期間だったが楽しかったよ。また来いとは気軽に言えねぇが、なんかあったら遠慮しねぇでオレを頼れ。じゃあな!」


 泣くなと言うタイガさんも、目を潤ませている。


「「ありがとうございました!」」


 二人で頭を下げ、意を決して出っ張りに触れる。


 ……


 …………


 ………………


 ……………………何も起きませんが?


 そっと振り返ると、涙の引っ込んだタイガさんが、無表情で立っている。

 私とミライも、すでに涙が引っ込んでいる。同じく無表情。


 ミライと出っ張りのいろいろな所に触れたり、叩いたり、蹴ったり、強化もかけた武器で殴ってもみる……何も起きませんが?


 タイガさんも、無言で出っ張りを触って調べている。

 八つ当たりのようにビームまで発射し出した……何も起きませんが?


 今生の別れのようになったのに、何も起きませんが?


 ……羞恥で全員の顔が真っ赤。ものすごく気まずい雰囲気のまま、洞窟を後にした。


 帰り道のモンスターには、八つ当たりに付き合ってもらった。三人でめちゃくちゃ大暴れした。



――――

tips アカギ・タイガの装備

 主武装は、刃渡りが成人男性の腕ほどの長さの、自作した剣鉈を二本。

 服装は作業着を着ていることが多い。足元はブーツ。

 異世界で使っていた装備各種は、地球帰還時に持ち帰ることが出来なかった。

 生感じの服装は十年前の物。 

 

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