第30話 絶対にやらなかったはず

 探知。周辺の気配を探り、把握する。

 察知。身に迫る危機に直感が働く。

 隠密。気配を隠す。

 集中。集中力が増し、周囲が遅く感じる。

 投擲。投擲の速度、精度、飛距離に補正。

 遠見。遠くまで見ることが可能。

 天脚。空中を地面のように駆ける。

 鑑定。物の効果を見る。

 加工。物を加工する。

 障壁。自身を基点に障壁を張る。

 光魔。光で色々出来る。

 風魔。風で色々出来る。


「……こんなもんか。参考になりそうか?」


「「ありがとうございました!」」


 タイガさんに実演してもらいながら、解説を受けた祝福スキル。

 その数、十二。レベルを百二十上げれば、全部獲得できるな……無理。


 彼は他にも使えるが、飛行など私たちと被っていたり、癖が強くおすすめできないものもあるらしい。

 剣術や体術など、技術的なものは祝福に願う程でもないと言っている。


 十二の祝福スキルは、一部を除いて消耗も少なく使い勝手が良いらしい。でも、多いよ……


「ぶっちゃけますけど、多過ぎて悩みが増えました。すごく参考になったのは、間違いないんですが……」


 そう。選択肢が多過ぎて、選び切れない。

 多彩な祝福スキルを、実際に目にすることが出来ているから贅沢な悩みだと思うけれど。


「私もアキトさんと同じですよ……アカギさんから見て、今の私たちに必要だと思う祝福スキルってありますか?」


 タイガさんがどれを選ぶのかは、とても気になる。

 ここは先人の知恵を授かろう。


「だよなぁ。ま、オレのことは気にすんな。奥に行くまでのついでだ。

 おう。もしもオレなら確実に欲しい、必須なのはあるぞ。アキトは回復と持久力増強で、癒手。カノは長距離移動と逃走にも使える、飛行だな。次点で探知か察知」


 選択肢が多過ぎて失念していたけど、たしかに癒手と飛行の二つは必要だと思う。


 特にミライの使える癒手は、医療が望めない環境で必須とも言えるんじゃなかろうか。


 空を飛べるのも、それだけで有利になることは多い。自分で飛べるようになって、改めて飛行の有用性を実感している。


 私とミライだけで行動するなら、癒手と飛行は特に重要。必須と言ってもいいかも知れない。


 でも、探知と察知は便利そうだけど、次点になるほど必須という感じがしない。


「探知と察知ですか? タイガさんが薦めるくらいだから、必須なんでしょうけど。次点は光魔と風魔だと思ってました」


「アキトさんも? 私、次点は集中か障壁だと思いました。アカギさん、次点になる理由があるんですよね?」


「お前らの言いたいこともわかるわ。その四つも捨てがたいんだよ。オレもかなり助けられたスキルだからな。でも……」


 続くタイガさんの意見は、たしかに探知と察知が次点になる理由に、納得出来るものだった。


 光魔、風魔、集中、障壁は、戦闘や身を守ることが、今よりも有利になる。

 探知と察知は、危険を回避することが出来る。


 戦闘を前提とするか、危険には近付かず回避するか。

 どんな危険があるかわからないから、危険を事前に知ったり回避出来る、探知と察知を勧める。


 話の途中で、私の中では結論は出ていた。

 ミライと二人で帰るなら、危険には近付かず、回避した方がいい。


「……ってことでな。今でもお前らは、最低限の自衛が出来ると思う。

 アキトがカノを抱えて、飛んでだ。

 でもな? 戦える力があると、何かあったときにが出来ちまう。逃げ一択、一秒を争うかもしれねぇ状況でだ」


 それは……ある。

 私が「強化」を使えるようになって、オオブタへの正面突撃をやったばかりだ。

 以前なら絶対にやらなかったはずだ。


 思い返せばミライも。

 以前は相手がゴブリンでも、決して正面には立たなかった。

 今は戦い慣れたこともあるが、私より大きいホブゴブリンに、正面から立ち向かう。


「帰りてぇ、強くなりてぇって焦るのは、こんな状況だからわかるさ。でも、戦う力だけ身に付いても逃げる力がなけりゃ、どっかで致命的なことになる。

 避けて逃げて、逃げ続けた先で強くなったって、遅くなんてねぇよ」

 

 私もミライも、帰りたい、強くなりたいという焦りが、確かにある。


 戦える力が増えた分、危険な選択が出来るようになった。

 この場合、出来るように、が正しいのかもしれない。


 説教臭くなっちまった、と頭を掻きながら話しを締めたタイガさんに、二人でしっかりと感謝を伝えた。


――――

tips 二足歩行の牛モドキ

 軽トラックほどのサイズで二足歩行する、牛のような見た目のモンスター。

 バランスの悪い見た目にそぐわず、俊敏に動く。

 両側頭部から伸びる角と、大きな蹄による攻撃はそのサイズも相まって脅威。

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