第29話 大鉈を引っこ抜く

「ブタ一、ホブ二、ゴブ四。俺がブタを抑えるよ。ミライは端からフォローお願い。気を付けてね」


「左のホブから行きますね。アキトさんもお気を付けて」


 全長が私の胸下まである大鉈に、祝福スキル「強化」をかけて肩に担ぐ。

 

 オオブタは巨体だからか、動き出しは遅い。

 でも、走り出して速度に乗ると厄介だから、初手で抑える必要がある。


 私の大鉈と同程度の長さを持つ、でかい金属バットのようなを、ミライも肩に担いでいる。


 二人でタイミングを合わせて、前傾でそれぞれの標的に突撃。

 

「しっ! うおっ! 一撃!? 強化すげぇ!」


 動き出すためなのか、前傾になって下がったオオブタの額に、全力で大鉈を叩き込む。

 頭部に大鉈の上から半分がめり込み、一撃で沈黙。


「っ! 次!」


「加勢する! っ!? ちっ!」


 ミライが大金棒を振り下ろして、ホブゴブリン一匹を速攻で撃破。


 私も加勢しようとしたが、オオブタの頭部にめり込んだ大鉈が引っかかり、初動が阻害される。

 そこにゴブリンが襲ってきたが、蹴り飛ばす。


「っ! 次! 次! 最後です!」


 私が大鉈を引っこ抜くと同時に、ミライがホブゴブリン二匹目も一撃で撃破。

 そのままの勢いで私が追いつく前に、モグラ叩きの様に残ったゴブリンを殲滅。……ミライ強すぎない?


「アキトさん、大丈夫ですか?」


「ありがとう。大丈夫だよ。ミライも怪我はない? 加勢に行けなくてごめん!」


「二人とも十分に強くなってるな。オレ込みなら、奥まで行っても問題ねぇと思うぞ」


 祝福の相談の翌日、洞窟での修行にタイガさんも同行している。

 

 ここまでに大小のゴブリンで「強化」を試して来たが、全て一撃だったことで強いのはわかっていた。

 しかし、一撃決着では、どの程度強化されているのかが掴めない。


 ミライの大金棒では、強化した全力でもオオブタを一撃で撃破出来なかった。

 大鉈の一撃で撃破できたのは、私も予想外で驚いた。武器の違いか、体格なんかも影響しているっぽい。

 大鉈が頭部に埋まったのは、想定外だったけど。


 今日から数日は、タイガさんが同行してくれる。

 彼に手伝ってもらい、いくつかやることがあるからだ。


 彼の使える祝福スキルの実演、私たちが奥に進めるかの確認、洞窟内の調査など私とミライでは出来ないことが多い。


 今は私たちが最初に出現した、洞窟の奥の地点まで向かっている。

 なにも異常を見つけられなかったらしいけど、私達なら何かが反応する可能性も捨てきれないとのことだ。


 テレポート的な何かがあるんじゃないか? と話し合ったこともあるけど、飛ばされる直前の記憶が私もミライも曖昧だ。


 衝撃で意識を失うならまだしも、二人同時に記憶の混濁なんて……移動しただけとは思えないんだよなぁ。


 命からがら脱出した洞窟内の経路を、今日は挑むように進んで行く。


 奥に進むと、二足歩行の牛モドキも出てくる。


 今回はミライと私が、修行も兼ねてオオブタと牛モドキに対応する。

 タイガさんは数の多い大小ゴブリンを引き受け、私たちのフォローに徹している。


 二足歩行の牛モドキは、そのまんま牛が直立したような、見た目はバランスの悪いモンスターだ。

 オオブタよりは小柄だが、それでも軽トラサイズあり、直立しているから全高が見上げるほどある。


「左右に分かれて、まずは両足を叩き折ろう」


「足破壊は遠征隊でも、ブタ相手にやってましたね」


「そうそれ。牛モドキなら二足歩行だ。俺とミライの二人でできるさ」


「今なら出来そうです。まずは全力で一撃入れてみましょう。アキトさん、無茶しないでくださいよ?」


「了解。ミライこそ暴れすぎないでよ」


 結果として作戦はハマり、負傷することなく牛モドキを倒すことは出来たが、楽勝! と言えるものではなかった。


 耐久力が高い。両足を折ることは出来たけど、倒し切るまでに五発以上必要だった。

 強化した武器と身体能力による攻撃で、五発だ。

 こいつ一匹だけならどうとでも出来る。でも、他のモンスターが一緒だと、かなりの長期戦になる。


 そしてこの洞窟は、進むほどに遭遇する数も増える。

 まだまだ私たち二人だけでは、時期尚早ってやつだな。



――――

tips 大鉈 大金棒

 アカギ・タイガが作成した武器。

 既に廃線となった、鉄道のレールを元に作られている。どちらも重いが頑丈。

 大鉈に切れ味は皆無。長方形の厚い鉄板に柄が付き、刃の部分が少し薄くなった程度。

 大金棒の形状は、大きな細い金属バット。中は空洞ではなく詰まっている。

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