第28話 なんか良いのないですか?

 ミライとキヌヨさんに、タイガさんと一緒に必死に謝って、なんとか許しをいただいた。


 仕切りを入れてはいるが、客間でミライと同室しているので改めて昼間のことを謝り、話し合いもした。


 あの場では勢いで呼び捨てにしてしまったけれど、「ミライ」と呼ばせて貰うことにもなった。


「ミライ、俺は焦って、視野も狭くなっていたんだと思う」


「ええ、私も焦りがありましたし、遠慮もありました。そんなこと、今は足かせにしかならないのに」


「だからってわけじゃないけどさ、ミライも俺やタイガさんに、遠慮しないで欲しいんだ。

 もちろん、俺もミライに遠慮しない。……いいかな?」


「ふふ。なんで最後に、そんな自信無さそうにするんですか。いいですよ。お互いに遠慮無しで!」


 このときのミライの自然な笑顔に、私はやられたんだと思う。



 それからさらに日が過ぎ、六月も半分が過ぎた頃。


 ミライと、男女のお付き合いをしている。

 交際に到ったドラマチックなことは、何もない。自然と距離が近付いていった結果だ。


「あれ? ねぇミライ。これって、もう付き合ってんのと変わらないんじゃ?」

と、彼女に言ってみたら、


「えぇぇ、今さらなにを……本気で言ってる……気が付いたなら、早く告白してくださいよ」

と、冷たい目で見られました。


 ま、まぁ、ここまで一緒に支え合ってきて、お互いに想い合っていて……精神的にも、助けられていたことは間違いない。

 自然に交際に発展していた。


 そして、新しい祝福スキルを得ることも出来た。


ーーーー


 始まりの祝福(身体強化 二、水火生成 二、小回復)


 祝福 格納 飛行 強化


ーーーー


 私たちのレベルは、共に三十を超えた。


 二十までは数日だったけど、三十までに一ヶ月近くかかった。上にいけばいくほど、上がりにくくなっているのかもしれない。


 私は新しく「強化」、ミライは「格納」、「微回復」が「小回復」に変化。


「アキトが格納、飛行、強化の順。カノが癒手、強化、格納の順で間違いねぇよな?」


 祝福を得たことでタイガさんに報告をすると、彼は少し考える素振りを見せた。


「間違いないですね」


「飛行、強化、格納は親しい仲間が持ってんだよな? 具体的に知っていて、次の祝福を得ることで願いが叶ったって可能性……あると思うか?」


 私も今回の祝福を得て、祝福にも傾向や条件があるのではないかと思い、今日相談する予定だったからちょうどいい。


「ありそうです。最初の祝福スキルの格納なんですが、俺、荷物が積める大きな車が好きなんですよ。あれから車も使えなくて、でも、持ち歩きたいものも多いって思ってました」


「なるほどなぁ。他に思い当たることはあるか?」


 合点がいったと頷き、続きを促される。飛行も強化も思い当たることがあった。


「飛行は弟やタイガさんが、空を飛んでるのがすごくうらやましくて。強化はミライの前で、戦いたい守りたいって強く思ってました」


「お、おう。急にのろけてくるようになったな、お前。

 カノは怪我が怖ぇから癒手、一緒に戦うために強化、アキトを見て格納、はありそうだな。直接聞いたわけじゃねぇから予想だが」


 若干呆れ気味なタイガさんの、ミライの祝福予想は大ハズレではないと思う。


「ミライに確認してみないとわかりませんけど、大きく外れていないと思います。

 欲しい祝福を願えば叶う、と思いますか?」


「なんとも言えねぇな。仮にだ。毎日一日中ずっっっと願って、レベルも億とか兆まで上がったとして、太陽ぶっ壊せる力が手に入ると思うか? 地球さんの力を超えるぞ、それ」


 極論ではあるが、タイガさんの仮説にも頷ける。

 地球さんの庇護下にいるのに、超えるなんて不可能っぽい。


「あー、無理ですね。想像すら出来ません。現実的に可能な範囲ってことですかね」


「ファンタジーの力に現実的ってのも違和感すげぇが、そんなもんじゃねぇかな。

 叶うとしても上限はあるだろうな。あと下手なこと願って叶ったら、反動がやばいかもしれねぇ」


 祝福自体の上限はあっても、種類や効果などの上限は考えたことがなかった。

 話す内にタイガさんが少し真剣味を帯びてきた。反動?


「反動ですか? 謎エネルギーの燃費みたいな?」


「ああ。例えばだ。『一撃でどこからでも、どんな格上の生物でも殺せる力が欲しい!』 って願いが叶ったとして、『消耗が激しくて死ぬ!』とか、『一年起き上がれない!』みてぇな反動あったら使う気にもなんねぇだろ?」


 格納も上限を超えると、一分もたたずに昏倒する。

 格納だって物理法則を捻じ曲げた異常さだ。それ以上ってなると、死んでもおかしくないな。


「うわぁ……絶対に嫌だ。地球さんなら実現できそうなのが余計怖いですよ。……タイガさんいろんな力がありましたよね? 次の参考にしたいんで、なんか良いのないですか?」


「また雑に頼りやがるな。強化と飛行以外だろ? おすすめはカノの癒手だ、癒手はオレも欲しい。他ってなると、探知。察知。隠密。集中。投擲。遠見。天脚。防壁。眼識。鑑定。加工。障壁。光魔。風魔……」


 激を受けたあの日から、私は遠慮しないで要望や相談をしている。生意気な後輩みたいなもんだろうか。


 なんやかんや言いつつ、可否や賛否をはっきり伝えてくれるから頼りにしてしまう。

 指折り祝福スキルを数えるタイガさんは……って、多い多い! どんだけだよ!


「多い多い! 多いですって! なんですか、その数! 多過ぎてわかりませんって! 十以上ありますよね? どうなってんですか」


「地球さんとは別口もあるからな。こっちに移る前に、地球さんに調整されてんのもあんだわ。バラされたり統合されたりな」


 なんでもないことのように言うけど、彼の十年戦った結果ってなると、大量の祝福にも納得がいく。


「祝福の上限下限で、分割統合されたんですかね。……みんなが木の棒で殴り合ってるところに、一人だけ銃持ってるバグキャラですよね」


「バグキャラってお前。そんで祝福どうすんだよ」


 本人は認めないだろうけど、絶対にバグキャラだよ。

 でも、多くの力を使えて実際に見せて貰えたら、次の祝福も狙い撃ちが出来るかもしれない。


「今度時間が出来たら、俺とミライに実演してもらえませんか?」


「明日オレも洞窟行くから、そんとき見せてやるよ。ついでにお前らが出現した地点も、三人で確認してみるか。オレが一人で確認してもなにもなかったからな」


「ありがとうございます!」


 以前の私たちでは、足手まといにしかならなかったけど、今なら無理なく同行出来るはずだ。

 改めて調べれば、なにかわかるかもしれない。



――――

tips アカギ・タイガのスキル(祝福)

 異世界転移する際に、初回特典のスキルを与えられ、現地でもスキルを多数獲得した。

 異世界から地球に帰還する際、地球の祝福の範囲から外れた物を分解再構築された。

 祝福スキルの数が多くなったのは、異世界の女神が与えた転移初回特典が主な原因。

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