第27話 そのへんでなんか拾えば
タイガさんとキヌヨさんの元でお世話になりながら、さらに日は過ぎ。
北海道生活にも慣れ始めた昼下りに、全員で畑を眺めている。
「野菜の育ちが良いと思ってたけど、これは予想以上だべ」
「キヌヨさんもそう思いますよね。新潟の拠点でも騒ぎになりました」
「タイガさん、やっぱり地球さんがなにかしてますよね。なにか言ってましたか?」
「オレが聞いたのは、帰還に関することだけだなぁ。地球さんは大地震があったことすら、教えてくれなかったんだぜ。
しっかし、畑から稲が生えてんのって……違和感がすっげぇなぁ」
私達の目の前に広がるのは、畑に青々と育つ若い稲。
稲は、発芽からある程度大きくなるまで、ハウスなどで雨風に晒さないよう、丁寧に育てる。
その後に整えた田んぼに植える、繊細な作物……のはずなんだけどなぁ。
色々すっ飛ばして、一ヶ月かからずに耕しただけの畑に青々と育っている。
水は毎日祝福の力も使って大量に与えていたし、雑草だって毎日抜いていた、新潟でも実験的にやってはいた。
それでも、ここまで育つなんて思わないって。
「タイガ、二人がここ出る前に米収穫できるんでねぇか? 今年もう一回収穫できそうでねぇか?」
「かぁちゃんもそう思うよな? ずっと気温も変わんねぇし、一年で三回くらい収穫出来そうで、頭がおかしくなりそうだよ」
そう話すアカギ親子に、ミライさんと私も首を縦に振って同意する。
もちろん作物ではない草花も、がっつり成長を続けている。
流石に樹木は、目に見える成長をしていないものの、枝葉を大きく拡げている。
飛行で少し高い位置から、北海道の大地に目を向けると、背の高い草花の絨毯が広がっている。
このまま植物全てが成長を続けたら、どうなるのだろうか……
「アキト、武器作ったんだが使ってみるか?」
「はい。……え、武器ですか?」
植物の成長速度に思いを馳せていて、生返事を返してしまった。
「持ってくっから、ちっと待ってろ」
タイガさん武器作ったって言った?
ミライさんと顔を見合わせて、廃材で良いものでもあったのかな? 作ったって言ってなかった?
なんて話しをしていると、タイガさんがでかい鉈を持ってきた。
「タイガさん、それって……」
「おう、これお前にやるよ。いつまでもボロい剣スコじゃ頼りねぇだろ」
私のいつも持っている、剣先スコップを指さして言う。
「いっぱいお世話になってるのに、武器もなんて貰えないですよ!」
助けてもらい、生活の面倒を見てもらい、修行を見てもらい、それに加えて武器もなんて貰えないよ。
「いいんだよ。元は廃線のレールとか廃材だからな。オレの武器作るついでだ、ついで。
あぁ……なぁ、アキト、お前カノだけに戦わせるつもりか?」
途中から言い難そうにしていたけど、今までにない厳しい眼が、私を射抜くように向けられている。
「そんなこと、は……」
思っても見なかったことを告げられ、反論しようとするけど、戦闘が彼女頼りになっているのも事実。
武器も剣スコでは、追い付かなくなっているもの事実で言葉が出ない。
「タイガ!」
反論できずに黙ってしまった私を見かけたのか、キヌヨさんがタイガさんを責めるような声をあげる。
「かぁちゃん。わりぃがちっと黙っててくれ。はっきりさせときてぇことが、出来ちまった。
アキト。お前、そのボロがダメになってもそのへんでなんか拾えばとか思ってねぇよな?
なぁ、アキト。良く考えろ。お前まさか自分たちは死なねぇ、なんて思ってねぇよな? その思い上がりが、お前とカノを殺すぞ」
「「っ!」」
私たちは無意識なのか、考えないようにしていたのか……
楽観していたことを気付かされて、息を飲む。
「カノもだ。お前らは恩だのなんだの、気にして遠慮すっけどよ。ボロで強くなれると思ってんのか? なぁ、お前ら本気で帰るつもりあんのか?」
「本気ですよ! 私もアキトさんも! なにも……なにも知らないで! アキトさんがどんな思いで!」
ミライさんが涙を浮かべて詰め寄るが、簡単にあしらわれる。
私は、なんて情けないんだろう。
指摘されて初めて気付く……死にはしない、なんとでもなると思っていなかったか? 指摘されて反論すらできずにいる。
鉈を渡す少しの会話から、いや、もしかしたらもっと前から、私の危機感の低さに気が付いていたのかもしれない。
「知らねぇよ。お前ら言わねぇし。可哀想な私たちの気持ちを察してください。とでも甘ったれたこと言うつもりか?
……なぁアキト、カノ。本気で帰りてぇ、本気で守りてぇって思ってんなら、周りなんか気にしてどうするよ」
タイガさんは真剣な眼で、厳しい眼で、優しい眼で、おれをまっすぐ射抜いてくる。
「タイガさん。おれは……」
「はっきりしろ! 声に出せ! アキト!」
突き出された大鉈の柄を握り込む。
「俺は! 帰りたい! ミライを守りたいです!」
受け取った大鉈の重さが伝わる。
「アキト、必死になれよ。オレは必死になれなかった。その結果が今だ。大事なもん無くした、オレみたいになるな。
使えるものなんでも使って、カノを守り通せよ。出来るだろ?」
重い鉈だ。
「はい! ミライは必ず守ります! だから、ミライの武器もお願いします!」
「その調子だ! 思ったことは、とりあえず言ってみろ。青森までは付き合ってやるからよ」
本当に重い鉈だ。
直後、キヌヨさんがタイガさんと俺の後頭部を思いっきり叩き、ミライさんを抱き寄せる。
「あんたら! カノさ放って守るだのなんだの! 勝手に盛り上がって納得してんじゃねぇべ!
……カノさ、おばちゃんとこさおいで。あぁあぁ、そったら泣いて可哀想になぁ。擦ったらだめだ。めんこい顔が台無しなる。……あとはおばちゃんに任せてな。
タイガ! なんだ! あん言い方は!
シキさ! 泣いてるカノさ放って! なにが! 守りたい! だべ! 目の前で泣いてたべ!? それを放って!」
般若が顕現した。
泣くミライさんと、ミライさんを抱き締め般若の形相で男二人を睨むキヌヨさんに、タイガさんと一緒に必死に謝った。
――――
tips 北海道弁
都市部では単語に方言が伺えるが、ほぼ標準語。
他の都府県と同様に、都市部を離れた地域で方言が使われ、道内でも地域によって若干異なる。
語尾に付ける、〜べ。〜さ。〜だべさ。が有名。
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