第26話 回復し続ける強キャラ

「足元が、お留守、だっ! ミライさん!」


 大きいゴブリン、ホブゴブリンの突進を避けると同時に、足元を蹴り払う。


「はい! っ! もう! 一発!」


 顔面から地面に突っ込んだホブの頭部に、ミライさんがメイスを振り下ろして撃破。


 そのまま彼女は、軽やかに身をひるがえす。

 勢いを殺さずもう一匹のホブの胸にメイスを叩き付けて、二匹目撃破。


 私がフォローに入る前に、一撃で沈めてしまった。……ミライさんが強すぎる。


「うおっ、ホブ一撃!? ミライさん! あとは任せて!」


 ホブと一緒に現れていた、小ゴブリン。

 そいつらの頭上を取るように跳び、頭部を蹴り飛ばす。

 以前のように、全力で武器を振り回さなくても、一撃で倒せる。


「はい! 周囲警戒します!」


 まぁ私が全力を出しても、ミライさんのようにホブを一撃は無理だけど……



 タイガさんの拠点周辺は、人口が極端に少ないからか、ゴブリンがたまに出る程度らしい。

 私たちは修行のために、あの洞窟まで毎日通っている。


 以前に自衛隊からの情報で、人口密集地にモンスターが集まると聞いたけれど、どれほどの数に襲われているんだろうか。



 洞窟での修行は、食料になるオオブタの肉の回収のためでもある。

 タイガさんも私達と初めて出会った時は、二足歩行の牛の肉を取るために、私たちが出現した場所まで来ていたらしい。


 奥に行けば行くほど、モンスターの種類も数も増える。

 修行中の今はあまり奥には行かず、大小のゴブリンと、たまに出るオオブタを相手に連戦している。


 この数日で、ミライさんも私も新しい祝福を得て、戦闘や移動が格段に楽になった。


 ミライさんは、私の母やヒムロさんと同じ「強化」。「癒手」で自己回復する、強化戦士になった。

 ゲームなら神官戦士モンク聖戦士パラディンのような、回復し続ける強キャラである。

 からめ手や、防御と回復効果をぶち抜く攻撃無しでは、絶対に勝てないタイプだ。


 私は弟と同じ「飛行」。「格納」と合わさり、優秀な運搬要員となった。

 毎日ミライさんを背負って、洞窟まで飛んでいる。……強くはなっているはずなんだ。

 彼女を見ていると、倍は強そうだけど。


 タイガさんは、私たちが二つ目の祝福を得ると、修行への同行をやめた。

 青森以降、彼は新潟まで同行出来ない。


 他の同行者がいなければ、新潟まではミライさんと私の二人で、行動しなければいけない。

 今から連携に慣れる練習も兼ねている。


ーーーー


 始まりの祝福(身体強化 二、水火生成 二、微回復)


 祝福 格納 飛行


ーーーー 


 水火生成が「二」となり、生成できる水の量が増え、火が強くなった。

 水と火が強化されても小ゴブリンすら必殺とはならず、戦闘では精々驚かせるのが関の山だけど。


 私達には視えない、タイガさんの「眼識」で視えるレベル。

 それが先日二十を超えた。

 どうやら、レベルが十の倍数になると新たな祝福を得て、始まりの祝福も強化されるらしい。

 

 ミライさんと私には経過が視えないけど、指標になるので、修行後に確認してもらっている。


 地元の新潟、遠征隊で戦闘の主力メンバーが、私たちより早く次の段階になっていなかったのが不思議だ……

 遠征隊で相手にしていたのは、ほとんど小ゴブリンでたまにオオブタ。

 大人数で少数のモンスターを、倒していたからかな?


 ミライさんと私は、二人で大小ゴブリン多数を相手にしたから早く上がったっぽい。

 今頃あっちも、戦闘の主要メンバーは新しい祝福を得ているだろうか。


 この数日の上昇ペースで、大災害から二ヶ月で百を超えるまでに至った、タイガさんのレベルがどう考えても異常だ。

 どうやったら、そこまで強くなれるのか聞いてみると、


「後で話すって言ったまま忘れてたな。オレさ、異世界に居たんだ。十年。地球さんが帰れるって言ってくれてな。でかい地震の直後に帰って来たんだわ。信じらんねぇだろ?」


 簡単に強くなる秘訣は教えられないだろうから、はぐらかされたのだと思った。

 でも、タイガさんは真剣で、少し悲しそうな顔をしている。

 キヌヨさんも、タイガさんが十年も音信不通だったことは、少し触れていた。

 かなり濁しながら話していたようにも今は思う。


「今後のお前らに役立つかもしれんが、面白い話じゃねぇぞ? 気分だって悪くなるはずだ。それでも聞くか?」


 半信半疑ではあったが、強くなることに焦っていた私は、今後に活かせるなら是非! と軽々しく頼んでしまった。


「長くなるし、酒でも飲みながら話すか。お前らも飲めるだろ」

 タイガさんは普段からは考えられない無表情で、異世界のことを酒を舐めるように飲みながら、担々と話してくれた。


 それは仲間や恩人を皆殺しにされ、九年を孤独と戦った話だ。


 たぶん私達を気遣って、重い部分や暗い部分は濁していたと思う。

 失敗談も普段より飄々ひょうひょうとした態度で話していたけど、傷付いた心を隠すようで悲しかった。


 知らなかったとはいえ、軽々しく頼んでいい話じゃなかった。

 恩人のタイガさんの傷を抉ってしまい、謝る私達にタイガさんは、


「泣くなよ! あいつもかぁちゃんもお前らも、この話すっとみんな泣くから困るんだよ。でも、オレのために泣いてくれんのはいいやつだ。いいやつは助けたいじゃねぇか」


 本当にいい人だ。

 いい人で強い力を持った普通の人だから、常識が全く違う世界で、想像も出来ない苦労をしたんだと思う。


「かぁちゃんと一緒に、避難所とか自衛隊に行ってさ。御大層なオレの力で大勢助けられるかもしれねぇって、わかってんだ。

 でもなぁ、一人二人を相手にするのはいいんだが、集団にすっげぇ苦手意識が出来ちまって、ずっとここから動けねぇ……

 お前らに偉そうなこと言ってるが、オレは大勢殺した人殺しで、臆病で、情けねぇ男なんだ」


 歪んだ笑みで独白するタイガさんに、私はなにも言えなかった。

 人生経験の豊富な人や、カウンセリングを学んだ人なら、彼の心を癒せるようなことを言えたのだろうか。


 それでも、タイガさんが自分を卑下するのは悔しかった。

 ミライさんと私の二人で、彼をガッチリと捕まえ、如何にアカギ・タイガが素晴らしいかを泣きながら伝える。


 タイガさんは、顔を真っ赤にして、

「泣くなよ! やめろ! お前ら酔いすぎだ!」

とは言うけど、強大な力で私たちが怪我をしないように、強引に振り払ったりはしない。

 彼は、やっぱりいい人だ。


 そんな私達を見て、涙を流しながら笑うキヌヨさんが印象的だった。


――――

tips 酒類

 大災害により大手酒造メーカーから個人の酒蔵まで大打撃を受けた為、世界的に酒造は停止。現存する酒類はとても貴重。

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