第25話 なんでもできるなこの人

「アキトが十六、カノが十八。格納に癒手かぁ。そのふたつ、オレも欲しいわ」


「あれ? アカギさん、アキトさんより私の方が高いんですか?」


「たぶん遠征隊で隊長になって、戦闘に直接関わることが少なかったからかも。格納持ちが参加する前に戦闘は終わっちゃうし……

 ちなみに、タイガさんのって聞いても大丈夫ですか?」


「うへっ、隊長やってたんか。隊長とか絶対やりたくねぇわ。オレか? 二人をもらったし、隠すようなもんでもねぇから教えるのは構わねぇよ。

 オレは百を超えてる。アキトたちが言う祝福も十以上あるぞ。オレにはスキルって視えるな」


「「…………」」



 タイガさんは大災害の日から母親のアカギ・キヌヨさんと二人、倒壊した実家を改造した拠点で生活していた。


 大災害当日、タイガさんが実家に戻ったときには、母のキヌヨさん一人が実家で生き残っていた。

 仕事で北海道の外に出ていた家族もいるが、連絡の取りようがない。


 タイガさんとキヌヨさんは何でもないことのように話してくれたが、今日までの約二ヶ月は相当なご苦労があったはずだ。

 それなのに二人は、盛大な迷子になった私たちを快く受け入れ、心配して色々とお世話までしてくれる。


 直近の遠征で格納していた、大量の米の種もみを、家賃代わりに全て渡した。


 謎のボーナスタイムで、今は地面に植えただけでも普通に稲が育つことを伝える。

 タイガさんとキヌヨさんはとても喜んでくれたけど、到底二人の恩に報いられたとは思えない。


 そして現在。

 タイガさんに私たちをもらっている。

 タイガさんは「眼識」という力を持ち、人を含む動物とモンスターの身体能力や、祝福を測ることができるらしい。……なんでもできるなこの人。


 倒したモンスターの謎エネルギーを取り込み、倒した数や質で段階的に強くなったり、祝福を得るらしい。


「ゲームの経験値とかレベルそのものだよな。ま、こんな世の中じゃありがたいことだ。有効活用しようぜ!」

とタイガさんは言うが、環境の激変に適応しすぎて、めちゃくちゃな人だと思う。


 現在の「レベル」とか「位階」とか、タイガさんが私たちに内包される力は、私が十六、ミライさんが十八、キヌヨさんが二十、タイガさんが百超え。

 百超えってなに。十以上の祝福ってどうなってんの。……タイガさんについては、もうなにも言うまい。


「まぁ、びっくりするよな」


「タイガさんと初めて会ったときから、ずっっっとびっくりしっぱなしですよ。なんですか百って。祝福十以上って。意味わかんないですよ」


「私も強すぎるってずっと思ってましたけど、アカギさん。新潟に帰れないって、強さが足りないってことですか?」


「まぁオレも色々あってなぁ。気になるなら話すが、今はお前らのことだ。カノの言うとおり、アキトとカノが……」


 拠点のある現在地は、北海道の中央あたりの山の麓らしい。


 現在地から新潟までミライさんと私の二人で移動するなら、一人五十以上のレベルがほしいが、旅をする適正値がわからない。

 私たちが迷い込んだ洞窟に籠もったとしても、五十までどれほどの時間が必要かはタイガさんもわからない。一ヶ月程度かもしれない、年単位かもしれない。


 タイガさんは大災害直後から、倒壊した実家を元にして拠点の強化を続けていたため、行動範囲は限定的。

 他の地域では、どんなモンスターが出るか不明。


 また、北海道から青森まで海峡を越える必要があり、海を渡る方法が必須。


「……ってわけだ。それでも、死ぬ覚悟で新潟へすぐに向かうって二人が言うなら、オレはアキトとカノを止めたくねぇ。家族や仲間を想う気持ちは痛いほどわかるからな。

……だが、オレはかぁちゃんもいるし約束もあるから、お前らに協力できねぇんだ。すまん」


「タイガさん頭を上げてください! あなたが謝ることなんて、なにもないじゃないですか!」


「そうですよアカギさん! 私たちがアカギさんに御恩を返さないといけないのに、これ以上のご迷惑なんて!」


 心底申し訳無さそうに頭を下げるタイガさんを、ミライさんと二人がかりで慌てて止める。

 まだ恩だって全然返せていないから、謝るのは私たちなのに、人が良すぎて騙されたりしないか心配になる。


「お前らいいやつだな。……なぁ、今年の八月が終わるまで待てるか? 九月に約束があって青森に行くんだ。そのときなら、オレも一緒に行ける。かぁちゃんもそれは知ってるしな」


 私たちをいいやつって、その代表みたいなタイガさんが言いますか。


「八月末までですか? ……アキトさん。私はアカギさんを待ちたいと思います。でも、あちらに家族のいるアキトさんが行くなら、私も一緒に」


 覚悟を決めた表情で、その先を続けようとするミライさんを遮る。

 ミライさんのような優しい子に、そんな決意をさせてしまう自分が、ひどく情けない。


「ミライさん。言い辛いだろうに言ってくれて、ありがとうね。

 みんなは大丈夫だと信じているんだ。家族も遠征隊も全員おれより強いから。むしろ心配される側だよ。

 ……タイガさん。ご厚意に甘えさせてください。よろしくお願いします!」


「アキトさん……アカギさん。よろしくお願いします!」


「アキトもカノもいいんだな? ……わかった。三ヶ月はお前らを鍛えるか。もちろん家のこともやってもらうからな」


「「はい!」」


 タイガさんと青森まで一緒に行くことが出来て、それまでに鍛えてもらえるなら心強い。



――――

tips アカギ・タイガの拠点

 北海道の中央付近の山の麓にある一軒家。

 周辺にはゴブリンしか出現しないため、家も防壁もすでに過剰な防御力を持っているが、日々さらに増強されている。

 状況が過去のトラウマを刺激するため、アカギ・タイガはまだ満足していない。

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