第23話 新潟に北海道なんて地域

本日4話更新予定です。3話目。

――――



「ここは……トウジたちは?」


「お兄さん……遠征隊のみんな……」


 スズキさんの先導で洞窟を脱出すると、全く知らない風景が広がっていた。


 遠征隊が一人もいない。

 近くにあった、崩れた倉庫もない。


 あの洞窟はいくつも出入り口があった?

 それでも、全く知らない場所に出るなんてどうなってんだ。


 洞窟内を二時間移動したけど、何度も曲がっていた。

 直線距離ならさほど移動していないはずなのに、全く見覚えのない場所に出るなんてあり得るか?


「……なぁ、サトウ、タナカ、お前ら大丈夫か? 見た感じ、仲間もいないようだが……」


「あ、スズキさん。すみません。外に案内までしてもらったのに……遅くなりましたが、洞窟内でも寝ている私を守っていただいて、申し訳ありませんでした。ありがとうございました!

 仲間というか……重ねてお聞きしたいのですが、ここはどこですか? 私には見覚えのない場所で……タナカさんは?」


「……はい。私も全く見覚えがなくて……

 スズキさん、助けていただき、ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 カノさんと一緒に頭を下げて感謝を伝えると、スズキさんは慌てたけど、特に周囲の光景は気にしていないようだ。

 彼がこの場所を知っているなら、どうにかなるはずだ。


「あぁいや、中でも感謝されてるから気にすんなよ、って頭上げろ! 頭まで下げなくていいって。んで、この辺に見覚えがねぇの? マジで?」


「「はい」」


「二人ともどこから来たんだ? 避難所?」


「私たちは、〇〇小学校跡の避難所から」


「〇〇小学校? この辺で聞いたことねぇな。ウソでもなさそう、だよなぁ。この状況で、そんなしょうもないウソに意味ねぇはずだし。他に……」


 その後も微妙になにかがズレた会話を三人でしていると、顔色を悪くしたカノさんがスズキさんに問いかける。


「あ、あの! ここって新潟、ですよね?」


「は? だよ。タナカ大丈夫か? 顔色悪いぞ。体調悪くなったか?」


「新潟に北海道なんて地域あっ……たっ?」


「サトウまでなに言ってんだよ。北海道は北海道だろうが、〇〇市の郊外の洞窟ってどうした? タナカ大丈夫か? サトウ? 二人してどうした。え、お前ら新潟から来たの? どうやって……おい? おい! 気をしっかり保て! 呼吸を深くしろ!」


 新潟から北海道まで…来たようだ。


 わけわかんないって。フラついて寄り掛かり涙を流すカノさんを、なんとか抱き止めたが私もダメそうだ。呼吸が苦しい。


 スズキさんが声をかけてくれるけど、二人で抱き合ったまま座り込んで、帰還が困難な状況に涙を流すことしかできない。


 なにがどうなったら、北海道まで来るんだよ。

 洞窟の中が繋がってる? ワープ? 格納みたいな現象? 日付は? 遠征隊のみんなは? どうやって帰る? 洞窟の他の出入り口は? …………



「落ち着いたか? いや、すまん。落ち着けるわけねぇよな」


「いえ、すみませんスズキさん。取り乱してしまって」


「謝ることじゃねぇよ。タナカは、息はしてるな。気絶か? そのままにしといてやれ。で、サトウ。帰る方法はあるのか?」


「わかり、ません。……あの洞窟を探ればわかるかもしれませんが、私もこの子もそういった特殊なことはなにも……」


 抱き締めたままのカノさんの体温が、私の頭と心をなんとか繋ぎ止めている気がする。

 スズキさんの力強い眼差しも、私に力をくれているような気がする。


 考えろ。頭を動かせ。


「だよなぁ。なぁサトウ。行くあてがなかったら、一時的にでもオレの拠点に来るか?」


「それは……とても助かりますが、いいんですか?」


「魔物が普通に出るし、弱ったお前ら置いてったら、オレの寝覚めが悪すぎるからな! いいから来いって、別に変なことは要求しねぇから……いや、この言い方じゃ変なことするみてぇだな? どう言やいいんだ?」


 スズキさんは不器用だけど、とても優しい人だ、と思う。

 本性を隠しているのかもしれないが、信じても……いや、私が信じたいのかもしれない。


 カノさんと私の二人だけで放り出されたら、新潟に帰るどころか生存すら危うい。


 スズキさんには出会ってからここまで、ずっと頼りっぱなしで、これからも彼の優しさに縋ろうとしている。


 だめだ。混乱しているって自分でもわかるのに、落ち着かない。思考がとっ散らかっている。

 頼るなら、縋るなら、せめて誠意だけでも示さないと。


「スズキさん。私はシキ。シキ・アキトです。サトウは偽名です。申し訳ありませんでした。偽名まで使っていたのに、厚かましいと自分でも思います。

 私とこの子を、助けていただけないでしょうか。お願いします!」


「おう! いいぜ! 来い来い。 頭上げてくれ。つっても、そんな良い拠点でもねぇけどな。アキトでいいか? お前硬すぎだ。もっと力抜かねぇと、すぐに潰れるぞ? その嬢ちゃん、守らねぇといけないんだろ?」


「はいっありがとうっございます! 守りたいっです!」


「泣くなって! 頭も下げなくていいから! 硬いんだって! オレはアカギだ。アカギ・タイガ。アカギでもタイガでも好きに呼んでくれ。スズキは偽名。

 あんな変な状態で会ったんだから、お互い警戒すんのは当たり前だ。アキトは嬢ちゃんを守りたかったんだろ? お前は間違ってねぇよ。って、だから泣くなよ! 頭も下げんなって!」


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