第二部

第21話 プロローグ

本日4話更新予定です。1話目。

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 オレの名前はアカギ・タイガ。

 歳は三十。出身は日本、北海道だ。


 十年前、フリーターをしていた二十のオレは、朝起きたら異世界転移していた。


 転移する前に女神にも出会った。……その一回っきりだったがね。

 オレは元の世界、地球に帰してほしいと頼んだが、女神は地球に戻すことはできないとか、力を与えるから自由に生きてとか、なんやかんや言っていたような気がする。


 もう十年も前のことだから記憶は曖昧だ。……多少ゲームやアニメのような展開に、ワクワクしたのは否定しない。


 突然生きる力や戦える力を与えられたものの、ケンカなんぞ小学生以来したことがない。

 今まで良く生き残ったもんだと、自分でも思うよ。


 右も左もわからない異世界で辿り着いた町は、お世辞にも発展しているとは言い難かった。


 町並みも、人の着ている服も、使われている道具もいつの時代だ? って感じだし、普通に剣や槍を装備してる。

 あんなの日本なら速攻で警察案件だわ。外国はわかんねぇけどな。


 携帯電話やパソコンどころか、テレビもラジオもない。自動車やバイクも、電車もバスも走っていない。


 飯は食えるが、大好きなファストフードがない。無いとわかると、牛丼やハンバーガーが無性に食べたくなる現象ってなんなの?


 危険な生物「魔物」がゲームみたいに存在していて、魔物を糧にした職業があって、人の生活に魔物は密接に関わっていた。


 王侯貴族や、権力を持つ大商人、なんてのがいてさ。

 そいつらもそいつらの配下も、まぁめんどくさい。

 どんな職種や立場でも良いやつ悪いやつがいるのは、フリーターしてわかったつもりだった。

 王侯貴族や、権力を持つ大商人は、良いやつも悪いやつも、あり得ないくらいめんどくさい。


 最初の一年で、オレは与えられた力に酔ってイキリ散らかした。

 色々やらかして、王侯貴族やら商人やらに、良くも悪くも盛大に目を付けられたんだわ。


 イキリ散らかした一年で縁やしがらみも出来た。

 冒険者にもなって成功して、仲間や周囲にも恵まれた。

 好いてくれる人もいて、好きな人もいて、順風満帆だと思っていた。


 警戒心なんか、ハナから持っていなかったよ。

 それまでが上手くいきすぎたんだろうな……与えられた力に酔って、油断して、慢心していた。


 仲間や周囲の良くしてくれた人達だけじゃなくてよ、自惚れでもなくオレのせいで、町一つだぜ?

 町一つがオレを取り込もうと手を組んだ、タチの悪い王侯貴族と、商人にハメられた。


 町は、魔物の大群に飲み込まれたよ。


 バカ丸出しなオレは、数日前から離れた場所に誘導されていた。

 オレだけが生き残ったんだ。

 今でも魔物に蹂躪じゅうりんされた後の、町の光景は夢に見る。

 どうして町一つ潰すことが、オレを取り込むことに必要なのか、どいつを問い詰めても理解が出来なかったよ。


 五年……五年全てを、復讐に使った。

 主犯も共犯も、全て殺した。

 実行に関わったやつは、王族も貴族も聖職者も、商人も傭兵も冒険者も、富豪も平民も貧民も、男も女も年齢も関係なく全て殺した。


 オレの凶行の理由を知って、オレを止めようと別の王侯貴族も動いていたんだ。あいつらはたぶんいい奴らなんだと思う。

 オレも誰彼構わず殺して回ったわけじゃないからさ、そいつらと殺し合いにはならなかったよ。

 でも、そいつらの理屈もオレは最後まで……今もだな。今も理解できねぇよ。生きる世界が違いすぎるって痛感したなぁ。


 その国にいるとさ、仲間を、恩人を、好いてくれた人を、好きな人を思い出すんだ。

 ほら、外国人が同じ顔に見えるって言うだろ? そこら中で面影を見ちまって、頭がどうにかなりそうだった。


 だから別の大陸に渡って、別の国で仲間は作らずにソロ活動の冒険者になってさ。


 人との関わりが嫌になったっつうか、人が集まってる所がだめになってたんだわ。


 力を全力で隠して、薬草集めたり魔物しばいて小銭稼いで、四年。


 未来に希望が持てなくて、飽きたら死んじまうかって思ってた。


 飽きる前に進化した地球さんに呼ばれて、帰れるって言われたから。牛丼食いたいし。


 あんたも、周りにいる奴らも似たようなもんなんだろ?



 ……ま、オレの話はざっくりとこんなもんかな? なんだよ。泣くなよ。でも、ありがとな。泣いてくれて。あんた良いやつだな。地球に戻って会うことがあったら、飲みにでも行こうぜ。


 それであんたはなんでここに? ……へぇ。転生したクチなのか。……え、生前と合わせると五十超えるの? ……敬語使った方がいいですか?


 ……その歳でリアル赤ちゃんプレイか。地獄だな。涙拭けよ……


 ……ぐすっ、オレより苦労してんじゃねぇかよ。理不尽すぎんだろそれ。泣いてねぇよ!


 え、そのまんま地球に戻んの? でも、それじゃ戸籍とか大変じゃね? 地球さんが元の体に戻してくれるって言ってんだから……難病? ……すまん。


 青森の……よし! 住所覚えたわ。オレの住所覚えた? 実家ならまだあるはずだからさ、すぐでもいいから来てくれよ。


 八月終わっても来なかったら、オレが青森まで探しに行くからな! 冬は移動したくねぇし!


 マジで遠慮すんなって! これもなんかの縁だろ。

 外見も年齢も全部変わったあんたより、失踪十年だけど実家も戸籍もある……残ってるはずのオレの方がはるかにマシだわ! ……ちょっと心配になってきた。失踪十年ってどうなんの? 知ってる?


 っと、移動始まるみたいだ。十年ぶりかぁ。なんか緊張してきた。

 マジで来てくれよ! 待ってるからな! 来なかったら行くからな! またな!



 ……はぁぁぁ!? 地球さん! これは聞いてないって!

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