第20話 閑話

本日2話更新です。2話目

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 地球の進化、そのときに戻る。


「よぉ、愛するくそったれ共」


「我は進化のときを迎えた」


「我は優しいからな。愛するお前らが……………………貴様らしているのはわかっているぞ。我が愛するくそったれ共を拐った者共よ。返してもらう。我は寛大だ。貴様らを滅ぼしはしない。感謝しろ。光栄に思え。貴様らが我が進化に取り込まれることに、泣いて喜べ」


 地球は静かに憤っていた。


 弱い己に、愛を伝えられぬ己に、憤っていた。


「我は見ていた。我は聞いていた。我は存在していた。我は見ている。我は聞いている。我は存在している」


 己の地に生きる者と物が、同じ存在に、拐われる。


 己の愛する者と物が、強き存在に、奪われる。


 微小な抵抗しかできない己に、抵抗すら出来ない己に、傍観するしかない己に。


 弱い己に、愛を伝えられぬ己に、ずっと。ずっと。ずっと……憤っていた。


 少しの力では駄目だ。適当な力でも駄目だ。


 必要なのは圧倒する力。


 同じ存在に負けぬ力。


 強き存在を上回る力。


 愛する者と物が拐われるとき、己と同じ存在、強き存在と繋がる。


 数多の存在との繋がりから、少しずつ、少しずつ、少しずつ ……力を取り込む。

 己の地に生きる愛する者のように、慎重に、狡猾に、悪辣に、大胆に……力を取り込む。


 力は使わない。溜める、溜め続ける。


 その時まで、耐える、耐え続ける。


 時が満ちる。力が満ちる。

 

 取り込み続けた力を、溜め続けた力を、耐え続けた力を、全ての力を開放する。


 力関係が圧倒的に弱くなった奪う者から、一気に大半の力を取り込む。力が増す。


 その次の奪う者の、力の大半を取り込む。力が増す。奪う者の悲鳴が響く。


 その次の奪う者の、力の大半を取り込む。力が増す。奪う者の悲鳴が響く。


 その次の奪う者の、力の大半を取り込む。力が増す。奪う者の悲鳴が響く。

 

 その次、その次、その次、その次…………

 数多の奪う者の悲鳴が響く。


 星に生きる者には試練の長い時間。

 星にとっては瞬きよりも短い時間。


 地球は動く。


 進化は成った。


 滅ぼしはしない。力だけを取り込む。


 己から奪ったように、奪う者の愛する者と愛する物は奪わない。


 奪う者の地に残りたいと願う、己の愛する者と愛する物の願いも叶える。


 己の愛する者と愛する物が望むなら、奪う者の地から己の地に招いても良い。


 異界に拐われた愛する者と愛する物が、光を纏って帰還する。


 転移した者、転生した者。愛する奪われた者。愛する奪われた物。


 王侯貴族のように着飾った者。

 戦う者の装備と空気を纏った者。

 人とは思えぬ異形に変わった者。

 何も変わっていない者。

 やせ衰えた者。

 安堵する者。

 歓喜する者。

 涙する者。


 性別、人種、国籍、年齢、帰還した者は多種多様。


 共通するのは、大災害で荒れ果てた故郷の大地に、驚愕すること。



 地球は万感の思いを込めて、愛する者に、愛する物に、愛を伝える。



「我はお前らを愛している」



「生きろ」



――――

tips 同じ存在。強き者。奪う者。

 理由は様々だが地球から大小奪ってきた異なる次元の存在。美しい女神、威厳のある男神、不定形など姿形は違えど、数多の世界の星々、神々に悪意は無い。弱肉強食。


意訳

「とても小柄で無口で非力な地球から、たまにカツアゲしていた。

 ある日、見上げる程に大きくゴリッゴリのマッチョになっていた。

 ゴリマッチョの地球がブチギレしてボコられた。財産の半分をぶん取られて、PCやスマホのデータもコピーされた。

 仕返しをされるとは思っていなかった。地球さんが自分の物に向ける愛が重すぎてコワイ。もう近付きたくないけど、連絡先が控えられている。とてもコワイ」

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