第17話 三十人の烏合の衆、素人集団

本日4話更新予定です。3話目。

――――



 道中、こちら側の見回り組の範囲内を、慣れた人を先頭に駆け足で進む。

 範囲外に出てからは、進行速度を落としてカントリーエレベーターに向かっている。


 ホント環境が変わりすぎてびっくりだわ。


「こっち側って田んぼがずっと広がってたのに、所々ところどころ林になってんじゃん」

「シキんとこは、こっちとは反対方向の見回りだったな」

「初めて見ると環境の変化にびびるよね」

「僕らの方も大体こんな感じですよ」

「この先、道路はボコボコだけど道なりで行けそうだよー!」

「あいよー! そのまま偵察と誘導よろしくー!」

「ゴブ出たぞー!」

「またかよ! 出すぎぃ!」

「先手必勝! いただき! うぇぇぇい!」

「おー! アカリちゃんカッケーな! ナイスバール!」

「「「ナイスバール!」」」

「はりきって切り落とさないでよ? 残ったら気持ち悪いんだから!」

「飛んでる人ー! なんとかなんとかってまだ遠いのぉ?」

「一文字も覚えてないのかよ! カントリーエレベーターまであと三十分くらい! ……飛んでるとずっと見えてんだけどな」

「完全に崩れてるよなぁ。中身は無事かねぇ


 総勢三十人の烏合の衆、素人集団だ。

 探索のセオリーなんて私を含めて誰も知らないし、とりあえず声でも出しとくか? 的なノリで騒ぎながら進んでいる。

 普段の見回りもこんな感じだ。


 詳しい人が教導してたら殴られそうだけど、本職でもないし、隠れて移動しているわけでもないからね。


 三十人全員が新たな祝福を得ているから、一人一人の戦闘力が高い。

 ゴブ・即・滅。……ナイスバールって共通の掛け声なの?


 なんか子供の頃の遠足みたいで、楽しくなってきた。

 空を飛べるっていいよなぁ……そのへんの雑草まで発育が良くなっているのか、四月初旬なのに変に道を外れると、伸びた草に足を取られそうだわ。


「警戒! 警戒! 初見モンスター! 瓦礫の裏!」


 第一目標の崩れたカントリーエレベーターが目の前に迫ったところで、偵察班から未発見の生命体発見と警戒指示が出る。


 大声に反応したのか、瓦礫の山から巨体がのっそり動き出した。


 でっかいなぁ! 私のワンボックスの車くらいあるんじゃないか? ……でも、なんか割といけそうじゃない?


「どこどこ? ゴブじゃないの?」

「でっかいブタみたいなやつ! 普通車よりでかい! みんな気を付けろー!」

「すまーん! 完全に見落とした! あんなでかいの想像してなかった! マジでごめん!」

「誰もあんなん想定してないから、気にすんな!」

「全員広がれー! 散開! 散開!」

「なんだあれ! でっけー!」

「私あれ無理! ツルツルしてキモイ!」

「でかいけど、なんかいけそうじゃね?」

「やっぱり? 僕もいけると思うんだよね。やってみる?」

「やるか! 肉食えるかもしれないし!」

「「「肉!」」」

「肉に空から、ひと当てしてみるわ! 行くぜっ! ライダーキィィィック!」

「無理すんなよ! バイクも仮面もねぇからただの飛び蹴りだ! かっこいいけど!」

「囲め囲め! 護衛班! 足狙え足! 叩き折れ! 走りだしたら絶対めんどくせぇぞ!」

「経験値的なのもらえるかもしれん! 全員全力で一発は殴っとけ!」

「一回殴ったら、すぐ離れろよ! 巻き込まれるぞー!」

「トドメは早いもん勝ちな!」

「うぇぇぇい!」

「おれも! おれも殴りたい!」


 ワンボックス車並の巨体を持つイノシシやブタに似た、体表がツルッとした四足の謎生物が初登場した。


 ……初登場したんだけど、空からの奇襲で新モンスターが飛行部隊に気を取られている。

 その間に、動物タンパクに飢えた獣達に囲まれて、速攻で四足を叩き折られた。


 巨体なもんだから一度に殴りかかれる面積も多くて、動けなくなった巨体を、全員が入れ代わり立ち代わりで数の暴力にさらす。


 誰がトドメかもわからないまま戦闘……狩りが終わった。


「触ってたら消えないんだったよな?」

「手触り良いのが、なんかむかつくわね」

「うぶ毛すら生えてねぇな。どおりでツルツルしてると思った」

「誰か刃物持って無い?」

「包丁あるけど、首落とせるかこれ?」

「首太すぎで笑うわこんなん」

「皮硬すぎ! 包丁折れそう!」

「うちに任せて! アキっち剣スコ貸してー! そぉい!」

「すげぇ! 剣スコ刺さったぞ!」

「ヒムロは強化だっけ? おれもやってみる。おぉ? 強化で包丁刺さるぞ!」

「強化持ちがんばえー」

「血が出ないのめっちゃ違和感あるけど、汚れないからありがたいね」

「首落ちたぞ! ……マジで頭だけ消えた!」

「胴体は消えないのな……で、どうすんのこれ?」

「「「あっ」」」

「一回戻るしかないわね。お肉食べたいし」

「今さらなんだけどさ……これ食えんの?」

「とりあえず一回持って帰ろうぜ」

「私たちの格納こんな重いの入らないわよ!」

「強化持ちがバラしてる間に、カントリーエレベーター見てくるわ。おーい! カントリーエレベーター探索するぞー!」

「どうやってバラそっか? とりあえず足落として、ざっくりぶつ切りにしてみようか」

「あれ? 内臓がない! どうなってんだよ。中身全部骨と肉詰まってるぞ」

「口はあったわよね? ここが喉で……これは胃袋? ……胃袋の先がないわ!」

「ケツの穴もないぞ!」


 うん、みんな頼もしいんだけど、形だけでも全体の隊長と副隊長くらいは立てるべきだったかも。


 帰ったら提案してみようかな。



――――

tips 剣スコ・剣先スコップ

 先端の尖ったスコップまたはショベル、シャベル。硬い土、地面を掘るのに適している。武器として使われているのは、総金属製。

 地域によって剣先スコップ、剣先ショベル、剣先シャベルと呼称が変わる。アキトの地域では大きな物はスコップ、園芸で使う片手サイズの物はショベルと呼称。

 

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