第16話 今さら世間体とか
本日4話更新予定です。2話目。
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「シロウさん、まさか皆さんの食料が……もう?」
「いや、余るほどとは言えないけど食料は豊富にあるんだ。でも、半年後やその先を考えると、今から着手しないといけないってなってね。私も賛成しているよ」
「それは……たしかにそうですね。芽だしから始めるなら、どうしても時間はかかりますから。
今後の気候が今までと同じとは、楽観しない方がいいでしょうし……頭が痛くなります」
「植えてポンって、野菜が出来ればいいのにね」
「ハル、それは流石に……あれ? 祝福ならあり得そうじゃね?」
「まだ見つかっていないだけで、あり得そうなのがなぁ。それで父さん、日程とか詳しいことは決まったの?」
「日程はまだだよ。避難所や各見回り組の、拠点防衛を考えるとね。全体の半数以上、祝福を使える人が増えたら行くことになると思う。自衛隊の偵察班の真似をしようか、って案は出ているけどね」
「シロウおじさん。自衛隊のマネ、ですか?」
「うん。トウジのように飛べる人で偵察隊、重量や容量を無視して荷物を運べるアキトのような人を本隊、その護衛隊。
総員は最低でも二十人、出来れば三十人以上で遠征隊を作れないかって」
「あまり少ない人数では危険かもしれない、ということですね。シロウさん」
「うちら見回り組からは一人から三人出して、残りを防衛組から? ミラぴ、どうかな?」
「たぶんそうなると思いますよ、アカリ先輩。あまり人を出しすぎても、避難所も各拠点も手薄になってしまうのは怖いですから」
「ってことは、うちはおれと兄ちゃんは参加だな。父ちゃんにはここを守ってもらいたいよな? 兄ちゃん」
「そうだな。父さん、祝福的にも遠征にはおれとトウジで行くよ。新しい祝福を母さんたち四人が獲得したら、誰か一人一緒に行ってほしいけど、ここって七人いるし」
「アキト、トウジ頼むね。私の祝福はどうにも燃費が悪くて、足手まといになりそうでね……今さら世間体とかは気にしなくていいと思うけど、戦力的にも安全を優先するなら多い方がいいね。
いいかな? ナツコ、ハルカ、カノさん、ヒムロさん」
女性陣が即了承したことで、四人の祝福獲得が急がれることになり、男性陣は手出し無用を言い渡された。
そして数日後。
母、ヒムロさん、妹、カノさんの順に新たな祝福を得た女性陣は、さらに強力になった。
全員で行きたいところだったが、自宅拠点を無人にするわけにもいかない。
予定通り私を含む三人が、遠征隊に参加が決定した。
「アキト、トウジ、ヒムロさん。三人とも無理はしないで、無事に帰って来るんだよ」
「他の人がどうなろうと、あなた方が無事であればそれでいいです。手遅れになる前に逃げなさい」
「あたしも行きたかったなぁ。アカリちゃん、お兄ちゃんたちをよろしくね!」
「私たちの祝福も遠征向きだけど、じゃんけんに負けちゃったからね、ハルカちゃん。皆さん、お気を付けて!」
「「「いってきます!」」」
遠征当日の朝。
弟とヒムロさんと私の三人が送り出されて、避難所に向かう。
「皆さん、今回の遠征にご協力いただきありがとうございます。成果がなくても構いませんので、全員無事に戻ってくださいね。では、改めて予定の最終確認をしましょう。まず……」
見回り組からは私たちを含む十人。
防衛組からは二十人。
総勢三十人の遠征隊は、ここから一番近くにある、農協のカントリーエレベーターを第一目標として目指す。
可能であれば、さらに先の農協の低温倉庫が第二目標。
本来道路状況が良ければ信号もない農道なので、カントリーエレベーターまでは車で十分。低温倉庫までは二十分で到着できる。
しかし、災害で荒れ果てた路面と、アスファルトを突き破る謎の樹木が乱立している。
そのため車、バイク、自転車は難しく徒歩での移動。
乱立した謎の樹木や大量の謎の草、ゴブリンとの遭遇も予想される。
祝福で上がった身体能力でも、どの程度時間がかかるかわからない。
そのため今回は、片道五時間を限度に行けるところまで進む。
物資を回収できなくても、情報を持って日帰りで帰還する。
飛行できる人だけで先行偵察してはどうか、と弟を含む偵察隊から提案はあった。
しかし、予期しない事態があった場合、すぐに救援が難しい。
今回はあまり離れ過ぎず、高い視点での偵察に留めてもらうことになっている。
相変わらず空は謎の眩しくない光で明るいが、時間の間隔も狂ってしまう。
時間管理も私たち本隊の担当なので、気が付いたら深夜だった! とかならないように気を付けないと……
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tips カントリーエレベーター
収穫した稲穂から玄米までの処理と貯蔵が可能なお米専用の倉庫施設。
籾殻が付いた「もみ」の状態で保管貯蔵、出荷する際に玄米に処理している。
他の倉庫は漢字で「〇〇倉庫」と表記されるが、カントリーエレベーターだけはカントリーエレベーターが正式名称。
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