第15話 問題の先送り
本日4話更新予定です。1話目。
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自衛隊の偵察班から得られた、絶望的な情報。
避難所に所属する各グループの意見を、まとめて背負った代表が集まり、今後の方針会議で暫定で一つのことが決まった。
「他に頼らず、この避難所の面々で生きる」
全員での大移動でも、個人やグループ単位でも長距離移動が困難なこと。
人口の多い場所では、モンスターの襲撃が激しいこと。
移動先でも保護されるか不透明など、理由を挙げれば切りがない。
救助や支援が望めないなら、全員が新たな祝福を得て、個人の生存力を高める。
その間に、またはその後に先のことを検討する。
問題の先送りではあるけれど、この避難所には私を筆頭にして、知識人が一人もいない。
強烈なリーダーシップで、集団をまとめられる人もいない。
無い物ねだりをしたってどうしようもない。個人や小グループの、寄せ集め集団として生きる。
個人やグループで強くなり、知り得た情報を集積共有し、今までのように代表を立てて検討する。
最低限のルールを守った、ゆるい互助組織。
そんな個人主義的な集まりは、途中で瓦解してどうしようもなくなるかもしれない。
それしか私たちに、生きる道がないとしても……
「……それしか生きる道がない……キリッ」
「おぉぉぉい! ハルカさん!? それはおれのマネか? マネだよな? そのケンカ買うぞ? お? お?」
絶望的な情報を得てから数日、どうやら私は妹にケンカを売られたようだ。いい度胸だ。買ってやるぞ? こんにゃろう……
「兄ちゃん落ち着けって。ハルとアカリも笑ってねぇで、ほら、ゴブリン来てんぞ」
「ぐぬっ」「はーい!」「うぃっす!」
妹が鉄パイプ、ヒムロさんはバールで、危なげなく複数のゴブリンを殴っている。
弟は空から周囲の警戒。
私は二人が囲まれないように、ゴブリンを蹴り転がしながらフォロー。
「兄ちゃんはさ、考えすぎなんじゃね?」
「……そうかもしれん。でもなぁ、先のことを考えるとどうにももどかしくてな」
「兄ちゃんたちがいろいろ考えてくれんのは、めっちゃ助かるけどさ。重りにはなりたくねぇのよ。おれもハルもアカリも」
「ありがとな。トウジ」
ちょうど最後のゴブリンを、ヒムロさんが殴り倒して戦闘は終了だ。
「うぇぇい! やったぜ、ハルぴ! ナイスパイプ!」
「うぇぇい! やったね、アカリちゃん! ナイスバール!」
ハイタッチする二人は楽しそうだけど、テンション上がりすぎじゃね?
その後も見回りを続ける。
トウジに言われて考えすぎないようにはしたいけど、どうにも先々のことに思考がよってしまう。
「たまには兄ちゃんも、なんも考えないでさ。ゴブリン全力でしばいて、気晴らししようぜ!」
「トっちいいこと言った! ハルぴハルぴ。アキっちまぁた難しい顔してんぜ」
「もう! アキトお兄ちゃん! 考えたってどうしようもないことなんて、いっぱいあるでしょ! お兄ちゃんたち、あんまり頭良くないんだから!」
「え? ハル? 兄ちゃんのせいで、おれに飛び火してんじゃねぇか!」
「トっちも、アキっちも、うちもあんま頭よくないんだから、考える前に動こうぜぃ。それが頭悪い組の仕事だ!」
「……そっか。そうだよな! 馬鹿の考え休むに似たりってな! じゃ、あそこのゴブリンはおれがいただく!」
「任せた兄ちゃん!」
「任せた兄ちゃんじゃないよ! トウジお兄ちゃん! あたしたち、まだ次の祝福もらってないんだから! あぁもう追い付けないってぇ」
「やっぱアキっちパねぇって……ゴブが吹っ飛んでっし。一撃じゃん……ねぇハルぴ、アキっちには、もうちょい悩んでもらってた方が良かったんじゃね?」
「アカリちゃん、あたしもね、今それ思った……」
「悩んでても吹っ切れても、兄ちゃんはめんどくさいからな」
後ろでなんか言っているけど、無視だ無視! ひさしぶりに全開で、ゴブリンをやってやる。
もともと私は、勉強ができる方じゃない。
「馬鹿の考え休むに似たり」って、ひっどい言葉だけど、昔の人は良いこと言ったな。
私にはぴったりだ。
「ふっ!」
最後のゴブリンを叩き潰して終了。
下手に苦しめず一撃で仕留めようとすると、どうしても力が入って疲れる。
でも、弟の言ったように全力で暴れるのもたしかに気晴らしになる。
思えば救助がないのも、支援がないのも、私たちだけで生きるのだって、災害後ずっとやってきたことで、今更だわな。
自宅拠点に戻ると、両親に顔つきが戻ったと言われたことで、皆に心配をかけていたこともわかった。
いろいろ吹っ切れた翌日の午後、避難所から戻った父が一言。
「農協の倉庫へ、食料確保の遠征が提案されたよ」
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tips 農協の倉庫
農業協同組合には用途によって様々な倉庫がある。
作物の保管に適する低温倉庫、集積配送を行う物流倉庫、農業用機械を保管する農業倉庫、米に関する設備の整ったカントリーエレベーターなどが存在する。
広大な田畑の中に不釣り合いに巨大な施設が鎮座していたら、ほぼ農協の倉庫と思っていい。
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