第11話 鬼退治に行ってくるよ

「アキト、トウジ、ハルカ、ヒムロさん、カノさん。祝福の検証を一旦止めて、私とナツコの話を聞いてくれるかい?」


「アキトだけではなく全員が新しい祝福を得ることができれば、より安全になるはずです。

 これからお話しすることで、皆さんも気が付くことがあれば教えてください」


 はしゃいでいた私たち五人とは対称的に、深刻な表情をした両親。

 何事かと両親のもとに、全員が集まったのだけど……


「以前の常識からは考えられない力を、皆もはっきりわかったよね。……私とナツコは、その力の意味を考えていたんだ。

 悲観的過ぎるのかもしれないけど、皆も一緒に考えてほしい……」


 両親がお互いの考えを擦り合わせるように話す内容は、とても聞き流して楽観できるようなものではなかった。


 新たな祝福で得られた「格納」という非常識な現象と、身体能力の上昇には意味があるかもしれない。

 新たな祝福を、全員が得られるかもしれない。


 しかし、それほどの力が日常的に必要になるとしたら、今後何が起きるかわからない。

 もしかしたら、すでに知らない所で重大な異変が起きているのかもしれない。


 あの始まりの地震以降、自然環境から個人の体にいたる全てが、以前の常識では理解できないことが多すぎる。


 海や野性の動植物も含めた地球上の全てに、同じような異変が起きていても不思議ではない。

 地球が人間だけを、優遇するなんてあり得るのか。


 皆が「始まりの祝福」と、同時に受け取った地球からのメッセージ。

 繰り返されるように伝わる、「生きろ」という激励。

 地球が祝福を与えてまで「生きろ」と言う現象が、この程度で終わるのか。

 

 そのためにも、早急に自宅拠点にいる全員、できることなら避難所にいる全員が、新たな祝福を得る必要がある。


「……といったところだろうか、ナツコ。改めて意見を交わしてみると、私は目眩がしそうだよ……」


「シロウさん。私は、私たちは限界の生活をしている、と思っていましたが……のんびりしていたのかもしれません」


 両親の意見交換を聞いていた私の、危機感が膨れ上がっていく。

 弟も、妹も、カノさんも、ヒムロさんも絶句しているから、同じく危機感を募らせているんだろう。


「……父さん、避難所でおれみたいに、新しい祝福を得たって話は出てた?」


「いや、今日の意見交換でも出てはいなかったよ」


「シロウさんとトウジ、他の見回り組の方々も近く得るでしょうけど……今から避難所へ伝えに行きますか?」


「母ちゃん、今からおれと父ちゃんが、晩飯までゴブリンを倒してきてさ。力を得られるか、確認してからでもいい?」


「お母さん、トウジお兄ちゃんの意見にあたしも賛成。もしかしたら、アキトお兄ちゃんだけかもしれないし」


「ハルカちゃんもそう思った? ナツコさん、もしアキトお兄さんだけだったら、避難所からアキトお兄さんが、離れられなくなるかもしれません」


「ミラぴ! それ! うちもそれ思った! 避難所の番人になってくれ! ってありそうだよね」


「ああ、参った。その可能性もあるかぁ……ナツコ。トウジと鬼退治に行ってくるよ。今日中に無理なら、明日の午前も鬼退治だ」


「ええ、私も焦っていたみたいです。シロウさん、気を付けて。無理はしないでくださいね」


「父さん母さん、おれも二人のフォローに行くよ」


「アキト、頼りにしてるよ」


 女性陣に激励をもらって、改めてゴブリン退治に出る。

 討伐数は父も弟も私も大差はなかったから、新たな祝福を得られるなら、時間はかからないはずだ。


 まずは弟に集中して倒してもらうことにして、父と私でフォロー、次に父となった。


 幸い私だけが新たな祝福を得るなんてことにはならず、ゴブリン退治に出て二時間ほどで、父と弟も新たな祝福を得ることができた。


 前々から思ってはいたけど、ゴブリンが少し増えている。

 母が言っていたように、早めに全員が新たな祝福を得た方がいい。


 父の祝福は「防壁」、弟の祝福は「飛行」。私と同じく二人も「身体強化 二」を得ることができたから、「身体強化 二」は共通しているのかもしれない。



――――

tips 避難所の代表者達

 各世帯やグループから代表となった者10名。避難所に対する決定権や支配権はなく、本人たちもそのつもりはない。

 主に情報の集積や共有、たまに行動指針を話し合っている。

 初期は「全員で話し合いを」となっていたが、収集がつかないので各グループから代表を出すことになった。シキ・シロウも代表の一人。

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